日産「ノート」推しグレード...e‐POWER X、価格205万9200円。2012年デビュー。2018年には日産車初となる年間ベストセラーをゲットして大きな話題を呼んだ

新型になったヤリスとフィットの販売がすこぶる好調だ。しかし、このジャンルには3年連続販売首位の王者ノートが! どれが買いか、カーライフ・ジャーナリストの渡辺陽一郎が解説する。

■なぜ日産ノートは長く売れているのか?

――2017年から3年連続で、コンパクトカー首位は日産ノートです。デビューは12年と、発売からかなり時間が経過していますが、販売は絶好調。この理由は?

渡辺 ノートが多く売れるのは、日産車ユーザーの不満がたまった結果でもあります。

――どういうこと?(苦笑)

渡辺 リーマン・ショック後の日産では、商品開発が海外中心になりました。11年以降、国内で発売された日産の新型車は、1、2年に1車種です。しかも人気の高かったコンパクトカーのティーダは国内販売を終えて、キューブやジュークも設計が古い。

――そのなかで、唯一改良も行なうノートが売れていると?

渡辺 ただしティーダは内外装が上質で、キューブは車内が開放的。ジュークはカッコいいSUVです。これらを使ってきたユーザーは、普通のノートでは満足できません。乗り替える日産車がなくて困っていたときに、ノートにeパワーが加わりました。

――はいはい。

渡辺 eパワーではエンジンが発電を行ない、駆動は専用のモーターが担当します。そのためにノートeパワーは、コンパクトカーなのに加速が滑らかで走行音も静か。この付加価値により「ノートでもeパワーなら許せる」と考えるユーザーが増えて売れ行きも伸びました。今はノートの販売総数のうち、70%がeパワーです。最上級のeパワーメダリストもノート全体の10%に達しています。
クラス最大級の室内空間を誇る。シフトセレクターは「リーフ」と同じデザインを採用

1.2L直3エンジンで発電。モーターが前輪を駆動する。ちなみに最高燃費は37.2㎞を誇る

――要するに日産ファンが消去法でノートeパワーを選んでいると。本当スか?

渡辺 実は今の日産には、発売から8年以上が経過した古い車種が多く、少数の日産車に販売が集中しています。昨年の国内における日産車販売を見ると、デイズ+デイズルークス+ノート+セレナを合計すれば、日産車全体の65%に達してしまう。

その結果、ノートはコンパクトカーの販売1位、セレナもミニバンの1位か2位、軽自動車のデイズも堅調に売れています。しかし、日産のメーカー別国内販売順位は、トヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツに続いて5位なのです。

■ハイブリッドが売れる理由

――ノートではeパワーの販売比率が70%ですが、ヤリスやフィットのハイブリッドは売れてるんスか?

渡辺 ヤリスのハイブリッド比率は45%です。ヤリスのノーマルエンジンには安価な1Lと高性能な1.5Lがあり、好調に売れています。

――フィットはどうです?

渡辺 フィットのハイブリッド比率は72%です。e:HEVと呼ばれ、エンジンは主に発電を任されて駆動はモーターが行ないます。ノートのeパワーに似ていますが、e:HEVは、高速巡航時にエンジンがホイールを直接駆動して燃費効率を高める機能もあり、eパワーよりも内容が充実しています。

――各車ともハイブリッド比率が高いのは、経済性が優れているから?

渡辺 ハイブリッドが必ずしも経済的とはいえません。ノートの場合、eパワーの価格はノーマルエンジンに比べて50万円以上高いです。eパワーは装備が充実しているので、その分を差し引くと、正味価格の差額は48万円です。そしてeパワーは購入時に納める税額がXグレード同士の比較で約3万円安く、実質差額は45万円に縮まります。

そこでレギュラーガソリン価格が1L当たり145円だとして、実用燃費がJC08モード数値の85%として計算すると、eパワーが燃料代の節約で45万円の実質差額を取り戻せるのは、20万㎞を走った頃になります。

――価格差を取り戻すまでに20万㎞走るのは、正直かなり長いスね。ヤリスとフィットのハイブリッドは?

渡辺 この2車種は設計が新しく、実用燃費をWLTCモードで計算します。ヤリスのハイブリッドは、1.5Lノーマルエンジンに比べるとG同士の比較で価格が37万4000円高いですが、装備も充実するので正味価格の差額は35万円です。

購入時の税額はハイブリッドが約5万円安く、実質差額は30万円に縮まります。この金額を燃料代の節約で取り戻せるのは11万㎞を走った頃です。

――フィットの場合は?

渡辺 フィットのe:HEVは高機能ですが、1.3Lノーマルエンジンとの価格差を約35万円に抑えました。購入時の税額も安く、実質差額は32万円です。この金額を燃料代の節約で取り戻せるのは14万㎞を走った頃です。

――どのハイブリッドも10万㎞以上を走らないと、価格差を取り戻せない。それなのにハイブリッドの人気はとても高い。なぜ?

