人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが6月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが6月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

―今回の「先月の肉トーク」テーマ―

第384話 地獄の砂団子!!の巻(6月6日分)
第385話 鉾(ほこ)×盾、矛盾の張り合い!!の巻(6月13日分)
第386話 はぐれ悪魔の決断!!の巻(6月20日分)
あらすじ
超人vs超神のバベルの塔決戦は第4戦。超人側ははぐれ悪魔超人コンビ(アシュラマン&サンシャイン組)。超神側がモデスティーズ(ザ・ナチュラル&ザ・バーザーカー組)のタッグマッチとなった。協力技を繰り出すアシュラマンとサンシャインを襲う試練とは......!?

●アシュラマンを支え続けるサンシャインの価値

燃え殻(以下、 昔、タイルマンっていたじゃない?

爪切男(以下、 ああ、いましたね。

 ああいう巨大な、キワモノっぽい超人の中で、活躍目覚ましいのって、サンシャインぐらいだよね。

 そうかもしれない、これだけデカい超人では。

 で、サンシャインってキワモノなんだけど、いつもスゴく感動的なことを言う。

 いいセリフ、多いですよね。第386話でもアシュラマンに「とっておきの技で......オレごと殺れ」「それをやるのがアシュラマン......オレたち悪魔の友情じゃないのか?」と。前回燃え殻さんが予想した「俺ごと刈れ!」、橋本真也が小川直也に言ったセリフが出てきました。

 あのへんのプロレスネタって、マンガに使えるんだね。やっぱり橋本真也ってスゴい(*ゆでたまご先生が、ここから引用したかは不明)。

 なかなか日常生活で、「俺ごと刈れ!」って、思ってても言えないですからね。

 言えないよ(笑)。そんな日常生活、普通ないから。

 しかし、サンシャインって、いろんな技も含めて、スゴく使い勝手がいいし、裏切らないし、いてくれると助かりますね。

 うん。でも、アシュラマンとサンシャインのこの試合のテーマがなんなのか、ほかの試合と比べると、まだわかりづらいじゃない? 超人の欠落とかトラウマの克服が、これまでの試合のテーマだった。とすると、アシュラマンの欠落ってなんなんだろう? サンシャイン、もう死にそうじゃない? だから、サンシャインの死から、それがわかるのかもしれないけど。

 そうですね。サンシャイン、完璧にアシュラマンの盾になって、自分の身を挺しても勝つぞ、っていう。サンシャインが死ぬことで、アシュラマンの何かの欠落が埋まって、大覚醒が起きるのか?

 アシュラマン、何が覚醒してないんだろう? とにかく、この第386話の終わり方だと、サンシャイン、死にそうだもんね。

 これがサンシャインの最後の闘いになるのは、とても寂しいなあ......。

 でも、このシリーズの闘いって、超人たちがひと皮むけるために、神様が天界から降りてきて、体を張って闘っている感じが、今までずっとしていたんだけど。

 そうですね。

 でも今回、サンシャインが死んだら、「あ、それじゃないんだ?」っていうことになるよね。サンシャイン、ひと皮むける必要ないからさ。だからサンシャインが死んだら、試合で試練に打ち勝つことで真の超人になれる、という話ではなかったことになる。そうすると、超神と超人は、今、本当の殺し合いをしていることになるよね。それだと、今後の展開がわからない。

 それはそうですね。

燃 それに俺、正直、超人側が全員勝つと思ってたから。「あ、負けるんかい!」っていう。ほんと、サンシャインの死って、何を意味するんだろう?

爪 結局、サンシャインは一度もアシュラマンの上に行こうとはしなかった。そこがスゴいなと思いますけど、ずっと支えて終わりそうだなあ。

 そうだねえ。

 プロレスだと、藤波辰爾と木村健悟も、木村が「俺はいつまでも藤波の引き立て役じゃない!」って、シングルマッチをやったりとか。

 有名なやつで言うと、長州力の藤波への「俺はおまえの噛ませ犬じゃない」とかね。

 コンビってそういうふうになるのが定石なんですけど、アシュラマンとサンシャインは、ロード・ウォリアーズ(*1983年、アメリカでホーク・ウォリアーとアニマル・ウォリアーによって結成されたタッグチーム)みたいな感じでしたね。

 そうね、ずっとアニマルが陰で支えてね。

 仲たがいしない。

 でも、この前『キン肉マン』を読み直してたら、バッファローマンとスプリングマンがタッグを組んだ闘いで、スプリングマンがボロボロになるシーンが出てきてさあ(JC12巻vsキン肉マン&モンゴルマン組)。ゆでたまご先生の中で、圧倒的なリーダーとサブキャラっていうのは、徹底して分けてるんだな、と思った。スプリングマンとかサンシャインみたいなサポートのキャラは、キワモノなんだよね。人間のような体はしていないし。

 ああ、確かに。

 彼らが身を挺してリーダーを守る、みたいな構図が、毎試合繰り返される。今回のアシュラマンとサンシャインも、『キン肉マン』的ストーリーの中の王道なのかもしれない。ゆでたまご先生の大好きなパターンというか。

 それはそうですね。

燃 あと、スプリングマンみたいなキワモノ超人って、登場当初こそギャグみたいだったじゃない? でも、それが闘っている間に、ウルフマンをボコボコにしたりして、怖くなってくる。最初はナメられてたキャラを、「怖え!」っていうところまで育てていくのが、ゆでたまご先生、うまいよね。サンシャインも、爪さんがよく言うように、アシュラマンの陰のお母さんというか。

 もちろん、格はアシュラマンが上ですけど、サンシャインには母性すら感じますよね。

●『キン肉マン』の王道にキワモノ超人必須!?

