「12月は俺にとって縁起がいい月なんだ。『タイタニック』も『アバター』もこの月に公開したからな」と語るキャメロン監督「12月は俺にとって縁起がいい月なんだ。『タイタニック』も『アバター』もこの月に公開したからな」と語るキャメロン監督

12月10日、『アバター』シリーズの新作を引っ提げ、巨匠ジェームズ・キャメロン監督が10年ぶりに来日を果たした! しかし、その約2ヵ月前、誰よりも早く監督に直撃インタビューを実施した日本人がいた。『週刊プレイボーイ』の軍事記事などで活躍中の編集者・ライターの小峯隆生氏(62歳)だ。

「アバターへの出演」という10年以上にわたる願いを叶えるため、そして13年ぶりとなる続編のクリエイティブの現場を見るため、小峯氏は今年10月にニュージーランドへ飛んだ!

■すべては『アバター』に出演するために

まずは、俺(小峯隆生)とジム(ジェームズ・キャメロン監督)の"因縁"について、説明させてほしい。

1991年、本誌のインタビュー取材でジムとガンマニアとして意気投合した俺は、彼の代表作のひとつ『ターミネーター2』(92年)に、T-1000型(敵のターミネーター)に殺される日本人として約6秒だけ出演を果たした。

その流れで『トゥルーライズ』(94年)にも登場し、「この前はどうも」という日本語のセリフ付きで1分間出演。その後もジムとはたびたび交流していた。

2011年1月、アメリカ・ロサンゼルスに構えるジムのスタジオに招かれた俺は、彼からある"オファー"をされた。

ジェームズ・キャメロン(以下、キャメロン)タカーオ、『アバター2』(当時の仮称)に出演しないか? またすぐにぶっ殺してやるぞ。役柄は、パンドラ星(本編の舞台である惑星)で穴を掘る地質学の教授で、どうだ?

小峯隆生(以下、――)やるやる! 絶対やる! ちゃんと役作りする!

俺は有言実行の男だ。マジで役作りだけのために大学で働くことを決めて、なんとか非常勤講師として筑波大学で務め始める。その仕事は今も続けている。

17年9月、大学で教鞭(きょうべん)を執りながら「ソッコーで殺される教授」役のイメージを固めていた俺は、「『アバター2』の撮影がスタート」というニュースを耳にして、居ても立ってもいられず映画の製作が行なわれているスタジオへ向かった。だが、そこでジムから言い渡されたのは悲しい"方針転換"だった。

「物語がまったく違うものになったから、タカーオの出番はなくなった」

――聞いてないよ!

「今、言った」

だが、諦め切れない俺はなんとかジムから「アバター4に出そう」との言質を得たのだった。

そして22年6月、『アバター2』の公開日が決定(日米同時)、正式タイトルが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(以下、『アバターWoW』)と報じられ、全5部作の今後のスケジュールも明らかになった。

果たして俺は今後の『アバター』シリーズに出演できるのか? そして『アバターWoW』はどんな映画になるのか? 今年10月末に、ニュージーランドの首都ウェリントンのスタジオで、本作の最終段階の製作をしているジムに会いに行った!

小峯氏が『アバター』の続編についてキャメロン監督にインタビューするのは今回で3回目だ。その模様は2011年3月7日号(上)、2018年1月22日号(下)の本誌にそれぞれ掲載した。その間、約11年!小峯氏が『アバター』の続編についてキャメロン監督にインタビューするのは今回で3回目だ。その模様は2011年3月7日号(上)、2018年1月22日号(下)の本誌にそれぞれ掲載した。その間、約11年!

『週刊プレイボーイ』2018年1月22日号『週刊プレイボーイ』2018年1月22日号

■約5年ぶりの再会

ウェリントン空港に到着すると、スタッフの大男が出迎える。

「タカーオ、コロナチェックだ」

両鼻に綿棒を突っ込んで取り出した検体を、液体が入った小瓶に入れて振る。

「OKだ。ジムと会えるぞ」

もし陽性だったら会えなかったの?

