オペル グランドランドX 日本導入がアナウンスされているグランドランドXの本国の価格は2万7500ユーロ(約333万円)~

2月18日、ドイツの名門オペルが来年後半に日本市場にカムバックするという発表があった。

なぜ復帰を決めたのか? 最新モデルの実力はどんなものか? 専門家・竹花寿実(たけはな・としみ)がガッツリ解説する。

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■ドイツの名門が日本再挑戦の訳

――オペルが日本で復活するらしいじゃないスか?

竹花 そうなんです。若い人はもしかすると知らないかもしれませんが、90年代には年間3万8000台以上を販売した年もあるなど、VW(フォルクスワーゲン)と並ぶ人気ドイツ車として知られたオペルが、来年後半に15年ぶりに日本に再上陸します。

――オペルってどんな歴史のブランド?

竹花 1862年にドイツのリュッセルスハイムにミシンメーカーとして創業し、1898年に自動車生産に乗り出しているので、自動車メーカーとしても120年以上の歴史がある老舗です。

世界恐慌のあおりを受けて1931年にGM(ゼネラルモーターズ)傘下となりましたが、以降は戦後も長らくGMの欧州部門として、質実剛健でコストパフォーマンスが高いクルマ造りが評価されてきました。日本とも関係が深く、約100年前から輸入されていました。かつての初代いすゞジェミニは、オペル・カデットの兄弟モデルです。

ところが2006年に販売低迷により日本市場を撤退。さらに08年のリーマン・ショックでGMが破綻し、それ以前から販売不振に陥っていたオペルは一時路頭に迷います。

――路頭に迷った!

竹花 ええ。最終的にアメリカの公的資金で消滅を免れたGMの協力の下で自力再建を目指しました。2012年にはグループPSA(当時はPSA・プジョー・シトロエン)と協業を開始。この頃発売したコンパクトカーのアダムの大ヒットで再びドイツ市場でもメインプレイヤーのひとつに復活したんです。

――最近の業績は?

竹花 好調です。PSAとの協業から生まれたモデルも好評で、昨年は主力モデルのコルサがモデルチェンジのタイミングだったので若干減りましたが、それでも世界で97万台以上を販売。純利益は過去最高を記録しています。

――日本再上陸もその一環?

竹花 そのとおり。2017年以降のオペルは、「持続的な収益」「電動化」「グローバル」が3本柱の新経営ビジョンに沿って、再びヨーロッパ以外の市場へ積極的に進出を図っています。これまでアジアはシンガポールのみに進出していたのですが、その次が日本です。

オペルオートモーティブのミヒャエル・ローシェラーCEOは「(日本市場から)今後は撤退しません」。来年後半の販売開始が楽しみだ

――ちょっと待ってください。なぜ巨大市場の中国よりも日本進出が先に?

竹花 2月に都内で行なわれた日本市場再進出の発表会見で、オペルのミヒャエル・ローシェラーCEOにその問いを直接ぶつけたら、「日本市場は、品質に対するユーザーの要求レベルがとても高く、日本で成功できれば世界で成功できる、そういう市場だと考えています。

もちろん中国への進出も計画していますが、現在は市場を分析している段階です」と語っていました。つまり、販売増だけが目的ではなく、「日本でクルマを鍛えて、世界で大きな成功を収める」という目標があると。

――なるほど。ただ、そんなにうまくいくんですかね?

竹花 だから今回、ドイツのオペル本社に頼んで、最新モデルをチェックしてきました。

実はジュネーブショー取材に合わせてリュッセルスハイムからジュネーブまでオペルで往復しながら取材しようと計画していたのですが、新型コロナウイルス騒動でショーが中止になり、オペルの取材がメインに......。せっかくなのでジュネーブまでの往復1200kmを走りました!

――車種は?

竹花 グランドランドXというコンパクトSUV。ドイツでも今年1月にデリバリーが始まったばかりの「ハイブリッド4」というプラグインハイブリッドの4WDモデルに試乗しました。

1.6リットル直4ガソリンターボに前後各1基の電気モーターを組み合わせて、300PSと520Nmという高性能を実現しています。13.4kWhのリチウムイオンバッテリーを積んでいて、EV走行も可能。航続距離はWLTPで最大59km、電気モーターだけで最高135キロまで加速。

ACCやレーンキープ アシストなどの先進安全装備も搭載する

今年1月にドイツでデリバリー開始となった最新のハイブリッドだ

――数字だけでも、なかなかの高性能ぶりです。

竹花 はい。でもグランドランドXはプジョー3008やシトロエンC5エアクロス、DS7クロスバックなどとEMP2プラットフォームを共用しているので、それら兄弟モデルにも同様のプラグインハイブリッドがあります。

――試乗した率直な感想は?

竹花 素晴らしい出来栄えでした。とにかくパワートレインの制御が非常に緻密で加減速がスムーズ。加速もとてもパワフルで気持ちよかった。

特筆すべきは足回りです。今どきのオンロード志向SUVのような硬質感とは逆のしなやか系チューニングなのですが、19インチの大径オールシーズンタイヤを履いているとは思えないほど滑らかな乗り心地と素直で正確なハンドリングを実現しています。しっとり滑らかで軽いステアリングフィールは、まさにドイツ製プレミアムカーの領域です。

――なるほど。

竹花 いわゆる"いいクルマ感"がにじみ出てました。コネクティビティに関してはメルセデス・ベンツやBMW、アウディのレベルには若干及びませんが、ACCやレーンキープアシストの出来栄えも悪くありません。2日間で1200km走っても、ほとんど疲れなかった。

――ズバリ、オペルは日本で売れますか。

竹花 プロダクトのクオリティは十分、日本で売れるレベルにあると思います。価格や販売網の充実度に関しては、すでにプジョーやシトロエン、DSで十分な実績のあるグループPSAジャパンが準備しているので心配はないのかなと。

オペル コルサ 2019年に発表された現行の6代目コルサには電動モデルもある。ちなみに内装の質感はかなり高い

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
1973年生まれ。東京造形大学卒業。自動車雑誌のスタッフなどを経てドイツへ。ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。輸入車のスペシャリスト