愛のパワースポット! 乙女心を掴んで離さないウクライナの絶景「愛のトンネル」

ウクライナの首都キエフからミニバンで約4時間、リヴネという小さな田舎町に着いた。

ここを拠点に、近郊の街クレヴァンには「愛のトンネル(The Tunnel Of Love)」と呼ばれる絶景がある。

それは線路沿いに生い茂った木がアーチ状になってできたトンネルで、"恋人たちの聖地"として人気のスポットだ。「恋人同士でトンネルをくぐると願い事が叶う」というロマンチックな言い伝えがあり、世界中からたくさんのカップルが訪れるんだとか。

そして、「恋人がいない人がくぐれば愛が見つかる」と、おひとり様にも縁起が良いそうなので、一人旅の私も恋愛祈願しとこうかな。念のため!

リヴネ駅

占いとかおまじないにクールなフリして、本当は縁起物が好きな私。宿に荷物を置くとすぐにバスターミナルへ向かった。

そこでは裸足の少女がひとり、ウロウロしながら大人たちの服をひっぱりお金をせがんでいた。久々にそんな光景を見てウクライナにも貧困があることを思い出し、浮足立ってる自分と彼女の置かれた状況のギャップに少し胸が痛んだ。

近郊の街クレヴァン行きはゲートの4番1404番のバス。お金をせがむ裸足の少女がいた

座席のシートが破れたオンボロバスがガタゴトと走り出すと、車窓には美しい田園風景が広がった。緑や黄緑が入り交じる爽やかな景色に心癒されながらも、ひとりで向かう「愛のトンネル」に若干のわびしさも......。

バスに揺られ40分程度で目的地に到着すると、降りたのは私とスーパーの袋をぶら下げた老夫婦。

「おまえさんよ、こっちだ。ついてこい」

私は行き先も何も言ってないが、ここへ観光客が来る目的などひとつしかないのだろう。おばあちゃんのスーパーの袋をひとつ持ってあげて、一軒家や団地が並ぶのどかな住宅地を歩く。

「このふたりは愛のトンネルで結ばれたのかしら?」

そんな想像をしてほっこり。

道しるべには「愛のトンネルまで1.5km」と書かれているクレヴァンに住む老夫婦

あまり言葉が通じないまま彼らの家の前で別れ、路上には誰もいなくなった。

キョロキョロしていると、今度はどこからか口笛が呼んでいる。一軒家の2階の窓から、男が私に向かって無言で遠くを指さし道を教えてくれる。まるで物語の登場人物のように次々現れる地元の人々に導かれ、草木が茂る静かな川辺を過ぎる。

奥へ奥へと進んで行くとついに少しの人の賑わいを発見した。売店が2軒と小さな机にマグネットを並べたお土産屋が数店。目の前の道路を線路が横切っている。

ここもトンネルっぽいけど、これではない。フェイク「愛のトンネル」

道路を横断する線路を右方向に進むと、トンネルの入り口がある

そして線路の先へ目をやると、そこには「愛のトンネル」が! まるで物語に出てくる不思議の国への入口のよう。

一歩足を踏み入れると......やわらかな自然の香りと鳥の鳴き声、木漏れ日が優しくさし込み、ああ、なんて素敵なところなんでしょう!

これまで見てきたような、崖や渓谷のように巨大で迫力のある絶景ではないが、他に類を見ない独特な景色。私はワクワクが止まらず、吸い込まれるように木々の影の下に伸びる線路を奥へと進んで行く。

「愛のトンネル」の全長は約5kmフォトジェニックな景色。「愛のトンネル」のネット上の写真は大体加工されている。これも加工したもの

緑の世界にふんわりと包まれ、ああ、ロマンチック......と、思った瞬間。

「チクッ! チクッ! チクチクッ!」

え、何? 痛い!! ギャーーー! モスキーーート!!

景色に浸っていたのはほんの一瞬で、すぐに私は大量の蚊に囲まれていた! 長袖にも関わらず、服の上から刺してくる狂暴な蚊たち。そのサイズは手でつぶすのが気持ち悪いくらいのモンスター級で、目の前を飛び回ると景色が霞むほど。

そして耳元に近づく羽音の恐怖! 「プ~ン......プーン、プーン、ブブブーン!」

もはや半濁音ではなく濁音を奏でてしまうくらいの強烈な音。経験したことのない量と音に鳥肌が止まらない。立ち止まっていたら体中を蝕まれて精神がやられてしまいそうだ。無理~!!

あまりの蚊の多さにおののき、撮ったら逃げるようにダッシュ!

実はこの「愛のトンネル」、凶悪な蚊で有名なスポットでもあるそうだ(シーズンによる)。他の人たちは虫除けをしているのだろうか、私よりはマシな様子だが、パタパタと手を振って蚊をはらい、写真を撮ってはとっとと線路から離脱して行く。

本来ならゆっくりと撮影して絶景をカメラに収めたかったのだが、それどころではない。私はヒーヒー言いながら、なんとかカメラを設置して自撮りを試みたが、止まってポーズなんかしていては蚊の餌食なので全然思うように撮れなかった。

『スタンド・バイ・ミー』ごっこも上手くできず

結局トンネルの入口から500mも行っていないだろうか、私は売店へ引き返し、体をアルコール消毒しようと地ビールを飲んだ。

溜息をついて線路を見つめ、せめて1日数回このトンネルを通るという電車でも拝んで行こうかと思ったが、電車が来る様子もない。「帰るか......」

こうして、私はここで恋愛祈願する余裕もなく、そそくさと帰路についた。

「私が結ばれた相手は蚊か......。全く、腕がかゆいぜ!

【This week's BLUE】
帰りのバス停。車が来る度に吠えて突進して行く野良犬。はねられないか心配。

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●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】

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