「ああ。リモートで話をしてもらうことになっていたよ」

大男は笑う。そうなったら海の果てまで来た意味がねー。

レンタカーで現地まで移動すると、スタジオの入り口で大男が、「タカーオ、マスクオン」とひと言。

中に入ると、あちらこちらに「マスクを常にすること、会話は1m離れて」との感染予防を促すポスターが張ってある。ウェリントン市内では誰もマスクはしていなかったが、スタジオ内は日本と同じような光景が広がっていた。

スタジオ見学をした後、ジムと約5年ぶりの再会を果たす。

「30年来の親友」であるキャメロン監督(左)と小峯氏(右)。中央はナヴィの模型「30年来の親友」であるキャメロン監督(左)と小峯氏(右)。中央はナヴィの模型

「タカーオ」

――ヘイ、ジム!

グータッチ、エルボータッチのコロナ挨拶。

「今も空手はやっているか?」

――シャドウトレーニングは仕事場でやっている。

「俺は今、タイ武術を学んでいる。こんな感じだ」

ジムがパンチ、キック、エルボーを繰り出し、俺はそれを必死に防御するが、さばき切れない。彼はタイから呼んだスゲー武術トレーナーの下で日々鍛錬しているらしく、68歳とは思えない強さだ。

取材中、ジムは時々格闘シーンの研究のため俺と組み手をした。そのたびに俺はバキバキに峰打ちを食らったのだった。

■高齢の大女優が"少女"を演じる

スタジオの最奥部にあるジムの私室でインタビューが始まった。彼は部屋に飾ってあった若いナヴィ(パンドラの先住民)の模型を手に取った。

「この14歳の役を演じるのはシガーニー・ウィーバーだ」

――でも、シガーニーさんって確か70歳を超えているでしょう?(編集部注:現在73歳)

「そうさ。でもシガーニーなら素晴らしい演技で応えてくれると思ったんだ。彼女に出演オファーをしたとき、『デジタル技術を駆使すれば、どんな年齢のキャラでも演じられるんだ』って言ったよ。それが、彼女のチャレンジ精神に火をつけたのさ」

73歳のシガーニー・ウィーバーが演じる14歳のナヴィの少女キリ73歳のシガーニー・ウィーバーが演じる14歳のナヴィの少女キリ

――映画は3Dデジタル全盛になっても、最後は生身の俳優の演技力がすべてを決めるってことだね。

「あと、『タイタニック』のケイト・ウィンスレットも出ているぞ。これを見てみろ」

そう言って、ジムはモニターに映像を呼び出した。ケイト・ウィンスレットとシガーニー・ウィーバーが演じるナヴィがふたり並ぶシーンだった。

「映像では同じような背丈だが、ウィンスレットよりシガーニーははるかに背が高いんだ(編集部注:ケイト・ウィンスレットは169㎝、シガーニー・ウィーバーは182㎝)。

実際の演技ではウィンスレットがシガーニーを見上げる形になるが、映像ではふたりの身長を同じくらいにして、目の動きも同じ高さに調整している。これらすべてデジタルで処理をしているんだ」

――スゲェ。

■"ゲームレベル"と"映画レベル"

――前作の公開は09年だったけど、『アバター』シリーズはかなり長期間のプロジェクトになったね。

「95年に『アバター』を思いついたが、技術的に実現できなかった。だから、96年から先に『タイタニック』を撮ったんだ。それから8年して、アバターが撮れる技術環境が整ったことで撮り始めて、09年の公開となった」

――『アバターWoW』は、もともと20年に公開予定って聞いていたけど、それを22年12月まで延期したのは、やっぱりコロナのせい?

「それもある。ただな、12月公開は俺にとって縁起がいい。『アバター』が09年12月18日、『タイタニック』が、97年12月19日の公開だからな」

――どちらも歴史に残る大ヒットだったよね。そういえば、前に取材したとき(17年)はLAで撮影していたのに、なぜ今はニュージーランドに?

「タカーオがLAのスタジオで見た映像は、まだ"ゲームレベル"の品質だった。それを"映画レベル"の品質に引き上げられるのは、『ホビット』『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督が作ったスタジオ『WETA FX』の力を借りる必要があったんだ」

――「ゲームレベルを映画レベルにする」って具体的には?