渡辺 コンパクトカーでは、ノーマルエンジンの燃費も優れているため、ハイブリッドとの価格差を取り戻せる距離が長くなります。それでもハイブリッド比率が45~70%と高い理由は、ユーザーがコンパクトカーに満足感を求めるからです。

ノートがeパワーを中心に売れる理由は前述の滑らかで静かな走りにありますが、同様のことがほかの車種にも当てはまるからです。

■新型フィットが総合的にスゴいワケ

――ズバリ、ノート、ヤリス、フィットは今どれが買い?

渡辺 ヤリスは後席が狭いです。新型フィット、ノート、さらに先代型になるヴィッツと比べても窮屈。前後席に座る乗員同士の間隔がヴィッツよりも37㎜縮まり、後席の床と座面の間隔も32㎜下回るので、ヤリスの後席に座ると足元が狭く腰が落ち込みます。今後ヤリスと同じプラットフォームを使って背の高いコンパクトカーを発売するため、ヤリスは後席と荷室を割り切っています。

その代わり、ヤリスは内装が上質で走行安定性も優れている。新型フィットと比べても軽快によく曲がる。乗り心地は、14インチタイヤ装着車は硬いので注意が必要ですが、15インチと16インチは問題ありません。

トヨタ「ヤリス」推しグレード...1.5G CVT、価格...175万6000円。ヴィッツが今年2月のフルモデルチェンジを機にグローバルモデル名の「ヤリス」へと改名室内色は茶系とブラックが選べる。ディスプレイオーディオやコネクティッド機能を装備する

――新型フィットは?

渡辺 従来と同じく燃料タンクを前席の下に搭載するので、全高1550㎜以下で立体駐車場を使いやすいコンパクトカーとしては、後席と荷室が最も広い。乗り心地も快適で、SUV風のクロスターは特に柔軟です。

その代わり、運転感覚はヤリスほど機敏ではありません。それからパーキングブレーキがヤリスやノートと違って電動式なので、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールの作動中に追従停車した後、継続的に停車を続けられます。

――なるほど。ということでベスト車はどれ?

渡辺 総合的にはフィットです。後席の居住性から走行性能まで機能を幅広く高めたので、ファミリーユーザーも含めて推奨できます。その点で、ヤリスは後席は狭いですが、走行性能はフィット以上に優れています。だから前席を優先したり、スポーティなクルマが欲しいユーザーに適します。

ノートは性格がフィットに近いですが、今では古さを感じます。その代わり今年中にフルモデルチェンジするというウワサもあるので、次期型に期待したいです。

ホンダ「フィット」推しグレード...HOME、価格...171万8200円
「ホーム」の内装色はソフトグレーとブラック。ちなみにメーターパネルは7インチの液晶タイプ

■マツダ2、スイフト、パッソ、アクアも注目

――そのほかのコンパクトカーで注目は?

渡辺 駆け足で説明すると、マツダ2は後席と荷室は狭いですが、内装は上質で走りも楽しく、クリーンディーゼルターボを選べます。スイフトも車内は狭いですが、車両重量は900㎏前後と軽く、自分の手足のように動く欧州車風の運転感覚が魅力です。パッソはサイズが特に小さく、買い得なX〝Sの価格は126万5000円と本当に安い!

ライバル車・マツダ「マツダ2」。推しグレード...XDプロアクティブSパッケージ 6AT、価格...215万6000円。昨年のマイナーチェンジで車名をデミオからグローバル名のマツダ2に変更。内外装もブラッシュアップライバル車・スズキ「スイフト」推しグレード...ハイブリッドRS、価格...182万500円。17年デビュー。マイルドハイブリッドモデルは走りと燃費を高次元で両立しているライバル車・トヨタ「パッソ」推しグレード...X〝S〟、価格...126万5000円。16年デビュー。ダイハツが企画、開発、生産を手がけるトヨタの最小コンパクトカーだ

――アクアはどうです?

渡辺 アクアはハイブリッド専用車でダイレクト感のある走りが特長です。そしてルーミーですが、背の高いボディで車内が広く、後席側にスライドドアを装着しました。2列シートのミニバンという感じです。いずれにしても、気になるクルマはディーラーでしっかり試乗しましょう。
ライバル車・トヨタ「アクア」推しグレード...S、価格...192万1700円。 11年12月デビュー。2代目プリウスのハイブリッドシステムをブチ込み一世を風靡したライバル車・トヨタ「ルーミー」推しグレード...X、価格...149万500円。16年発売。ダイハツが企画、開発、生産を担当。兄弟車にタンク、トール、ジャスティ

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
1961年生まれ、神奈川県出身。神奈川大学卒業。『月刊くるま選び』の編集長を約10年務めた後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員