日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の塩見サトシ
新元号「令和」への移行を前に、「平成」に登場したマニュアル車の中から最強の10台を、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の塩見サトシが独断と偏見で勝手に決めた! 

今ならギリギリ中古車でも買えちゃうスポーツカー、ワゴン、エコカー、軽もランクイン!

MTのほうが楽しめるクルマたち

ATのさまざまな技術革新によってだいぶ減ったものの、今でもクルマは絶対にMTで乗るべし! という原理主義者が一定数存在する。確かにかつてのATは出来が悪く、変速時のスリップが大きく、運転の気持ち良さをかなり削がれる上にはっきりと遅かった。燃費も悪かった。ただただ楽チンなだけだった。あとモテなかった。

だが、近頃のATときたら多段化が進み、変速スピードも速くなって、パドルを引くだけで誰でも往年のアイルトン・セナよりも速い変速が可能となった。

さらに長らくMT派の心のよりどころだった"燃費の良さ"という優位性も、トルコン式に加え、無段階変速のCVTやレーシングカー由来のデュアルクラッチ式といった新世代AT多国籍軍の効率の高さによって完全に失われた。MT原理主義者はもはやほとんど地下組織のマイノリティとなった。

しかし! なんでもかんでもATで乗るべきかといえばそれも違う。MTの魅力については後述するが、MTのほうが楽しめるクルマが過去多数存在してきたし、今もある。平成も終わりに近づき、変速どころか運転自体を自動化しようかという時代だが、ここらで一度MTで乗るべきクルマを振り返ってみたい。

まず1位は問答無用で初代ロードスターだ!

【1位】マツダ「初代ロードスター」(平成元年~平成9年) 今年生誕30周年を迎えたロードスター。初代は当時存在した「ユーノス店」の1号車だったので、ユーノスロードスターを名乗った

世界累計で100万台を突破し、「世界で最も売れた2人乗りのオープンカー」のギネス記録を持つ。この国の自動車史上最も成功し、尊敬を集めたスポーツカーがロードスターだ。

マツダはこのクルマのスローガンとして"人馬一体"を掲げるが、実際、うまく運転すると最高に気持ちがいい挙動を味わえる一方、へたな運転を見逃さず、ギクシャクした挙動としてダメ出しをしてくる。

このクルマのシフトレバーはストローク量が短く、ゲートも明確。正しいタイミングで正確に操作すると、コクコクと決まり、車速を自在にコントロールできる。

歴代ロードスターが少し非力なこともMTで乗るべき大きな理由だ。高回転まで引っ張り気味に運転してドライバーが非力さをカバーする共同作業感がいい。現行の6ATならまだしも初代や2代目の4速ATは選ぶ理由ゼロだ。

もしもロードスター購入を検討しているならMT縛りをかけよう。もっと運転がうまくなりたいと思っている人ならなおさらだ。

2位はスカイラインGT-Rだ! スカイラインGT-Rといえば泣く子も黙るトップ・オブ・スカイラインだが、1973年に生産中止となってから1989年に復活するまでいわば欠番だった。

【2位】日産「スカイラインGT-R」(平成元年~平成6年) 映画『ワイルドスピード』や、ゲームソフト『グランツーリスモ』の影響で中古車も世界的人気に
その間のスカイラインには速さが足りなかったか、速さはあっても4気筒エンジン搭載車だったため、日産がこの名を用いることを躊躇(ちゅうちょ)したのだ。

89年に復活なったGT-Rは、最高出力280PSを発揮する2.6L直6ターボエンジンを積み、ハイパワーを漏れなく路面に伝えるフルタイム4WDを採用していたため、猛烈に速く、久々にGT-Rを名乗るのにこれ以上ふさわしいクルマはなかった。

速いからMT操作も忙しかった。4WDの特性により曲がりにくいクルマだったので、MT操作に手間取っていたらアンダー出まくりだった。だからこの暴れ馬をうまく乗りこなすことができたら真の男として尊敬された。2ペダルしか知らない最近の若者にオススメしたい!

そして3位はトヨタ・スープラ!

このほどめでたく復活したスープラだが、1993年のモデルチェンジで最高出力が280PSに達し、最速国産車軍団の一員に加わった。

【3位】トヨタ「スープラ」(平成5年~平成14年) 中古価格は250万円前後。ターボモデルの個体はチューニングモデルが多い。新型登場で今後、どこまで値崩れするか注目
同時にこのスープラは国産車初の6速MTを採用したクルマとして記憶されている。RZというグレードでのみ選ぶことができたのだが、なんとATよりも高価だったのだ! なおかつゲトラグ製と聞かされ、そのモビルスーツみたいな社名の企業はいったいどこのどういう会社だ?と話題を集めた。

今でこそ当たり前の6速MTだが、当時の日本人は2速、3速あたりがクロスレシオになっていて回転数をさほど落とさずにギアアップできることに感動したものだ。

4位はスズキのスイフトスポーツだ!