 サンシャインは、キワモノ超人の悲しみをすべて背負い、そして砂になって死ぬのかな、みたいな。だから今回、ゆでたまご先生的な『キン肉マン』の世界の王道試合を見ているな、という感じがする。例えば、スプリングマンも、感電させられてとか、ターボメンに硬化させられて、ボロボロになって死んじゃったりとか壮絶なやられ方をするじゃない?

 うん、ひどい目に遭う。

 でも、造形がおもしろいから、そんなに残酷に見えないんだよね。スプリングマンもサンシャインも、けっこうエグめなやられ方なんだけど、残酷描写にならないっていうか。これがほかのマンガだと、マジで痛い感じになるけど。

 ああ、そうですね。

燃 これ、本当のプロレスだとできないじゃない? 大日本プロレスのデスマッチとか、残酷で、見ていて痛いから。俺と爪さんは、それを一緒に見に行くけど。

 そうですよね(笑)。

 同じこと以上のグロさが表現されているんだけど、『キン肉マン』だと見られるんだよね。それって、超人たちの見事な造形に理由があるんだと思う。その最高峰が、サンシャインの造形だったりするのかな。

 でも初期の頃、ラーメンマンがキャメルクラッチで、ブロッケンマンの上半身をもぎ取っちゃったこと、あったじゃないですか(JC3巻)。あの頃ってまだ、生々しかったですよね。

 あのシーンは確かにね。あの頃の『キン肉マン』は、まだそこに対応できてなかったんだね。そこからどんどん進化して、「7人の悪魔超人編」の頃から......みんなひどい目に遭うじゃない? でも、あの頃から、小学生でも見られるものになったというか。

 ミートくんがバラバラになってますからね。ホラー的描写ですよ、首がないミートくんがプルプル歩いてたり。

 そう、ある意味スゴいよね。

 燃え殻さんの言うとおり、『キン肉マン』のポップさですよね、それが許されるのは。

 マジで、マーベル映画にもないポップさがあるよね。

 「夢の超人タッグ編」で、ヘル・ミッショネルズに立ち向かったキン肉マンの腕が、クロス・ボンバーでちょん切れたとき(JC21巻)、周りの子供みんな、キンケシの腕を切ってましたからね。

 俺も切ったよ! 俺、テリーマンの両腕も切ったもん。でも今回、サンシャイン、口から血を吐くけど、それぐらいだったね。

爪 サンシャインは、読者にダメージが伝わりにくいですよね。

 そう、そこがいいのかな。キン肉バスターは、DDTのレスラーがマネできても、サンシャインのはできないもんね。そういう意味で、やっぱりマンガでしかできない表現で技を描いているから、安心して見られるというか。

 そうですよね。第386話の最後のコマの技、「竜巻砂塵地獄」もカッコいいもんなあ。 

 カッコいい、プラス、そこに「*危険ですからマネしないでください」っていう注釈は当然ないじゃない? それがなしで、カッコよくて、ちゃんとプロレスの試合をやってるって、WWEじゃできないことだよね。そういう意味では、本当に『キン肉マン』の王道の試合だね。『キン肉マン』のタッグ戦って、昔から名勝負が多かったし、当時スゴい人気だった「夢の超人タッグ編」の頃の試合が再現されている感じ。

 ほんとにそうですね。

●アシュラマンとサンシャインという奇跡

 しかし、このままサンシャインがいなくなってしまうことになると思うと寂しいですね。死亡フラグが立っているけど、俺はまだサンシャインの闘いが見たい。やっぱりいいコンビですよ。よくこのふたりを組ませたな、ゆでたまご先生は。

 飛び道具と固め技も含めて、バランスもいい。いい意味でマンガ的なんだよね。

 小学校のとき、友達同士で、悪魔超人でコンビを組ませて遊んでるときって、アシュラマンとザ・ニンジャとか、カッコいいキャラ同士を組ませてた。子供の発想だと、そうなるんですよね。でも、ゆでたまご先生は、アシュラマンをサンシャインと組ませたのが、スゴいことだなと思います。

 死亡フラグが立っているのも含めて、王道のいい試合というか。そこまで含めて......プロレスを見ていて、「ああ、この流れはもう終わる」って思うとき、あるじゃない? その「終わる」っていう感じは、何試合も見ているからわかる。その意味で、アシュラマンとサンシャインの試合も、自分たちの中で記憶に残ってる試合がいくつかあって、だから「あ、この展開は、試合の結末が近いぞ」ってわかる。というぐらい、『キン肉マン』的な世界観での、王道のチームだったんだな、ってあらためてわかる。スゴくいい試合だね。

 しかし、サンシャインがいなくなると寂しいなあ。デカくて変な形の超人、今出ているメンバーにはいないですもんね。

 ああ、そうか。出ていないメンバーにはたくさんいるのに、そういう超人。マーベル映画みたいな感じで、これから誰か、新たに参加したりしないかなあ(笑)。

燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は『それでも日々はつづくから』(新潮社)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)は、Huluにて配信中。9月14日よりDisney+にて阿部寛主演でドラマ『すべて忘れてしまうから』が配信予定

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。Webサイト『よみタイ』(集英社)にて、連載コラム『午前三時の化粧水』がスタート

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