『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

今回は初の長編映画監督デビュー作『激怒』が全国公開中の高橋ヨシキさんが登場。週プレの映画コラム連載陣による、読み応え抜群のスペシャル対談です!

■幼少期から映画の"裏側"に興味を持っていた

――映画に造詣の深いヨシキさんですが、そもそも原体験はどんなものだったのでしょうか?

高橋 最初に映画館で映画を見たのは3歳のときで、『ダンボ』(1954年)のリバイバルです。『メリー・ポピンズ』(1965年)のリバイバルにも連れていってもらいました。

8歳のときに見た『遠すぎた橋』(1977年)には衝撃を受けました。リチャード・アッテンボロー監督作品で、「マーケット・ガーデン作戦」という、第2次世界大戦後期に行なわれた連合軍の空挺(くうてい)作戦を描いた映画なんですが、物量がものすごくて。大量の戦車が登場し、無数の人がパラシュートで降下するスペクタクルに圧倒されました。「映画のためだけにここまでやるのか......」と信じられない思いでした。

そのパンフレットを読んでいたら、爆破担当の人がいることを知って、「そんな面白い職業があるんだ!」と思ったのをよく覚えています。

――僕はヨシキさんとほぼ同い年なんですが、当時、僕はアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)や『機動戦士ガンダム』(1979年)に夢中でした。そちらのほうに興味は持たれなかったんですか?

高橋 親がけっこう厳しくて、あんまりマンガやアニメを見せてもらえなかったんですよ。だからこそ、映画館に行けるのが特別な体験として心に刻み込まれたということはあるかもしれません。

――そういう背景があったんですね。爆破担当に憧れたとのことでしたが、それはつまり、ストーリーよりも演出などの裏側の部分に興味を持ったということですか?

高橋 究極の「ごっこ遊び」だと思ったんですよね。同じ頃、『キンダーブック』という子供向けの雑誌に、テレビ局の舞台裏を描いた記事を見つけたんです。そこには「雪は作り物だし、石も発泡スチロールだよ」みたいなことが書いてあって、それにも感動しました。そういうことを知りたい子供だったんですよ。

そんなタイミングで出合ったのが『スター・ウォーズ』(1977年~)シリーズで、映画の特殊効果に多大な興味を持つようになったきっかけです。おっしゃるとおり、映画の技術面には昔から興味があったんだと思います。

その後訪れたSFX(特殊撮影、特殊効果)ブームの影響も大きかったです。僕が高校生の頃に東京国際ファンタスティック映画祭が始まって、SFXを駆使した作品や、スプラッター映画が大流行した時期です。

――スプラッター作品だと、例えばどんなものが印象に残っています?

高橋 定番ですが、『死霊のはらわた』(1985年)と『13日の金曜日』(1980年)が大きかったです。『13日...』で特殊メイクを担当したトム・サヴィーニが書いた『Grande Illusions』という本があって、彼が手がけた映画の特殊メイクの舞台裏が事細かに載っているんですが、これは僕が最初から最後まで読み通した初めての洋書です。

――初の洋書読破がその本なんですね(笑)。

高橋 ほかにも『ドリラー・キラー』(1979年)や『食人族』(1983年)、『遊星からの物体X』(1982年)に『ヴィデオドローム』(1985年)......数え上げたらきりがないですね(笑)。

――お話を伺っていると、どちらかというと、幼少期は映画の持つストーリー性よりも特殊効果や演出に興味があったようですが、見る映画の範囲が広がった経緯は?

高橋 父は昭和ひと桁の生まれで、娯楽の王道が映画だった時代に青春を過ごしている人なんですが、特殊効果に夢中だった当時の僕に「言っておくけど、本当に面白い映画っていうのは2種類しかないんだぞ。戦争映画と西部劇だ」と言ってきたことがあって。それは強烈に覚えています。

そんな父と一緒にテレビで西部劇を見るうちに、だんだんとドラマにも興味を持つようになったんだと思います。考えてみると、父の言うとおりなんですよね。『スター・ウォーズ』だってまさに戦争映画と西部劇の要素でできているわけで。

■長編監督デビューはまさかの刑事モノ

――ヨシキさんにとっての長編監督デビュー作『激怒 RAGEAHOLIC』が現在公開中です。

暴力団を一掃した功労者だったものの、強引な捜査手法から海外に送られ、数年後に戻ってきた中年の刑事・深間が主人公。すっかり「安全・安心なまち」になっていたが、そこには秘密があり......という内容の本作ですが、撮ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

高橋 「長編をやりたいな」という気持ちは、以前からずっとありました。これまでスピンオフ作品などで短編を撮ることはあっても、長編のチャンスは全然なくて。プロットや脚本を出したことも何度もありますが、どうにも実現しない。