初代から現行までスイフト全4世代のすべてに設定されるホットハッチのスイフトスポーツ。現行モデルはターボエンジンで低回転からトルクがモリモリ立ち上がるからATでもよいが、高回転型NAエンジンを搭載する3代目まではぜひMTで乗りたい。入門MT車として最適。

【4位】スズキ「スイフトスポーツ」(平成23年~平成28年) モンロー製ショックアブソーバーを装着した専用チューニングサス。軽快でご機嫌なエンジンを搭載
5位はスバルが誇るレガシィツーリングワゴンである!

レガシィの功績は日本にツーリングワゴンブームをもたらしたことだ。それにワゴンと4WDとターボエンジン、それにMTを組み合わせることで、路面がどうあれ、また荷物満載でも運転を楽しむことができる時代をつくったことだ。

残念ながら近頃のレガシィにはATしかないが、SUVでありながら力強いディーゼルターボエンジンとMTの組み合わせを楽しめるマツダCX-5あたりがそのスピリットを継承している。

【5位】スバル「レガシィツーリングワゴン」(平成15年~平成21年) 3代目まで5ナンバーサイズだったが、全幅が35mm増となったこの4代目レガシィツーリングワゴンから3ナンバーに
6位はトヨタ86、スバルBRZの兄弟車だ。

2012年にトヨタが金を、スバルが技術を持ち寄って、当時ロードスター一択だった国産ピュアスポーツカー界に新風を巻き起こした。2+2のクーペにすることで一定のユーティリティ性が備わっている点もロードスターにはないポイントだ。

【6位】トヨタ「86」/スバル「BRZ」(平成24年~平成31年) 今年2月、特別仕様車のブリティッシュグリーンリミテッドを設定。5月31日まで注文を受け付けている

中古車の平均価格は186万円と高値をキープ。人気のSTIは中古車でも360万円前後となる。値落ちしない人気車
■エコカーに軽自動車も!

7位はホンダS660

軽トラやビジネス用の安いアルトなどを除けば、軽自動車でMTを選べるのはS660とジムニーくらい。ビート以来の本格ミッドシップ軽スポーツであるS660に弱点があるとしたら最高出力が自主規制値の64PSに制限されていることだが、MTを駆使することでそれをカバーするのが正しいS660の楽しみ方だ。

【7位】ホンダ「S660」(平成27年~平成31年) 今、新車で買えるホットな軽スポーツカーといえば、S660だ。エンジンは660㏄のターボ(約64馬力)

8位は引き続きホンダで、インサイトだ!

ハイブリッドとMTの組み合わせは、インサイトと後に続くフィットハイブリッドくらいしかない。MTで走らせると、電気アシストがターボに代わる新しい過給器のようで楽しかった。

【8位】ホンダ「インサイト」(平成11年~平成18年) 中古車をネット検索すると、30万円から50万円程度で販売中。新車時は「クセ強ッ!」な流線形で不人気車に
9位は日産のフェアレディZである。

ギアダウン時、ニュートラルにした瞬間にアクセルをあおって回転を合わせてから低いギアへ入れる行為は、できる人にとっては楽しいが、できない人にとってはストレスだ。

その点、現行Zはギアダウン時にクルマが自動的に回転合わせをしてくれる。初心者のみならず、年を取っていろいろ面倒になってきたがMTには乗りたいというリターンMTドライバーにはありがたいはずだ!【9位】日産「フェアレディZ」(平成20年~平成31年) 日産が世界に誇るスポーツモデルがフェアレディZだ。デビューから10年以上も、改良を重ね、完熟の域に

そしてラスト、10位はスズキのジムニーに決定!

一般的にはオフロード走行をするならATのほうが簡単だが、本格的なオフロード愛好者は微妙なクラッチワークを使えるMTを好むという。もっともオフロードを走らない人でもジムニーの4速ATは旧態依然としているのでMTで乗るべし!

【10位】スズキ「ジムニー」(平成30年~平成31年) 昨年、20年ぶりにフルモデルチェンジしたジムニー。発売直後から「納車まで1年待ち!」というお祭り状態に
MTで手を動かすのはボケ防止になるだろうし、一種の安全機構としてお年寄りに多い誤発進を減らす有効な手段でもある。AT率が約98%という現実もあるが、残せるものなら今後もMTを残してほしい!

●平成最強国産MT選考委員・塩見サトシ
関西学院大学を卒業後、山陽新聞社、自動車専門誌編集長などを経てフリー。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

(写真協力/トヨタ自動車 日産自動車 本田技研工業 マツダ SUBARU スズキ)