フルモデルチェンジした新型ジムニーXC 4WD/5MT キネティックイエローブラック ツートンルーフ

世界194の国と地域で愛されるジムニーは累計285万台。日本が世界に誇るコンパクト4WDである。その新型の実力を、自動車ジャーナリストの小沢コージが濃厚取材で裸にする!

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いったいなんなんだ、このタイムスリップ感! ガンコな昭和のサムライが、カタナを背負って舞い降りてきたようだぜ。7月5日、期待以上の硬派なフルモデルチェンジを遂げた新型スズキ・ジムニーのことだ。

コイツの生まれは1970年。初代が11年間、2代目が17年間、3代目は20年間と超ロングセラーで活躍した。そのルーツは伝説の経営者、鈴木修スズキ会長が常務時代に他の反対を押し切り企画した、プロ向けの商品である。林業従事者や電力会社の検査員、プロ釣り師や趣味人などに向けて発売。国内では月1000台レベルでコンスタントに売ってきた。

全長4m以下、車重1t以下、本格的な副変速機付きパートタイム4WDシステムを持つ4人乗りSUVは、世界的に見てもジムニーしかない。ライバルだった三菱のパジェロミニは94年に誕生したが、2012年に生産を終えている。

ライバルの参入は皆無なのでこの20年間は細かなマイナーチェンジだけで乗り切れた。だが自動車業界では、「新作はモノコック化するらしい」だとか、「モデル消滅もあるらしい?」なんてささやかれていた。というのも、元祖4WDのジープ・ラングラーはメインモデルがゴージャス4ドア化しちゃったし、レンジローバーもセミモノコック化。SUVの軟弱化は時代の潮流だったのだ。

ところが、今回登場の4代目ジムニーにはシビれっぱなしよ! ウワサを一蹴。本格4WDの証(あかし)たる「ラダーフレーム」を完全新作にしただけでなく、すべてをプロ好みにブラッシュアップ。旧型より全域で本格化している。

そしてビックリなのは、その外観だ。今やエロくてスポーツカーみたいなSUVが多いなか、4代目は武骨にハコ化。全長3.4m×全幅1.4m弱は不変だが、明らかに前より四角い。なかでもヘッドライトはレトロな丸目2灯に戻し、昭和な男くささを完全に取り戻している。

インテリアも同様だ。一部エアコン吹き出し口やメーター類は丸形だがそれ以外は直線的。全体を真四角化した分、車内スペースも広がり、リアシートは拡大。ラゲッジ容量もなんと28リットル拡大して352リットルに。開口部も広がり、モノかけがつけられるユーティリティナットも新たに備わった。

最も肝心なのは骨格だ。床が高く、乗り降りしにくくなるラダーフレームをあえて踏襲。しかも新たなXメンバー構造を採用してねじり剛性1.5倍アップ。サスペンションも舗装路で乗り心地のいい独立懸架型ではなく、悪路走破性を優先した3リンクリジッドアクスル式サスペンションを採用。どれもナンパ化とはほど遠い本格4WD用設計だ。

エンジンもシブく、軽スポーツのアルトワークス用ターボをデチューン。ハイブリッド機能はつかず、モード燃費は最良16・2km/リットルと必要以上にエコも追っていない。

何よりシビれるのは本格クロカン4WDに不可欠な副変速機をあえて昔ながらの手動レバー式に変更。すべてはプロユーザーからのリクエストを反映しているのだ。

一方、全域サムライ化と同時に時代に合わせたアップデートもさりげなく図っている。18年2月以降、装着が義務化された横滑り防止装置を全車標準にするだけでなく、運転席&助手席サイドエアバッグ、カーテンエアバッグも同様。

自慢の先進安全デュアルセンサーブレーキサポートに道路の最高速度など標識認知機能をつけて初装着。ボディの歩行者保護性能も頭部に加え、脚部まで新たにカバー。イマドキの安全性をしっかり備えている。

つまり、新型ジムニーの真のスゴさはブレのなさ。ちょっと売れると軟弱化したり、原点を忘れるクルマが多いなか、自らの原点とユーザーの希望を大切にする。ロングセラーのかがみであり、男の美学が詰まった一台だ!

★『週刊プレイボーイ』30号(7月9日発売)「夏のインプレ!速報スペシャル」より

●小沢コージ
1966年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。90年に自動車誌の編集者に。著書に『マクラーレンホンダが世界を制する!』(宝島社新書)など多数。TBSラジオ『週刊自動車批評』レギュラー出演中。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員