人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが1月の『キン肉マン』連載をレビュー!人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが1月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが昨年12月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

―今回の「先月の肉トーク」テーマ―

第402話 カメハメの起源!!の巻(1月3日分)
第403話 カメハメ師匠の教え!!の巻(1月15日分)
第404話 至高のバックドロップ!!の巻(1月22日分)
第405話 純然たる必"殺"技!の巻(1月29日分)
あらすじ

超神vs超人のバベルの塔第6戦は、キン肉マンvsマグニフィセント。キン肉マンの師匠であるプリンス・カメハメに似た闘い方をするマグニフィセントに大苦戦を強いられるが、慈悲の心のない技にバックドロップで応戦。ついに、火事場のクソ力を発動させる。

***

爪切男(以下、) キン肉マンとマグニフィセントの闘いの中心にあるのは、カメハメの教えだった、ということがわかりましたね。私の予想した「ミートくんからの卒業」は、なさそうですね。

燃え殻(以下、) ()。そうだね。

 でも、キン肉マンとマグニフィセント、スゴくバチバチに闘っていて。

 これまでの他の超人の闘いと違って、キン肉マンはシンプルだよね。久しぶりに『キン肉マン』の試合を観てるな、という感じがして、おもしろい。

 あと、「48の殺人技」っていうフレーズ、やっぱりいいですよね。殺人技だけど、相手への敬意がないとダメだ、マグニフィセントにはそれがない、という。

 キン肉マン曰く「お前の技には血が通っていない! 対戦相手への敬意がない! 命を奪うことに何ひとつ躊躇(ちゅうちょ)が感じられないーーーっ!(403)、というね。

 これ、今のプロレスラーにも聞いてほしい感じしますね。

 うん。秋山準の「プロレスやろうぜ」っていうのに近いかも。

 派手な技を出すだけじゃなく、相手への敬意がないとね。そう考えたら、鈴木みのるなんかは、繰り出す技と立ち振る舞いに説得力がありますよね。むちゃくちゃやってるようで、常に相手への敬意とプロレスへの愛があるからこそ、成り立っている。

 鈴木軍が解散して、鈴木みのるとエル・デスペラードがチームを作ったじゃない? 「ここにストロングスタイルがある」(*チーム名も「ストロングスタイル」)って。

 ああ、成田蓮が加わってね。

 あれ、このキン肉マンの闘いに近いよね。ストロングスタイルというか、魂の乗っかったプロレスの試合っていうか。

 それこそ猪木イズムですよね。いつ何時誰の挑戦も受ける、ってことは、結局は敬意じゃないですか。相手をバカにしない、俺は受けるよ、という。となると、カメハメは、猪木の師匠のカール・ゴッチか。

 ああ、カメハメはゴッチ的だね。

 キン肉マンが猪木だから。あと、印象的だったのは、ミートくんの発言。「いつ見てもやっぱり僕は 王子のこのバックドロップが 世界で一番大好きな技です!」(404)。ここ、胸熱でした。

 ああ、しびれたよね。

 これ、プロレスファンとしては、超シュートなことを言っているじゃないですか。キン肉マンだったら、普通、キン肉バスターか、キン肉ドライバーか、マッスル・スパークがいちばん好きです、って言うところを、ミートくんはすごくシュートなことを言う。

キン肉マンのバックドロップに魅せられたミートくんがバックドロップを決めたことも(JC25巻)キン肉マンのバックドロップに魅せられたミートくんがバックドロップを決めたことも(JC25巻)

 ほんとにそうだね。

 確かに、キン肉マンの言うように、マグニフィセントの技には、相手への敬意がないですよね。相手を叩きつぶすことしか考えてないから、観ていて引く。現実のプロレスでもあるじゃないですか。

 あるねえ。

 お客が引いてしまったら、それはプロレスじゃないから。子供の頃、「ファイヤープロレスリング」(プロレスゲーム)で対戦した時に、そこで懐がわかるというか。相手を完膚(かんぷ)なきまでに叩きのめす子もいるじゃないですか。でも、プロレスを知っていて、相手に敬意を持っていたら、やっぱり技をくらうじゃないですか、わざと。

 そう、いい試合にしたくなるんだよね。

 ファミスタでも、失投って感じで真ん中に投げちゃうことあるでしょ。相手の友達が明らかにつまんなそうにしてる、これはよくない、バレないように真ん中に投げよう、という。

 そうそう。あと、キン肉マンのほうの技は、デンジャラスすぎない感じっていうか。バックドロップもそうだけど、見事ではあるけど、相手の命はとらない、みたいな技を、キン肉マンがずっと出している。今のプロレスって、ある種、行きすぎの時、あるじゃない?

