C-HR EV & イゾアEV。トヨタはC-HR EVと兄弟車のイゾアEVを初公開した。中国でC-HRは広汽トヨタ、イゾアは一汽トヨタから発売。違いは車名のみ

世界最大級の自動車展示会「上海国際自動車ショー」でニッポン勢もEVを続々と発表。現地で取材した自動車ジャーナリストの小沢コージがその背景を解説する!

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■ハードル高すぎ中国にEV続々投入のわけ

――小沢さん、上海モーターショーが話題です。現地を取材してどうでした?

小沢 もうビリビリだよ、ビリビリ。電気びんびん! まぁ、中国地場ブランドの高級化もスゴかったけど、注目はEV大攻勢だよね。感覚的にはコンセプトカーのほとんどが電動車でEVとPHV(プラグインハイブリッド)ばっか。どうやら中国には今200社以上のEV専業メーカーやブランドがあるって話だよ。

――日本勢のEVもスゴかったとか。

小沢 ついにニッポンが本気になったって感じだね! 今回、ホンダはブランド初の量産型EV、X-NVを出して年内には売る予定だとか。

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――ほうほう。

小沢 日産も2台のEVコンセプトカーを披露してヤル気マンマンだったよ!

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――ホンダと日産がスゴいのはわかりました。でも、日本で話題になっているのはトヨタのEVです。ついにトヨタが上海モーターショーでEV出したんスよね? しかも、C-HRとイゾアの2台のピュアEVを発表したと。 

小沢 うん。トヨタもけっこう力が入っていた。なぜC-HRをEVにしたかって、新世代プラットフォームのTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)ベースだから。トヨタはTNGAの世界展開を本気で狙っていて、現状中国で造っているTNGA車はC-HRとイゾアがメイン。これを皮切りに、2020年代前半はグローバルで10車種以上のEVを展開するとか言ってたけどねぇ......。

――歯切れ悪いスね。

小沢 うーん、小沢の独断と偏見で言っちゃうと、コレはトヨタの二枚舌戦略だよ! 一応EVは出したけど、トヨタの本心はまだまだEVに本気じゃないはず。だって本気だったらガワから変えているし、実際、ホンダは全部変えている。イゾアは単なるC-HRのエンブレム違いだし、トヨタは中国で一汽トヨタと広汽トヨタの2系統があるので、仕方なく出しただけっていうか......。

――事実上は1車種だと。でもC-HRのEVって日本でも売りますよね?

小沢 売らないと思うよ。そもそも中国で売ってるEVはほぼ中国専用で、ホンダX-NVも中国専用モデルなんだよ。世界共通なのはテスラの一部とかBMWのEVのみでさ。実際、昨年の中国EV販売ベスト20に欧州・日本製EVは1台も入ってないからね。世界ベストセラーEVはテスラのモデル3と日産リーフなのに。

――なぜそんなことが?

小沢 中国はEVに関して徹底的な保護主義政策中で、別世界なの。実際、去年中国でNEV(新エネルギー車)は125万台も売れてるけど、日本はわずか5万台。その大きな違いは現地のNEV法で、その年の全販売台数の10%がEV、PHV、FCV(燃料電池車)にならないと翌年の販売台数枠が減らされる。要は国策としてのEVなんだよ。

――なるほど。

小沢 ご存じ中国は米国を超える世界最大の自動車市場だから、ココで負けるのは自動車メーカーにとって死活問題。だからどこも必死で、多く売ろうとしているけど......うさんくさい話もあって。実はNEVクレジットって計算法があって、同じEVでも航続距離や電費で係数が1台6点とか4点とか変わってくる。でもその計算方式は発表まで全然わからないんだと(笑)。

――電池を何kg積んだらNEVクレジットがどれだけ取れるかもわかんないと。

小沢 そのとおり。もっと言うと中国では今、1台最大約10万元(約160万円)の補助金が出るんだけど、計算式がナゾだらけ。中国メーカーは事前のロビー活動でわかってるってウワサもあり、そもそもBYDってEVメーカーは深圳(シンセン)の経済特区にあるから補助金が他社より多いって話もささやかれているほど。

――それじゃ公平な競争なんてできないじゃないスか!

