新型のフィットの試乗会は北海道にあるクローズドのテストコースで行なわれた。ちなみに新型は「ホンダセンシング」を全車標準装備する

■新型フィットは正念場なのだ

ついにホンダ、真の復活劇なるか! 気になる今年2月発売(価格未発表)の新型コンパクト、4代目フィットに乗ってきたぜぇ!

コイツはまさに同社の屋台骨ともいうべき名車で2001年に初代登場。翌02年には国内単独で25万台以上を売り、33年間トップを死守したトヨタ・カローラを打ち破り、ホンダ車として初めて、"ニッポンで一番売れるクルマ"となった。

その後も順調にバカ売れ! 07年6月末には世界累計200万台を突破! 13年3月末にはホンダ車最速で国内累計販売200万台突破を記録。

しかし13年9月発売の3代目から不運が。クルマは素晴らしかったが、販売直後にハイブリッドでリコール連発。現在累計268万台と下降気味。加えて、今、ホンダには想定外人気の軽ハイト「N-BOX」もある。確かにこの怪物軽がマークした2年連続国内販売トップ、そして4年連続軽販売トップはスゴい!

でも、ホンダは「軽だけ」のメーカーじゃないのだ! 実際、北海道のテストコースでオザワが乗ることができた4代目フィットは驚きだった。

今までにない「柴犬」をイメージした癒やし系デザインに、フランス車もビックリの柔らかい走り。トヨタをしのぐパワーと燃費と上質さを兼ね備えた新型2モーターハイブリッド! これは同じく2月発売のトヨタ・ヤリスを食うかもしれない出来なのだ。

新型フィットは何を狙い、どんだけスゴいのか。開発トップの田中健樹を直撃した。

■もしや戦わないホンダになった?

今年2月発売予定の4代目フィットのLPL(開発責任者)の田中健樹氏。3代目フィットの開発にも携わった田中氏。新型では「心地よさ」を追求したのだという

――すみません。実はプレゼンで聞いた「用の美」という全体コンセプトや心地良い視界、クラスを超えた座り心地、いつまでも乗っていたくなる乗り心地、という開発目標に驚きました。とらえ方によってはかなり曖昧です。かつてのフィットが狙っていたクラストップの広さや燃費みたいな部分はどこに消えたのかなと。もしや過去の考えは捨てた?

田中 僕は先代で開発責任者代行をやっていたんですけど、当時は確かに燃費ナンバーワンを狙ってました。具体的にはT社さんのハイブリッドのモード燃費を超えようとしてまして、しかしご存じのように数ヵ月後にはアチラがアップデートして逆に0.2kmぐらい負けてしまった。

その競争をしているときに思ったのは、「コレって本当にお客さまのためになってるのかな」ってことなんです。競争に勝つためにアルミボンネットも使いましたし、いろいろやりまくってお金もたくさん使いましたから。

――ほうほう。

田中 もちろんトップを狙うというのは弊社の昔からの姿勢ですし、今でも間違ってはいないと思うんです。けれど、今回またそこにスゴいお金を使うよりも、お客さまが感じられる部分にお金を使ったほうが絶対にいいなと。

――つまり、ホンダは戦うのをやめたわけですか。

田中 違います。戦う場所を変えたと僕は思っています。領域を変えたというか。今回も燃費は自慢できる数字にはなっていますけど、もしやナンバーワンではないかも。

――今まではムダなプライドだった?

田中 いやいや、僕も技術者なんでナンバーワンは決して悪いことではないです。実際、心地よさという領域で負けているつもりはないです。ただ、そこは数字で測りにくいので。

――そのお考えはごもっともだと思います。けど、言うは易(やす)し、行なうは難(かた)しで是非の判断は難しい。あと「用の美」ってどういう意味ですか。

田中 昭和の思想家、柳 宗悦(やなぎ・むねよし)さんが言い始めた言葉で、美術品とか芸術品の美しさではなく、お皿とか器とか、そういうものってスゴく美しいと。その理由は使い心地とか使い勝手にこだわっているからだと。それがフィットが目指すものとしてピッタリだなと。

――いわば日用品の美しさですね。アートではなく?

