約600台の三輪スクーター「ジャイロキャノピー」が並ぶ、「ホンダ二輪・新宿」の本社工場。3月以降、取引先の増車の注文は1000台に

国内の二輪市場は若者離れが響き、過去最低に縮小中......だったはずが、今、新型コロナウイルスの影響で急速に需要が高まっているという。

モーターサイクルジャーナリストの佐川健太郎(さがわ・けんたろう)氏にガッツリ解説してもらった。

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■なぜコロナ禍でバイクが売れるのか?

――バイクが売れてるってマジですか!?

佐川 はい、好調です。3月の国内出荷台数は前年同月比から7.3%増えて3万6800台となるなど、同月としては3年ぶりの増加です。

――好調の理由は?

佐川 新型コロナウイルスの感染拡大が影響しています。というのも、3月に入り国内でも新型コロナの脅威が急速に広がって不要不急の外出自粛が強く求められるようになりました。通勤でも電車やバスなどの公共交通機関を避ける動きが広まるなかで、通勤用にバイクを買い求める人が増えました。日本だけじゃなく、世界でもバイク通勤の動きが加速中です。

――具体的には、どんなバイクが売れている?

佐川 50cc超12cc以下の「原付二種(原二)」と呼ばれるカテゴリーです。原二は50cc以下の原付一種とは違って30キロの速度制限や交差点での二段階右折も不要でふたり乗りもOK! 渋滞にもほとんど影響されず、自転車と同じ駐輪場に止められたりと通勤・通学にはもってこい。

――なるほど。

佐川 また、原二は重量税が課されず車検もいらない。保険も自動車保険のファミリーバイク特約に入れるなどコスト面でも有利です。燃費もリッター50kmを超えるなど維持費もかなり低く抑えられるなどメリットが大きい。

――とはいえ、最近はリモートワーク化が進んで、会社に通勤すること自体が少なくなっている気もしますが?

佐川 おっしゃるとおり。4月中旬から緊急事態宣言の対象が全国に広がったことを受けて、企業のリモートワーク化が一気に進んで自宅で仕事をする人が急増しました。と同時に飲食店も実質的に休業状態となりテイクアウトや出前に活路を見いだそうと必死です。そこを結びつけたのが食事の宅配ビジネスです。

――確かに最近、宅配用の大きな箱をつけたバイクをよく見ますね。

佐川 宅配サービスで重宝されているのがスクーターや小型バイクなのです。バイクは小回りが利いてちょっとした場所にも止めておけるし、自転車だと上れない坂道なども楽々で疲れない。特に宅配用の三輪バイクが好調です。

――ピザの宅配便でよく見かけるアレですよね?

佐川 そうです。ホンダのジャイロシリーズです。フロント一輪&リヤ二輪で車体を傾けて曲がっていく元祖"スリーター"です。なかでもキャノピーは屋根もあって雨に濡れないし、大きなトランクも積める。

――ほうほう。

佐川 しかも、中古車市場でもジャイロシリーズは人気ビンビン。新車同様の価格で売られています。ちなみに現行モデルは4スト50ccですが、82年に登場した初期型は2ストでノンスリップデフ機構や低圧ブロックタイヤを装備し、不整地や雪道でもへっちゃらのタフ仕様でした。雪国では交差点をドリフトしながら抜けていく気合いの入った出前持ちもいました(笑)。

――ズバリ聞きますが、新型コロナはバイク業界にとって起死回生のきっかけになる?

佐川 そう思います。いわゆる"巣ごもり需要"の急増により、物流業界でも配送遅延などが問題になっています。今後はエネルギー効率に優れ、機動力のあるバイクがあらためてビジネスでも見直されることになっていくと思います。また、3密を避けたリモートワークや時差出勤など、政府が掲げる"新しい生活様式"にもバイクはピタリとハマると思いますね。

――ということで、最後に今買うべき通勤・通学バイクのベスト3を教えてください。

佐川 最初にお断りしておきますが、今回は「通勤・通学」向けに特化したいと思います。高性能なバイクはいくらでもありますが、便利で財布に優しいことを最優先に選びました。

――はい。で、第1位は!

佐川 問答無用で、ホンダのクロスカブ110です。スーパーカブ110をベースに遊び心重視でスタイリッシュに仕上げています。タフで燃費の良いエンジンはカブならでは。頑丈な荷台は買い出しにも最適です。足だけでギヤチェンジできるロータリー式ミッションも楽しく、そのままキャンプに突入できる道具っぽい雰囲気が単調な通勤に彩りを与えてくれます。

第1位  ホンダ クロスカブ110 クロスカブをギンギン試乗した佐川は真顔で「楽しい」。新テールランプを装備した新型は6月19日発売。価格は34万1000円

――第2位はスズキのアドレス110です。

佐川 とにかくコイツは軽くてコンパクト。新車価格は21万円台と原二の中でも圧倒的なコスパを誇ります。もともとASEAN向けに開発され、スクーターには珍しい前後14インチ大径ホイールで安定感も抜群。フルフェイスヘルメットが丸ごと収納できるシート下トランクなど使い勝手も申し分ありません。

第2位 スズキ アドレス110 こちらも佐川が試乗。「新開発のエンジンは、燃費と走行性能を両立しています。コスパ最高の一台です」。価格は21万7800円

――第3位はヤマハのトリシティ125!

佐川 フロント二輪がもたらす安心感はハンパなく、"転ばないバイク"の異名どおり。価格はちょっと高めですが、お金では買えない平安を心にもたらしてくれるはず。バイクにあまり慣れていない人にもオススメです!

第3位  ヤマハ トリシティ125 フロント二輪という新ジャンルを開拓したモデル。乗るとその安定感がヤミツキになるとか。価格は42万3500円~46万2000円