1位 三菱「ランサーエボリューション」(手前)と2位 スバル「インプレッサWRX」。1992年に生まれたランサーエボリューションとインプレッサWRXはガチライバル。両車ともWRCの技術を投入、戦闘力を磨いた

アメリカの"25年ルール"の影響で数年前から日本の古いスポーツカーが次々に海を渡り、中古車市場のタマ数は激減。入手困難になりつつある。ということで、自動車ジャーナリストの小沢コージ『ベストカー』飯干俊作編集長を直撃し、今が買いの10台を聞いた。

■旧車に厳しい日本の自動車重税

オザワ 今、ニッポンが誇る伝説の名車が危機的状況です。クルマ版ハゲタカファンドみたいな仕組みで、スカイラインGT-RやNSXみたいなスポーツカーがアメリカにどんどん流出しています。

『ベストカー』飯干編集長(以下、飯干) アメリカは原則的に右ハンドル車の輸入が禁止されているんです。ただし、生産から25年が経過したクルマになると右ハンドル車でも骨董品と同じ扱いとなり無条件で輸入できる。コレがいわゆる"25年ルール"の中身です。

オザワ 今年は2020年だからもう1995年発売のモデルまで25年ルールに入ります。厄介なのはアメリカ人が人気ゲームソフト『グランツーリスモ』や、映画『ワイルドスピード』の影響で90年代の日本製スポーツカーの価値を熟知している。加えて日本は旧車を大事にしないから海外流出が止まらない。

飯干 補足すると、日本は新車登録から13年で自動車税が1割以上増税される。この重税が旧車に与える影響は大きいと思います。

オザワ 要するに国は旧車を新車に買い替えて経済を回せと言いたいわけです。そうしないと高い税金を払わせるぞと。そういう現状を踏まえると、90年代のスポーツカーを買うなら今がラストチャンスなのかなと。このままだとアメリカ人に買いあさられ、中古のタマ数も減る一方だし。

飯干 ただ、肝に銘じてほしいのは90年代のスポーツカーはかなり野蛮だったということ(笑)。タイヤのスピンを防ぐトラクションコントロールのひとつもついていなかったわけで、現在の新車では考えられない世界です。

オザワ 確かに(笑)。ちなみに当時の国産車は280馬力規制があり数字的にはショボかったけど、実際はそれ以上のパワーが出ていた気もします。そういう意味で、やっぱし今買うべき1位は怪物的見た目、パワー、総合力で日産のスカイラインGT-R?

飯干 いやいや、私はホンダNSXを推します。知り合いのジャーナリストから480万円で買って3年乗り450万円で売った思い出の一台です。

オザワ いい買い物だ!

飯干 当時はNSXに乗って近所のロヂャースによく買い物に行きました。布団を買ったこともありましたよ。

オザワ は? 布団? 

飯干 布団を袋から取り出して畳んだら普通にトランクに入りました。NSXってゴルフバッグも載りますから。

オザワ そこがオザワ的には中途半端に映ってしまう。

飯干 なぜクルマ業界の人間はNSXを嫌うのかわからない。最高のクルマなのに。

オザワ 結局、サラリーマンが造ったスーパーカーだからですよ。本当ならフェラーリにも対抗できるブランドなのにデザインは激似。F1用のV12エンジンも搭載できたはずなのにやらない。何より布団を運べるスーパーカーってあまりに切なすぎる。

飯干 実用面はスカイラインGT-Rも同じでしょ?

オザワ まぁ、そこがニッポンのスポーツカーらしい部分ではあるんですが......。

■ランエボとインプは部数も伸ばした

オザワ となると1位は?

飯干 マジメな話をすると、90年代を代表する国産スポーツカーはランエボインプレッサかなと。両車はWRC(世界ラリー選手権)を席巻し、まさに日本が生んだ激速激安な超大衆スポーツカーです。当初の価格は200万円台。今考えると激安です。

オザワ ランエボとインプって何年デビューでした?

飯干 1989年にGT-R、90年にNSX、91年にRX-7が出た。そして92年にランエボとインプレッサWRXが誕生したわけです。

オザワ ランエボとインプは毎年改良を加えてしのぎを削っていましたよね。

飯干 当時の『ベストカー』はランエボとインプの対決をあおりにあおってたんですが、部数も伸びに伸びて(笑)。

オザワ ランエボとインプはアントニオ猪木とタイガー・ジェット・シンみたいな関係?

飯干 違います。藤波と長州。名勝負数え歌です。

オザワ なるほど。で、1位はどっち?

飯干 ランエボでしょう。

オザワ インプは乗ると味があったけど、ランエボはゲームみたいなクルマだった。ステアリングフィールはほぼないけど、舵(かじ)を切った方向に猛烈に曲がった。

飯干 インプレッサはクルマとしての素性がいい。左右均等のシンメトリカルAWDでエンジン縦置きで重量バランスに優れている。片やランエボはもともとFFファミリーカーで横置きエンジンだけど素性が特にいいわけではなく、電子制御で補っていた。

オザワ ランエボは化学調味料バリバリだけど、確実にウマいラーメンというか。

飯干 90年代でいうと、5代目のランエボⅤがベスト。3ナンバーのワイドボディになったのもポイントです。

オザワ では2位がインプ?