 ありますね、ヒヤッとするような。でもキン肉マンは、デスバレーボムとか、バックドロップとか、クラシカルな技で勝負を決めますもんね。それがいい。

 そういう技をあえて出している気がする。試合の組み立てがクラシカルというか、レスリングをしてるというか。

 だから、観ていて胸にくるものがある。シンプルにやるのもいいんじゃない? と。

 この試合は、いちばん、いろんな人たちを取り込める試合をしていると思う。とんがった試合とか、過激な試合とか、いろいろあるけど、裸一貫じゃない? キン肉マン。その上で、さらにシンプルな闘いをすることによって大衆を魅了できる。だから、一番支持されるんだよね。

 プロレスでも、そのほうが盛り上がりますもんね。次々と派手な技をくらうけど、バックドロップ一発で勝負をひっくり返すとか。

 わかる。だからこれはほんとにいい試合だよ。でも......なんか、毎回この話をしてるけど......次に控えてるのが、バッファローマンじゃない?

 そうなんですよね。

  • キン肉マンの試合がいいだけに、バッファローマンが心配

 バッファローマンは、革命戦士の頃の長州力みたいな闘い方じゃん。直進で突っ込んで体当りして大爆発、みたいな。交通事故タイプ。

 そうですよね。

 ってなると、ヤバいよね。長州力対橋本真也みたいな闘いになりかねない。

 ただただ、力のぶつかり合い。

 藤波辰爾が止めに入るよ()。「これ以上やったら、どっちかが死んでしまう!」って。

 あったあった。確かにこれは、バッファローマン、大変だ。

 キン肉マンが、あまりにもちゃんとしたレスリングの試合をやったから、不安ではあります、僕は。

 不安であり、楽しみですね。

 このキン肉マンの闘いは、最後の試合にすべき内容だよね。なのに、なぜゆでたまご先生は、バッファローマン戦の前にしたのか。

爪 キン肉マンを最後にしたくなかったんでしょうね。それだとあまりに順当だから。

 でもバッファローマン、荷が重いよ?

 うん、荷が重いし、俺の中では、「さよならバッファローマン」感が、ありますねえ。

 僕もある、いい試合すぎて。この試合のあと、最後にバッファローマンがくる、となると......バッファローマン、死ぬぐらいまでいってくれないと、この興行、締まらねえな、と思わない?

 思いますよ。それか、逆の方向で振り切って勝つかですよね。世界をぶっ壊すほどのハリケーン・ミキサーを繰り出すとか、身体中から角が生えるとか。ザコシショウさんがいうところの「誇張し過ぎたハリケーン・ミキサー」みたいな()

強烈なハリケーン・ミキサーでファンを魅了したバッファローマン。今回はどうなる?(JC11巻)強烈なハリケーン・ミキサーでファンを魅了したバッファローマン。今回はどうなる?(JC11巻)

 はははは。そうだね、そのくらいやらないと成立しないくらい、キン肉マンの試合が、スタンダードですばらしいものだったから。

 そうそう。俺たち、なんだかんだ文句言ってたけど、キン肉マン、やっぱり主人公なんだな、と思いましたね。

 そう、だからゆでたまご先生が、筆が乗ってるというか。「描きやすい!」っていう感じがある気がする。流れがいいし。

 しかし、やっぱりキン肉マンは、超神との試合でも、名勝負にしてしまうんですね。

 確かに! おもしろいね。

 そういえば、アニメ放送から40周年を記念して、『超キン肉マン展』が開催されるんですよね。318日から、東京タワーのタワーホールなんですけど......。

 うん。

 東京タワーっていうのがいいですよね。キン肉マンとステカセキングの闘いの舞台だし。もしそれがなくても、キン肉マンはスカイツリーじゃなくて、東京タワーだという感じはするなあ。

東京タワーとステカセキングは切っても切れない関係があった東京タワーとステカセキングは切っても切れない関係があった

 うん、合ってるよね。六本木ヒルズとかじゃなくてよかった()

 グッズはどうなるんだろう? 僕はTシャツ好きだから、やっぱり東京タワーとコラボしたステカセキングのTシャツがほしいな。最初に、『キン肉マン』のグッズがいっぱい作られるようになった時、「ステカセキングって、Tシャツにするとこんなにいいんだ?」っていう発見がありましたもんね。

 ああ、確かに、確かに!

 アメコミ的でカッコいい。着てて恥ずかしくないんですよね、ステカセキングは。

 そう、キャラクターとして立っている。あれ、Tシャツになるまでわからなかったよね。東京タワーで闘ったことも含めて、ぜひ作ってほしいよね。

 ......ジャンクマンのTシャツとかだと、もし前から歩いて来たら()

燃 はははは。ステカセキングは女のコも着れるもんね。

 そうですね。ジャンクマンTシャツを着てる女の人が歩いてたら、ほんとにヤバい『キン肉マン』ファンなんだな、と思いますよね。

 そうだねえ。

 この前、新日の本間朋晃のTシャツを着て歩いてる女の人を見たんですよ。

 えっ()!? プロレス会場とかじゃなくて?

爪 はい、普通に外で。すげえ! と思いましたね。本当にプロレスが好きなんだな、って。

 ジャンクマンTシャツを超えた!(笑)

燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は二村ヒトシ氏との共著『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで、ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演・阿部寛)はDisney+でそれぞれ配信中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中