ロンドンのパディントン駅にて
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、イギリスとドイツの"鉄道マニア事情"について語る。

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私は、海外に行くと必ず現地の鉄道ファンと交流を持つことにしています。そうするうちに、各国の鉄道ファンの傾向がなんとなく見えてきた気がします。今回は、あくまで"市川調べ"という補足付きで、「世界の鉄道マニア事情」をご紹介したいと思います。

まずはイギリス。鉄道発祥の地だけに、鉄道趣味も盛んな国ですが、イギリスの鉄道マニアには2パターンの人物像があります。まずひとつは、品のいい紳士。

ベタなイメージとしては、アフタヌーンティーと共に鉄道について語り合うおじさまで、鉄道を高貴な趣味として楽しんでいるような人々です。鉄道の歴史にまつわる話が大好きで、廃線になった鉄道の動態保存に力を入れたり、鉄道博物館を大切にしています。

一方で、イギリスには「トレインスポッター」と呼ばれる人々もいます。彼らの必須アイテムはメモ帳で、ホームの端に立ち、やって来る列車の車両番号をひたすらメモるという楽しみ方が主流。バードウオッチングのように双眼鏡を駆使したり、ボイスレコーダーに向かってぼそぼそとしゃべっている人もいます。

彼らは皆一様に雨合羽を着て立っているので、「アノラック(雨合羽)」という蔑称まであります。ちなみに、映画『トレインスポッティング』のタイトルの由来は、「薬物中毒患者の腕の血管が列車の路線図のように見える」ということと、「鉄道趣味=無意味」で退屈と見なされているからです。

そもそもは、鉄道会社がこうしたデータを表に出さなかったため、熱心な社員たちが自主的にデータ化しだしたことが起源になっているそうです。私にはいまひとつピンとこない嗜(たしな)み方ですが、本数が多いけど列車が時刻表どおりに来ない国ならではの遊びともいえます。

ロンドンでは、運と知識を頼りに一日で地下鉄の制覇を目指す「チューブチャレンジ」という有名な大会も開催されています。

お次はドイツ。こちらも鉄道大国で鉄道ファンが多いにもかかわらず、大学の鉄道サークルみたいなものはあまりなく、ネットや図書館で孤独に鉄道を楽しんでいる人が多いようです。仲間と楽しんでいるイギリス人に対して、孤高の人が多い印象です。

そんな彼らの必須アイテムはカメラ。私が出会ったドイツの鉄道マニアは写真の撮り方に厳しく、ルールを守っています。車両を撮る角度は列車の正面の45度から60度が基本。それも逆光気味がいいとされており、日が高すぎる時間帯は好まれないそうです。

一度、私が撮った写真をドイツの鉄道マニアに見せたら、車両にかかった桜の木を指して「この木は伐採したいね」と、事もなげに言っていたことが印象に残っています。

ドイツは世界最高峰の模型文化を誇る国でもあるので、当然、鉄道模型もハイクオリティです。ハンブルクにある「ミニチュア・ワンダーランド」という模型博物館では、HOゲージで世界各地の鉄道の名所などを再現しているんですが、行き交う人々も緻密に配置されていたり、歴史の変遷を模型で追ったりと、最高にカオスかつ、至福な空間でした。いつかこれについてもじっくり語りたいです。

次回は、私の母国アメリカの鉄道マニア事情などを語ります。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)などにレギュラー出演中。ドイツの鉄道業界はハイテク化が進んでおり、10年ほど前から紙の時刻表などはほとんど見かけなくなった

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!