――企画を通すって難しいですもんね。

高橋 「なんとしてでもやることにしないと、チャンスを待っていてもダメだ。そんなものは来ないんだから」と思ったのが5年前でした。

また、友人のテッド・ゲイガン監督の言葉も大きかった。最初は短編でもいいだろうと思っていたんです。しかし、テッドにメールで相談したら、「絶対に長編をやるべきだ。名刺代わりになるのは長編だ」とアドバイスしてくれたんです。

――本作は刑事モノですが、ヨシキさんのイメージとは異なるジャンルですよね。

高橋 最初、主演の川瀬陽太さんに話を持っていったときに「そういうイメージに寄せていってもあまりいい結果にならないんじゃないか。そうではない(ホラー以外の)ジャンル、例えば刑事モノにしてみるのはどうか」という話が出たんです。

で、それもそのとおりだと思ったんです。好きなジャンルに耽溺(たんでき)しているだけではダメだと。それに、刑事モノという受け皿には、ほかの要素をいくらでも詰め込める余地がある。ホラーにも、アクションにも、人間ドラマにもできるんです。実際、『激怒』には過去に実現しなかった企画のアイデアがいくつも盛り込まれています。

――過去の努力は無駄にならなかったと。実は僕、バイオレンス系の映画はもともと苦手なタイプなんですが、本作は最後まで楽しく見れちゃいました。ほかの作品と何が違うのかなって考えたんですが、キャラが魅力的なんですよね。だから、彼らの行動原理を知りたくなってしまう。あとは無駄なシーンがなく、一切ダレてないのもよかったです。

高橋 バイオレンス描写については初期の段階から決めていたことがいくつかあって。例えば、「フェティシズムで撮らないようにしよう」というのはそのひとつです。フェティシズムに振り切った作品の中にも面白いものは当然あります。

ただ、美学的な側面、例えば「残酷」が目的化してしまうのは良くないだろうと。物語が必要とするものとフェティシズムの対象は別物なので、そこはバランスを大事にしていましたね。

――実際、映画の尺的にもちょうど100分ですもんね。監督が自分の美学に浸っていないからこそ、非常にテンポよくまとまっているし、何よりも映画の見せ方を熟知されているなと感じました。

高橋 テンポは難しいですよね(笑)。だからそう言っていただけるとうれしいです。あと、バイオレンスに関しては、これも川瀬さんと「泥くさくやろう」と言っていて。

今は例えば、『ジョン・ウィック』(2015年)のような、流麗で演舞のようなアクションがすごい進化を遂げていますが、『激怒』のアクションはもっと泥くさい、ちょっと懐かしい感じの「殴り合い」にしたかった。

――今聞いて納得しました。あと、音楽もいいですよね。いい意味でほかの作品とは一線を画している印象です。

高橋 映画音楽を作曲家にお願いするときには、既存の音楽を仮につけてイメージを伝えることが一般的には多いかと思うんですが、今回はそれをしていません。

映画音楽って本当は何をやってもいいし、作曲家の方の解釈次第で意外性が生まれる余地がいくらでもあるはずだと。「コンヴェンショナルな(ありがちな)音楽にはしたくない」ということは最初からお伝えしていました。

――そういう積み重ねの結果、「高橋ヨシキならでは」な作品になっているんですね。あと、キャッチコピーの「俺は、お前らを殺す。」もすごく印象的です。

高橋 これは川瀬さんのアドリブです。

――そうだったんですね!

高橋 町内会の面々がなだれ込んで混乱状態になるシーンをリハーサルしていたときに生まれたひと言です。作品を象徴するセリフだと思うし、「本当にそうだな、脚本に書いてなくてすみません」と思いました(笑)。重要な転換となる場面であり、「ここで何か言わないとその後のアクションが始まらない」と、川瀬さんが深間を演じながら思ったんでしょうね。

――最後に、本作をどんな人に見てほしいでしょうか?

高橋 誰にでも見てほしいですが、特に若い人に見てほしい気持ちはあります。おじさんが頑張る話ですが、その気概や根性、反骨精神を感じ取ってもらいたいです。

●高橋ヨシキ
デザイナー、映画ライター。チャーチ・オブ・サタン公認サタニスト。雑誌『映画秘宝』でアートディレクションを手がける傍らライターも務める。また、『ヤッターマン』『悪魔のいけにえ』『ロード・オブ・セイラム』など、数多くの映画ポスター、DVDジャケットのデザインを担当。週プレでは『高橋ヨシキのニュー・ シネマ・インフェルノ』を連載中

■映画『激怒 RAGEAHOLIC』新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
© 映画『激怒』製作委員会

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