「ダメ人間キャラ」でテレビ番組でもおなじみ吉田靖直率いるバンド、トリプルファイヤー。その低音を支えるのがギターテックとしても活躍する山本慶幸さん。Astronauts Guitarsの本棚の前で「ダメ人間キャラ」でテレビ番組でもおなじみ吉田靖直率いるバンド、トリプルファイヤー。その低音を支えるのがギターテックとしても活躍する山本慶幸さん。Astronauts Guitarsの本棚の前で

コロナ禍での需要増により実はギターが売れている。そんなニュースを耳にする昨今、バンド4コマ漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』(芳文社)、およびこれを原作とするテレビアニメの人気ぶりを受け、ギターだけでなくバンドという文化そのものに注目が集まっているという。

そんな今だからこそ、本当に面白いバンド漫画を読みたい!ということで、バンド漫画の魅力を教えてもらうべく、人気バンド・トリプルファイヤーのベーシストで、ギターショップ「Astronauts Guitars」のスタッフとしての顔も持つ、バンド漫画収集家の山本慶幸さんにインタビューを敢行。まずはバンド漫画の魅力や、収集するきっかけについて語っていただいた。

***

■「バンド漫画」を集める理由

数ある漫画作品の中でも「バンド漫画」にこだわり、収集を続けている山本さん。集めたバンド漫画は500冊以上で、そのほとんどは東京・高田馬場にある「Astronauts Guitars」の本棚に並べられ、お客さんが自由に読んでいいという。

「バンド漫画を集めていて、自分の家にも置けないくらいになってきたのもあって、お客さんが来てヒマな時に読んでもらえればなと思って、お店に棚を作りました。最近は店にモノが増えてきたので埋もれがちですけど(笑)。

もともとは、バンド漫画といってもモノによってはとんでもない描き方をされていたり、逆に現実以上に生々しく描かれているものもあったりしたんですけど、基本的にバンドマンというと漠然とした『ダメ人間』みたいなイメージがあるじゃないですか?

そういうのを漫画を通してどう描かれているのか気になって集め始めました。『こんなの実際のバンドにはないよ!』っていうのもあって、そのズレも面白いし、そうじゃないリアルなもの、金言が詰まった作品もたくさんあって、収集していて面白いジャンルだと思います」

■バンド漫画でトレンドを読み解く?

バンド漫画を集めるうちに、バンドというカルチャーそのものを取り巻く時代性の変化にも気付いたという。

昨今のバンド再ブームの火付け役である『ぼっち・ざ・ろっく!』(芳文社、はまじあき作)。コミックス2巻の帯には「陰キャならロックをやれ!!!!」のキャッチコピーが昨今のバンド再ブームの火付け役である『ぼっち・ざ・ろっく!』(芳文社、はまじあき作)。コミックス2巻の帯には「陰キャならロックをやれ!!!!」のキャッチコピーが
「バンドそのものの扱われ方も時代によって全然違うんです。バンドというと昔はヤンキーがやるものだったけど、最近だと『陰キャならロックをやれ!!!!』(『ぼっち・ざ・ろっく!』2巻の帯のキャッチコピー)みたいな扱いで、今は陰キャがバンドをやるというのがある種のトレンドになっている。

ヤンキーがバンドをやっていた時代から、バンドブームが起こり、90年代後半から2000年代前半には『BECK』(講談社)、『NANA』(集英社)が流行して、アニメや実写映画化される黄金期が来ます。その後も『ソラニン』(小学館)、『デトロイト・メタル・シティ』(白泉社)などが流行り、今よりバンドを扱う漫画の量が多かったですよね。

でも時代とともに型破りなバンドマンというのは廃(すた)れ、いつしか陰キャがやるバンドがトレンドになっていく。そうやって、どのようにして時代が移り変わっていったのかを研究するのは、バンド漫画というジャンル自体を追っていてすごく面白いところですね」

「バンド漫画黄金期」だった1999年に連載開始し、大人気を博した『BECK』(講談社、ハロルド作石作)。主人公のコユキ(田中幸雄)の成長やバンドの奇跡を描いた、言わずと知れた名作「バンド漫画黄金期」だった1999年に連載開始し、大人気を博した『BECK』(講談社、ハロルド作石作)。主人公のコユキ(田中幸雄)の成長やバンドの奇跡を描いた、言わずと知れた名作

多くの少女を虜にした不動の名作『NANA』(集英社、矢沢あい作)。同じ「ナナ」という名前だけど性格は正反対のふたりが出会い、友情や恋愛や夢が入り混じったストーリーが展開されていく多くの少女を虜にした不動の名作『NANA』(集英社、矢沢あい作)。同じ「ナナ」という名前だけど性格は正反対のふたりが出会い、友情や恋愛や夢が入り混じったストーリーが展開されていく

NANA―ナナ― 1|集英社 ― SHUEISHA ―

幸せの名をもつ少女が自らの意志で、運命を、切り拓く...。小松奈々と大崎ナナ...同じ名前を持つ2人の少女が繰り広げる、感動の恋のストーリー! 2人の「ナナ」、それぞれの幸せはどこにある...?