小沢 うん。しかも、NEV法は昨年施行されるはずが直前で消えたって話もあってさ。

――ゴールポストが動くと。

小沢 そうそう。つまり、中国のEV市場は純粋なEVとしての性能以上に、補助金や政治力に左右されるわけ。

――ぶっちゃけ、中国でトヨタのEVは売れるんスかね?

小沢 トヨタは中国で自前のEVがそこまで売れるとは踏んでいないし、小沢からすると、C-HRは確かにTNGAプラットフォームで走りはいいんだろうけど、後部座席が狭いからロングボディ好きの中国じゃ不利だし、そもそも価格競争に入るとツラいよ。

――ツラいんだ。

小沢 だって現地でガソリン版C-HRが14.18万元(230万円)で、そこに40kWhレベルのリチウムイオン電池積んだら絶対30万元(490万円)超えるけど、地場メーカーのBYDにC-HRと同等のEVモデルだったら価格は23.99万元(390万円)。補助金もトヨタより多く出るはず。トヨタとどっち買う? 

――中国でならBYDか。

小沢 そうなると思う。そもそも中国で補助金の出るEVはすべて中国政府が指定した中国メーカー製の電池しか使っちゃいけないから、日産リーフやプリウスPHVもそのままじゃ売れないの。

――そうなんスか!

小沢 だからトヨタは提携先の広州汽車で設計したEVを自分の中国工場で造って売ってるわけ。NEVクレジットを稼ぐために。

――そんな不利なのに、なぜトヨタは上海ショーで華々しくC-HRとイゾアのEVをご開帳したんスかね?

小沢 そりゃ中国政府が国策化しているEV事業を「トヨタも頑張っていますよ!」って姿勢を見せないと。もちろん、価格は多少高くてもトヨタファンなら買ってくれるって算段もあるだろうし。

――でも、トヨタが中国でEVを出した理由はそれだけかな。

小沢 実はNEV法を今年クリアできるメーカーは、EVを多く売っている地場メーカーやテスラぐらいしかないって話でね。今はあの手この手でEVを売っておきたい。そうしないと昨年、中国で過去最高となる147万台を売ったトヨタは今年も販売台数を伸ばすことができないんだよ。これは同じく中国で100万台以上売っている日産やホンダも一緒。三菱は年間14万台だから気楽(笑)。

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■トヨタがガチでEVを出す時期とは!?

――ニッポンEVが世界を制することって可能スかね。

小沢 まず世界を中国市場とそれ以外の市場で分ける必要があると思う。中国のEVビジネスを、外国人には謎の軟式テニスとしたら、それ以外の国のEVビジネスは硬式テニス。それくらいに、ルールもテクニックも求められる体力も違うんだよ。

――やはり中国では苦しい?

小沢 中国で勝機があるとしたらレクサスがベンツやBMW並みにブランド力をもって殿様商売的EVを出すことしかない。

――中国以外の市場では?

小沢 世界での勝負の分かれ目は電池技術! 今のリチウムイオン電池より圧倒的に性能が高い「全固体電池」をニッポンが世界で最も早く量産化し安く造れれば、あとはトヨタの電動設計力で世界イチのEVメーカーになれる! でも、中国で売るとその電池技術すら吸い取られる可能性があるからなぁ(苦笑)。 

けど、小沢の予想だと、トヨタが本気になるのはマツダと一緒に造ってるEVを出してから。そっからがニッポンEVのホントの勝負だぁ!

●小沢コージ 
1966年生まれ、神奈川県出身。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。『NAVI』編集部を経て独立。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』パーソナリティ。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員