田中 なかでも頑張ってるのは4つの心地よさです。「視界」「乗り心地」「使い心地」「座り心地」。特に乗ってすぐわかっていただけるのは「視界」で、乗った瞬間に「ワッ!」となるはず。

――確かに。めちゃくちゃフロントピラーが細くて、それもふたつに分かれています。

田中 あれは運転中でピラーに人やモノが隠れてしまう恐怖の解消にもなっています。

――あとは?

田中 ふたつ目はオデッセイやインサイトで使っていた2モーターハイブリッドをコンパクトカーに押し込めました。開発当初、既存システムを入れたらノーズが新幹線みたいになってしまって。でも、絶対全長4m以下の小さなクルマにしておきたい。そのためにユニットは小型化して全部造り直しました。

昨年の東京モーターショーでお披露目されているが、新型フィットには「クロスター」と名づけられたSUV的なモデル(写真)が存在する

――でも完全新作だと価格が高くなりませんか。

田中 大丈夫です(笑)。

――また2モーターハイブリッドといえば、すでに日産e-POWERが大成功しています。実はホンダが先にやっていたのに悔しかった?

田中 ぶっちゃけ、その部分もありましたが、とにかくウチは技術説明がへたで......。

――だから今までの「i-MMD」という技術名を「e:HEV」にしたと。

田中 ここまで進化させたからぜひ名前を変えたいと。社長も巻き込んで実現しました。

――ま、i-MMDという名前は技術者のオナニーですよ。一般人にはわからない。

田中 すみません(笑)。それから狙ったのは心地いい乗り心地ですけど、これはすでに体感していただいてると思うんですが、フランス車っぽいという評価もいただいてるんです。

実際、今回開発中の比較検討車にはフランス車を入れていて、そんなことは今までじゃありえなかった。ドイツ車のVW(フォルクスワーゲン)ポロとかドイツ系のフォード・フィエスタでしたから。

――ある種のドイツ車コンプレックスが消えてきた?

田中 そういう部分はあると思います。僕自身、ポロはいいクルマだと思いますけど、乗っていると気になるところはありますし、完全無欠じゃない。だったらウチのクルマもポロと真っ向勝負するだけでなく、会社の生きざまを見せる領域があっていい。

――癒やし系の方向に行ったのはなぜですか。

田中 ここにも先代フィットの開発経験が生きていて、先代の燃費はT社さんと勝負でしたが、走りはVWポロとの真っ向勝負だった。でも結局超えられずみたいなところもあり、やはり追いつけ追い越せでは難しい部分もある。

――自分らしさであり、ホンダの生きざまが必要だと。

田中 ええ。ちなみに広さに関しては寸法だけを見ると旧型より狭くなっている部分もあります。例えばシートのダイブダウン(収納)機能ですけど、フィットのセンタータンクレイアウトだからできるんですが、今回リアシートのクッションを厚くしたので、畳んだときの収納寸法が上がっている。

かつてはシートを薄くして、収納時にフラットになるようにしていたんですが、そこにスゴい家具などを載せるかっていったらほとんどない。で、座り心地が悪くなる。だから今回は分厚くして座り心地を優先しました。

――上から目線で言うと、やっと気づきましたか(笑)。

田中 いや、でもそのとおりで。収納時の美しさより大切なものがある。数字的な燃費の良さよりも大切なものが。本当の乗る人の幸せとは? お客さまの幸せとは? それをトコトン考えました。

初代(2001年~2007年) 広い室内空間と、新開発の1.3リットル直4とCVTを組み合わせてリッター23kmという燃費を達成。まさに鳴り物入りで登場した初代は瞬く間にバカ売れ。01年の第22回日本カー・オブ・ザ・イヤーも戴冠した

2代目(2007年~2013年) 初代は02年に国内販売でトヨタ・カローラから年間販売台数首位の座を奪取。グローバルでも累計200万台を達成。ホンダを支える人気車に。そんな重責を担う2代目は07年に登場。エンジンは1.3リットルと1.5リットル

3代目(2013年~2020年) 13年9月、6年ぶりのフルモデルチェンジで3代目に。01年の誕生以来、グローバルで750万台以上を売ったフィット。プラットフォームからエンジン、足回りまで新設計。新開発のハイブリッドも用意した