日産GT-R 50th Anniversary 価格:1346万6500円~1372万2500円。レースで活躍したスカイラインGT-Rのエクステリアがモチーフ。ボンネットのステッカーは超目立つ

昨年7月に発売となったGT‐RとフェアレディZの50周年記念の期間限定モデルが3月末で販売終了する。

日産が誇る完熟スポーツの特別仕様車は買いなのか? カーライフ・ジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏に聞いた。

* * *

■今のうちに味わっておいたほうがいい!

――日産のGT-RとフェアレディZに生誕50周年記念車が設定されました。

渡辺 スカイラインGT-Rと初代のZは、両車とも69年に発売。そこで50周年記念車が登場したというわけです。

――ズバリ聞きますが、この2車種はお買い得なんスか?

渡辺 まずGT-Rの50周年記念車ですが、プレミアムエディションをベースに、50周年記念の刺繍(ししゅう)が入ったセミアニリン本革シート、アルカンターラを使ったルーフトリムやサンバイザー、内外装の専用色などを加えています。

専用内装色を採用した室内には、50周年を記念したロゴが!

熟成に熟成を重ねた3.8リットルのV6ツインターボエンジン。最高出力570PS

リアには、記念車の文字をあしらったバッジとステッカーが輝く

ベースのプレミアムエディションにも本革シートが標準装着されるので、生地がセミアニリンの本革になっても価格の割安感は変わりません(セミアニリンのオプション価格も0円)。そうなると価格換算額を高めるのは、アルカンターラルーフトリム、50周年記念バッジ、色彩の変更などで、価格に換算すると25万円前後でしょう。

ところが50周年記念車の価格は1343万6500円なので、ベースグレードのプレミアムエディションより約110万円高い。

日産フェアレディZ 50th Anniversary 価格:467万3900円~475万3100円。標準車とは一線を画す外装はアメリカのレースで優勝した「Datsun 240Z BRE」がモチーフだという

――フェアレディZは?

渡辺 Zの50周年記念車は、標準仕様に2トーンの外装色とボディサイドのステッカー、バージョンSTに準じた本革・スエード調シート表皮と電動調節機能、19インチ鍛造アルミホイールなどを加えました。鍛造アルミホイールは価格が高く、外装色の変更も含めて、50万円前後の価値を上乗せしています。

そして価格は467万3900円(6速MT)と、ベースグレードの標準仕様よりも約69万円高い。つまり19万円ほど割高で、買い得な特別仕様車ではないです。

専用シフトノブや専用ステッチを施したパワーシートを装備

エンジンは、3.7リットルのV型6気筒。最高出力は336PS

――なぜこんなにもお高くなってるんですか?

渡辺 理由はふたつあります。まず両車の販売台数が少ないこと。19年の登録台数は、月平均にするとGT-Rが約70台、Zは約50台でした。日産ノートが1ヵ月平均で約1万台を登録したのに比べると、両車とも1%以下です。1年間の登録台数も500~800台で、仮に50周年記念車が30%前後を占めても、年産200台前後です。量産効果が利かず、割高になります。

ちなみに日産の販売店を取材したら、「50周年記念車は納期が長く、GT-Rは約3ヵ月、Zはボディカラーによって5ヵ月を要します。価格も高いので、50周年に価値を感じるお客さまが購入しています」とのこと。

フロントフェンダーには50周年を記念したステッカーが!

――なんだかチューニングカーみたいな売り方です。

渡辺 以前のGT-Rはすべての日産ディーラーが売りましたが、今は専門化された「日産ハイパフォーマンスセンター」のみ。1県に1店舗程度の地域もあるんです。

――で、50周年記念車がお高いもうひとつの理由は?

渡辺 販売店のコメントにあったとおり、50周年に価値を感じる人たちに向けたクルマ、ということです。損得勘定ではなく「50年間よく頑張りました」というご祝儀です。メーカーがそこに甘えていいのか、とは思いますが、現在のスポーツカーはそういうクルマなのです。

――スポーツカーを取り巻く環境は厳しいと。

渡辺 現行GT-Rは07年に登場して、19年までの国内累計登録台数は1万2911台、現行Zも08年からの累計が1万4277台です。10年以上売りながら、国内累計はノートの1ヵ月分少々です。

――ちなみにお値引きは?

渡辺 高価格車で1台当たりの粗利も多く、下取り車の売却額などは、商談で相応に高められます。それでも積極的に売る商品ではなく、欲しい人は販売店の提示した条件で買うので、大幅値引きは無理です。ただし台数はわずかですが、販売店が在庫車を登録して、中古車市場に卸した車両も流通しています。

中古車ですが、走行距離は短く、車両の状態は新車に近い。検討するなら見積りを取り、諸費用まで含めた支払い総額を新車と比べる必要があります。中古車の場合、新車と違って「納車整備費用」といった項目が上乗せされることも。

――ZとGT-Rの今後をどう予想されますか。

渡辺 フェアレディZは、スカイラインに次ぐ日産の長寿モデルで、生粋のスポーツカーですから存続させるでしょう。スカイラインが先頃の改良で新搭載したV型6気筒3リットルツインターボエンジンを活用する可能性もあります。

一方、GT-Rの今後は難しい。以前はスカイラインのスポーツモデルでしたが、現行型から独立した車種になりました。海外需要、燃費規制、騒音規制など併せて判断されるはず。

――日本が誇るスポーツカーだけに生き残ってほしいス!

渡辺 GT-Rはマイナーチェンジがあっても、フルモデルチェンジは微妙。型式では現行型が最後になる可能性もあります。そういう意味では、今のうちに味わっておいたほうがいいかもしれません!

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
1961年生まれ、神奈川県出身。神奈川大学卒業。『月刊くるま選び』の編集長を約10年務めた後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員