ピレネー山脈にあるミニ国家・アンドラ公国

バルセロナの居心地が良すぎて根っこを生やしそうになっていた私だが、急遽アンドラ公国へ行くこととなった。

アナのお膳立てにより、先日モンセラットの山で出会った通りすがりのラトビア人、アントンスの車に同乗させてもらえることになったのだ。

アンドラ公国は、フランスとスペインに挟まれたピレネー山脈にあるミニ国家。面積は469平方kmで、日本の金沢市くらいの大きさだ。

8世紀頃建国されたと言われていて(ググると、1278年9月8日設立って、え、私の誕生日!)独立して国連加盟国になったのは1993年とわりと最近。

小さな国といったらこれまでに、イタリアのローマにある最小国家バチカン市国や、スイスとオーストリアに囲まれたリヒテンシュタイン公国、イタリア中北部の山岳地帯にあるサンマリノ共和国など訪れてきたが、どこも数時間で周れるほど小さかった(モナコやマルタになると、ミニ国家の中でも大きめだよね。ちなみにシンガポールブルネイもミニ国家だし、ほかにもまだまだある)

それらの国々に比べるとアンドラは未知で、日本人にとってあまりメジャーではないイメージなのでなんだかワクワク......。

モンセラットの山で奇跡の出会い! 右がアンドラへ行くラトビア人のアントンス

アントンスとはメッセンジャーで連絡を取っていた。

「車を運転するのは僕じゃなくて、もうひとり、同じラトビア人の友人が来るんだ。バルセロナの空港で集合してレンタカーで行くよ! ところで君の行き先は?」

「え? アンドラって言ったら、首都のアンドラ・ラ・ベリャっしょ! そこしか行くとこないっしょ?(小さい国だしそこしかないのでは?という固定観念)」

「僕たちが行くのはスルデウだよ」

実は彼らはただの観光客や旅人ではなく、その正体は"トレイルランナー"だった......!

スルデウはスキーリゾートのある村だそうだが、「アンドラ・ウルトラトレイル」というトレイルランニング大会も開催される場所。

彼らの今回の目的はその大会ではないが、トレーニングキャンプで2週間滞在するそうだ。私はその手前にある首都の街で降ろしてもらえることになった。

パルディエス!(ラトビア語でありがとう!)

バルセロナ空港で彼の友達アンドリスと合流するために、まず駅に集合すると、アントンスは乗車券や飲み物にフルーツまで私の分を用意してくれていた(優しすぎる。感謝しかない!)。

そして空港に到着しアンドリスに挨拶をすると、彼は初め、珍しそうに私を見た。

そりゃそうだろう。フライト疲れに加えストイックな活動のために高ぶる気持ちで訪れたところに、突然見ず知らずのなんだか小汚い旅人がフラリと車に便乗しようとしてくるんだから......。いや、よくぞOKしてくれたよ。ありがたや......。

アンドリスが空港で予約していた車に乗り込むと、私たちはアンドラへと向かった。

「ねぇ、トレイルランニングって山道を走るの? 42.195km?」

私がそう聞くと、

「や、50km以上かな。100kmとかもあるよ! 85kmからは記憶飛ばすけど!」

え? は?

想像をはるかに超えた数字が飛び出したために、私は英語が聞き取れなかったのかと混乱した。しかし、トレイルランニングの世界にはその距離が存在するらしい......!

スルデウでのトレイルランの様子。膝の筋肉がすごい!(アントンス提供)

絶景の中を走るんだね!(アントンス提供)

その中でもトレイルランニングレースの最高峰と言われるのが、UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)

毎年8月にフランスのシャモニーで行なわれ、フランス、スイス、イタリアにまたがるモンブラン麓の山岳地帯171kmを一周するトレイルランニングの大会。

トレインランは険しい山道だけでなく、変わりやすい天候にも対応しなければならない。またロードランでは意識しないような、現在地の標高や累積上昇高度などが関わってくる。

距離よりも、残り何kmとなった時に、それが下りのなのか、高低差のある激坂の登りなのかでは、身体への負荷がまったく違うのだそう。そのために彼らは厳しいトレーニングをするのだ。

なぜそんな過酷なことをするのだ......と、私なんかは思ってしまうけれども、達成感や充実感は格別なのだろう。ものすごい絶景も見れるんだろうな。

山の中の美しい景色がいっぱい(アントンス提供)

トレイルランは、まるで旅をしているようでもあるなと思った(アントンス提供)

「アンドリスはトップクラスのランナーでね、彼はすごい人なんだよ! 世界一さ!」

名前と出身国で彼のことをググってみると、どうやら2019年「Mozart 100」「Eiger Ultra Trail E101」で、それぞれ2位の成績をおさめたアンドリス・ロニモイス選手のようだ。

私はそんな有名人に乗せてもらっていたのか......!

「ラトビアには山がなくて、一番標高の高いところでも312mだから練習はできないんだ」

ラトビアは国土の98%が標高200m以下のほぼ平坦な地形。ラトビア人にとっては「山」はとりわけ魅力的な存在なのかもしれない。

「日本にも行きたいと思ってるよ。富士山のトレイルランがあるんだ!」

全く知らなかったが、日本にもUTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ)という日本初の100マイルトレイルレースが存在する。UTMBとの精神を共有する世界初の姉妹大会だそうだ(100mile=約160km)

いつか、彼らが日本で走っている姿を見られるかもしれない。そんな話をしながらあっという間に、アンドラ国境。

特に止められたりパスポートを提示することはなく、夜中のアンドラに入国した。

メインの通りで「もうこの辺だから大丈夫!」といって降車したが......、あれ、宿の場所がちょっとトリッキーでわからない。

標高が1000m以上と高いのもあってか、少し肌寒い真夜中の街を、私は宿の場所を探し回りミニトレイルランをするのであった。

ちーん。

見ず知らずの私をアンドラまで連れてってくれてありがとう!

★旅人マリーシャの世界一周紀行:第254回「ミニ国家・アンドラ公国の安宿で暮らす外国人」

●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
【https://www.youtube.com/channel/UCJnaZGs8hyfttN9Q2HtVJdg】

★『旅人マリーシャの世界一周紀行』は毎週木曜日更新! ★