「まずは『手先のリアリティ』だな。銃や弓矢といった道具を手で握る際の繊細な表現は"ゲームレベル"では実現できない。それから、目の表情、正しい視線方向、表情の変化に伴う眉毛、耳の動き。

さらにはセリフと唇の動きを完璧にシンクロさせなければいけない。ほかにも風や水、頭の動きに伴う髪の毛の動きもだ。それらがすべて滑らかに連動することによって、初めて"映画レベル"の映像になるんだ」

「ウェイ・オブ・ウォーター」というタイトルどおり、キーとなる「水」の表現でも、ふんだんに最新のデジタル技術が使われている。 「タカーオ、この映画にいくつもの水の表現が出てくる。水上を高速で移動するボートで乗組員にかかる水は本物の水だ。しかし、それ以外はすべて『デジタルウオーター』なんだ」(キャメロン監督)「ウェイ・オブ・ウォーター」というタイトルどおり、キーとなる「水」の表現でも、ふんだんに最新のデジタル技術が使われている。 「タカーオ、この映画にいくつもの水の表現が出てくる。水上を高速で移動するボートで乗組員にかかる水は本物の水だ。しかし、それ以外はすべて『デジタルウオーター』なんだ」(キャメロン監督)

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

■小峯氏に与えられたセリフは......

――ところで、『アバター』のとき、ジムは「これからは『3DフルCG映画(*)の時代になるぜ』って言っていたけど、実際にそーなったと思う? (*2009年公開の『アバター』は、専用のメガネを装着して、映像を立体的に見せる「3D映画」の火つけ役だった。キャラクターやオブジェクトがその場にいるかのような体験は、その後の映画やゲームの映像に大きな影響を与えた)

「3Dに対応したIMAXシアターは世界に数千ヵ所、増えたよな」

――確かに。3Dどころか、「MX4D」みたいに、ディズニーランドのアトラクションばりに座席が動いたり、霧、水しぶきが出て、ニオイも嗅げたりするスクリーンも増えてきたよね。

「それは知っているけど、好きではないな」

――映画以外によけいなことをするな、映画を見せて、画面とサウンドだけで感動させろ!つーことですか?

「そのとおりだ、タカーオ(笑)」

――ただ、ゲームはVRなんかが出てきて、より"リアルな体験"を求めるようになったよね。

「ゲームと映画は違う。わかっているだろ?」

――ゲームはプレイヤーの数だけストーリーがある。しかし、映画のストーリーはひとつ。それに感動させるのが映画ってこと?

「そのとおりだ。タカーオ、進化したな」

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

――はい。ところで5年前のLAで、ジムは俺を「瞬殺される宇宙飛行士」役として『アバター4』(26年公開予定)に出してくれるって言ったよね。俺はそのときから、星の出た夜は空を見上げて宇宙飛行士のイメトレをずっと続けている。

「ああ、宇宙船のシーンは『アバター5』(28年公開予定)になったぞ」

――聞いてない!

「今、言った」

――また何年も待たされることになるのかー!

「安心しろ、タカーオ。おまえを『アバター3』(24年公開予定)でぶっ殺してやる」

――え!? もしかして、教授役で殺してくれる? 筑波大の非常勤講師の仕事は10年以上やっているから、役作りは完璧ですよ!

「それはいらない。銃を持ったバッドガイになってもらおう」

――それなら30年前からできるのであります。

「そうだよな(笑)」

――3分ぐらい出してくれる? ほら「アバター"3"」だし!

「NO」

――3秒?

「NO、2秒だ!」

――2秒!! セリフはある?

「セリフは『AU』だ」

――????

「『アッ!』(A)と敵に気がついて、そいつにぶっ殺されて『ウッ!』(U)となる!」

――では何で殺(や)られるのでありますか? 最新の秘密兵器ですか?

「弓矢か槍だ。撮影は来年な」

――じゃあさ、アバター3の正式タイトルは『アバター:カオ・コミーネ』にしようぜ。

「何を言っているんだ?」

――オススメです。

「いらない(笑)」

■キャメロン監督のクリエイティブの現場

俺は数日、朝から晩までスタジオに入り浸っていたが、その中で、ある定例の"儀式"を目撃した。

ジムの私室の隣にある薄暗い部屋(俺は勝手に"洞窟部屋"と名づけた)で短パンTシャツ素足の男(洞窟番)がいつも何かしている。時刻はだいたい夕方の6時。ジムに「ついてこい」と手招きされ、洞窟部屋に入った。

「タカーオ、そこに座れ」

ジムの左斜め後ろに座る。室内にはいくつものスクリーンがあった。そこに10人ほどのスタッフが映っている。こういう光景は、大学でのリモート授業で見慣れていた。ただ、モニターに映っているのはトップクラスのデジタルアーティストたちだ。