■バンド漫画をジャンルや共通項で楽しむ!

漫画の中でも「音楽漫画」という比較的ニッチなジャンルの中で、さらにニッチなジャンルである「バンド漫画」。だが、山本さんはさらにその中でもいくつかのジャンルに細分化したり、共通の属性を見出したりしている。

「実際の音楽のジャンルと一緒で、『音楽漫画』というジャンルの中には『のだめカンタービレ』(講談社)のようなクラシック漫画があったり、『BLUE GIANT』(小学館)のようなジャズ漫画があったり、吹奏楽の漫画もあります。

フリースタイルラップが流行った時はヒップホップものの漫画も増えて、中でも『capeta』を描いた曽田正人さんの『Change!』(講談社)は秀逸だったし、『キャッチャー・イン・ザ・ライム』(小学館)はラッパーの般若さんとR-指定さんが監修しているのが特徴的でした」

バンド漫画、ではないが、フリースタイルラップの漫画として話題になった『Change!』(講談社、曽田正人作)。お嬢様学校に通う主人公がラップバトルに出会い、その面白さに目覚めていくバンド漫画、ではないが、フリースタイルラップの漫画として話題になった『Change!』(講談社、曽田正人作)。お嬢様学校に通う主人公がラップバトルに出会い、その面白さに目覚めていく
「そんな音楽漫画という大ジャンルの中の、バンド漫画はいわば小ジャンルであるはずなのに、意外と作品数は多くて、いろいろな共通する属性もあります。よくありがちで勝手に命名しているのが『バンドマンの女漫画』。『南瓜とマヨネーズ』(現在は東京ニュース通信社から復刊)とか『ソラニン』もそうですけど、少女漫画に多い、バンドマンと付き合ってる女の子の話ですね。

もうひとつよくあるのが『バンド初心者の成長漫画』。ここに『軽音楽部』という属性も加わると、『けいおん!』(芳文社)に代表される鉄板の組み合わせになります。こういった系統や共通点を見つけていくのも、バンド漫画の楽しみのひとつです。

バンド漫画にさらに何かもうひとつ属性を掛け合わせた作品というのは意外と多くて、『ライブの打ち上げのご飯』をテーマにした『モノノケソウルフード』(講談社)とか、同様に演奏後のご飯を題材にした久住昌之さん原作の『ハミングバード・ベイビーズ』(集英社)なんかはユニークな視点で面白いです」

『孤独のグルメ』原作者でもある久住昌之が原作を手掛ける『ハミングバード・ベイビーズ』(集英社、朔田浩美作)。ギタリストとドラマーの女子ふたりが、演奏後のメシを通して心通わせていく『孤独のグルメ』原作者でもある久住昌之が原作を手掛ける『ハミングバード・ベイビーズ』(集英社、朔田浩美作)。ギタリストとドラマーの女子ふたりが、演奏後のメシを通して心通わせていく

ハミングバード・ベイビーズ 1|集英社コミック公式 S-MANGA

偶然の出会いから2人だけの音楽人生が始まった! 美人な上にギターも巧いのに、何故だかいつも歯車のかみ合わない平、そして、ドラマー(&カホン)として音楽を続けているけれど、一度も成功の兆しをつかめないヨネ。演奏した後の、メシの爆食こそココロの癒し――OLとビンボードラマーガールの、"音"×"食"、新機軸デリシャス・コミック、MOVE ON!!

「バンド漫画から派生した漫画、『バンド派生漫画』でいうと、ここ最近で一番面白かったのはギター修理店をテーマにした髙橋ツトム先生の『ギターショップ・ロージー』(小学館)ですね。

楽器のチョイスや話のマニアックさが素晴らしくて、『このギターで話を作ろう』と考えてるんだろうなというのが伺えるし、髙橋先生が本当にギター好きなのが伝わってきます。

実際にギター修理店にはたまに変わったお客さんが来るし、楽器や持ち主にストーリーがあったりして、同じギターショップの店員から見ても、『似たような話してるなあ』っていうエピソードもあります。すごく面白いのでオススメですね」

ギター修理店でのさまざまな出会いを描いた『ギターショップ・ロージー』(小学館、髙橋ツトム作)。ギターを通してさまざまなヒューマンドラマが展開されるギター修理店でのさまざまな出会いを描いた『ギターショップ・ロージー』(小学館、髙橋ツトム作)。ギターを通してさまざまなヒューマンドラマが展開される
後編では、そんなバンド漫画マニアの山本さんが、今本当に読むべきバンド漫画を5作品ピックアップする。

●山本慶幸(YOSHIYUKI YAMAMOTO)
ベーシスト、バンド漫画収集家。2006年、早稲田大学で出会ったメンバーとバンド、トリプルファイヤーを結成。これまでに4作のアルバムを発表している。ギターショップ「Astronauts Guitars」のスタッフとして働くかたわら、「LUCKYSOUND」の屋号でギターテックとしても活動。
公式Twitter