飯干 ええ。なかでも98年に限定400台で出た22BのSTIバージョンかなと。エンジンも2.2Lターボに拡大していておもしろかった。

オザワ 3位は?

飯干 世界のスポーツカー界を変えたマツダの初代ロードスターでしょう。累計生産100万台を突破した名車中の名車です。

3位 マツダ「ユーノスロードスター」 1989年に誕生した初代ロードスター。1997年まで8年間生産された。初代の累計生産台数は43万台超を誇る名車中の名車である

オザワ 初代の車重の軽さとハンドリングは格別でした。初めてプールにフルチンで入ったときの衝撃的快感に近かった。ちなみにホンダのインテグラやシビックに設定されていたタイプRは?

飯干 私も所有していましたが、95年に発売された初代のインテグラタイプRはおもしろかった。安定性は新しくなるほど増しますが、初代が一番乗っていて楽しい。

4位 ホンダ「インテグラtypeR」 1995年に登場したインテグラタイプR。最高出力200PSを発生。FF最速を誇ったが、2006年6月に生産終了

オザワ 初代のエンジンは職人がポート研磨していて、そのレーシングテイストはホントに気持ちよかった。

飯干 4位はインテグラのタイプRで、5位はスカイラインGT-Rかな。

オザワ けど、現実的には初期のR32GT-Rは壊れるし、エンジンがほぼ一緒のR34GT-Rを推したい。

飯干 では5位がR34スカイライン、6位がNSXで。

5位 日産「スカイラインGT-R」 R34型スカイラインGT-Rは1999年に誕生。2002年まで発売。数年後には25年ルール適用で海を渡る!?
6位 ホンダ「NSX」 1990年に初代が誕生。2006年まで生産された。ちなみに92年に追加されたNSXタイプRは世の野郎どもをギンギンにさせた

■一世を風靡したABCトリオ

オザワ だとすると7位は?

飯干 世界に誇るロータリースポーツのFD型RX-7で決まり。問答無用です。今見ても本当にカッコいい。

オザワ ロータリーターボはシュワ~ッて感じで独特に伸びる。ただ、初期型はちょっと繊細だしボディが頼りない。

飯干 そこは後期型になると安定していたから大丈夫です。

7位 マツダ「RX-7」 3代目RX-7は1991年デビュー。2002年まで活躍した泣く子も黙るロータリースポーツだ。熟成を重ね、最終的には280PSに

オザワ 8位以下は?

飯干 3Lツインターボの三菱GTOは外せません。特に思い出深いのは、深夜テストコースに向かう高速道路でウチの編集部員が乗っていたGTOのマフラーが火を噴いた(笑)。豪快なクルマでした。

8位 三菱「GTO」 1990年に三菱のフラッグシップクーペとして誕生。2001年に販売終了。搭載エンジンは当時最強となる280PSのツインターボ

オザワ 日産シルビアはどうです? "平成の筆おろしスポーツ"で、オザワ的にはS15型のイタリアンデザインがよかった印象があります。

9位 日産「シルビア」 1999年デビューしたのが、5ナンバー枠に回帰した7代目のS15型シルビア。2002年に生産を終了した

飯干 一方で90年代は軽のスポーツカーも元気でした。ホンダビート、スズキカプチーノ、マツダAZ-1とか。個人的にはカプチーノが好み。

オザワ 私はビートです。本格ミッドシップでデザインは完全にミニフェラーリ!

飯干 10位は軽3台をまとめましょう。実際、各車の頭文字を取り"ABCトリオ"と自動車業界では呼ばれ、一世を風靡(ふうび)していたわけだし。

10位「ABCトリオ」マツダ「AZ-1」1992年デビュー。ガルウイングドアを採用。エンジンはスズキのアルトワークスに搭載の直3ターボだったホンダ「ビート」 1991年発売。ボディはフルオープンモノコックを採用。車重は760㎏と超軽量。後輪駆動のミッドシップススギ「カプチーノ」 1991年から1998年まで販売されたオープン。ボディはカーボンファイバーを採用し、車重は700㎏を達成

オザワ じゃ、8位三菱GTO、9位S15日産シルビア、10位は軽のABCトリオで!

飯干 今回選んだクルマはどれも買う気になれば、まだけっこうタマは残っています。特に90年代後半のモデルや、辛うじて25年ルールに入っていないモデルは狙い目です。

オザワ あらためて平成というのは国産スポーツカーの黄金期でしたね。

●『ベストカー』飯干俊作編集長
自動車専門誌ナンバーワンの部数を誇る『ベストカー』(講談社ビーシー)。発売日は毎月2回で10日と26日。スクープ記事の精度は抜群。オザワも好評連載中だ