洞窟番 全員、オンラインで待機しています。

キャメロン じゃ、始めようか。最初はトム(仮名、以下同)。

トムが担当しているシーンが、モニターに映る。

キャメロン いい感じだ、これでいい。

画面のトムの表情に安心感がにじむ。

ナヴィとして親の立場になった「元地球人」のジェイク(左)。人類の魔の手から家族を守ることができるのかナヴィとして親の立場になった「元地球人」のジェイク(左)。人類の魔の手から家族を守ることができるのか

キャメロン よし、次は、ジェリー。ここは、背景が明るいからアバターの顔と体の右側をもう少し、明るく変えてくれ......そうだ、この感じ。よし、次は、ワイリー。

ワイリーの作ったアクションシーンが映る。

キャメロン これはダメだ。

待機画面にいるデジタルアーティストたちの顔が一斉に曇り、洞窟部屋の緊張が高まった。

キャメロン このとき、発砲した銃弾はこっちに。さらにここ。そして、こちら側にこうだろう。

ジムがタッチペンで、その場所を指摘する。

ワイリー わかりました。

ワイリーは画面からすぐに消える。しばらくたった後、洞窟番が言う。

洞窟番 ジム、ワイリーから新バージョンのアクションを作ったとの連絡がありました。

キャメロン 見せてくれ。

モニターにアクションシーンが映る。弾着箇所がジムの指定された位置に来ている。

キャメロン ワイリー、短時間でよくやった。場所もタイミングも完璧だ。

画面上のワイリーは、安堵(あんど)の表情を浮かべた。

こうして、リモート会議は終わった。俺はジムに疑問をぶつけてみた。

――何人ぐらいが働いているの?

「デジタル関係は2000人だ。そのうち、15人は日本人だぜ」

――まさにデジタルの巨大ピラミッドを構築している感じじゃん。

「そのとおりだ」

■巨匠、来たる

ある日、ジムは劇場並みの大きさの試写室でシーンの細かい調整を行なっていた。

「よし、通して見てみようぜ」

ジムはそう言うと、客席に消えた。シーンの上映が終わると、地下からジムが現れる。

シーンナンバーの3桁の数字をひとつずつ挙げながら、問題点を指摘して、改善を指示。瞬時にエンジニアがそれに応える。ジムは客席に消える。そして、再映。これを何度も繰り返していた。

ジムが上がってくる。そして全体を見渡してこう言った。

「よし、これでいい」

スタッフの緊張が一瞬で解ける。拍手はなかったが、エンジニアたちはお互いに笑みを浮かべていた。

そのとき、ジムが俺のほうに突然振り向いた。

「タカーオ、12月に日本に行くぞ」

なぜか、今度は俺が緊張し始めた。

キャメロン監督(右)と『アバター3』出演の口約束的なものを交わした小峯氏(左)。10年以上にわたる願いが、ついに実現するか!?キャメロン監督(右)と『アバター3』出演の口約束的なものを交わした小峯氏(左)。10年以上にわたる願いが、ついに実現するか!?

●ジェームズ・キャメロン(James CAMERON)
1954年生まれ、カナダ出身。映画監督、脚本家、映画プロデューサー。81年『殺人魚フライングキラー』で監督デビューすると、84年の監督作『ターミネーター』が大ヒット。以降も『エイリアン2』(86年)、『ターミネーター2』(91年)、『トゥルーライズ』(94年)と傑作を生む。アカデミー賞11部門を受賞の『タイタニック』(97年)や世界歴代興行収入で1位を記録した『アバター』(2009年)など最も稼ぐ映画監督として世界中にその名をとどろかせている

■世界最強ヒット作品の13年ぶりの続編!
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
12月16日(金)日米同時公開
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
【監督】ジェームズ・キャメロン
【出演】サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガーニー・ウィーバー、ケイト・ウィンスレットほか
【上映時間】192分
2009年に公開され、革新的な3D映像で全世界興行収入歴代1位となったギガヒット作『アバター』の約13年ぶりとなる続編。前作から15年が経過した惑星パンドラ。先住民ナヴィの姿(アバター)を借り、現地で生きていくことを決意した、元海兵隊の地球人ジェイクは、ナヴィの女性ネイティリと結ばれた。ふたりは家族を築き子供たちと平和に暮らしていたが、再び地球人がパンドラに現れたことで、その生活は一変する――。