2016年に現行の2代目へと進化したNSX。最高出力507PSを発生するエンジンは運転席後方に鎮座する

ホンダが世界に誇るNSXが今年9月14日で30周年を迎えた。

ホンダの最先端技術をブッ込み、大きな話題を呼んだ国産初のスーパーカー、その初代から取材を続ける自動車ジャーナリストの小沢コージがNSXの現在地を解説する。

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■世界を震撼させたオールアルミボディ

今年で30周年! もうそんなにたったのか、である。ニッポンが生んだ初の本格ミッドシップスーパーカー・ホンダNSXのことだ。

初代NSXはオザワが自動車専門誌の編集者になった直後の1990年9月14日に発売。当時の熱狂ぶりを今も鮮明に思い出せる。

前年の1989年も含め、90年はニッポン自動車界のビンテージイヤーといわれている年で、89年にR32型日産スカイラインGT-R、初代トヨタセルシオ、マツダのユーノスロードスターの名車3台が生まれ、90年には初代NSXが生まれた。

初代NSX 1990年(平成2年)-2005年(平成17年) 量産車としては世界初となるオールアルミのモノコックボディを採用。エンジン、サスなどもアルミを使った

最高速度表示は180キロ。レッドゾーンは8000rpm。初期モデルの価格は800万円。お安くないが爆売れ

何がスゴかったかってスーパーカー然としたホンダの造りだ。スタイルは当時のフェラーリ328を彷彿(ほうふつ)とさせる背の低いクサビ形フォルムでヘッドライトはスーパーカーの象徴リトラクタブル。しかも当時、ふたり乗りミッドシップでオールアルミボディのスーパーカーはフェラーリやランボルギーニにもなく、日本人はホンダの高い技術力に熱狂した。

オマケに当時のホンダは英国マクラーレンと組みF1レースで連戦連勝! 16戦中6勝で当時ワールドチャンピオンに輝いたド天才ドライバー、アイルトン・セナがNSX開発に関わっている。実際、オザワは鈴鹿サーキットでNSXを駆るセナを取材! 「おおー、ガチで乗ってるわ!」と驚いた記憶がある。

ちなみに当時の自動車誌編集部がNSXを購入。オザワは自宅に借りて帰ったことがある。ボディの低さ、カッコよさ、乗ったときの剛性感、エンジンサウンドの良さは感涙モノで、「ついにニッポンもフェラーリ並みのスーパーカーを造った」とシビれたモンだ。

もちろん欠点もなくはない。初代の開発目標は「誰にでも乗れるスーパーカー」。事実エンジンは今から考えると凡庸な280PS(MT車)。エンジンは3リットルの横置きV6でベースはFFセダンのレジェンド譲り。当時5リットルのV12エンジン搭載のスーパーカーの頂点、フェラーリ・テスタロッサには及ばず。

オイル潤滑方式も乗用車譲りのウェットサンプ式。エンジン重心は高く、サーキットではトリッキーといわれていた。

さらに販売台数だが発売2年目にグローバルで8422台を売ったが、その後は年間数百台の3桁カーに......。

初代は約16年間で総販売台数は1万9000台。累計販売は正直多いとはいえないが、長く売ったのはスゴい! ホンダの意地を感じる。

2代目NSX 2016年(平成28年)-2020年(令和2年~) 2018年に初のマイナーチェンジ。走行性能を徹底的に磨き上げた。足回りと制御系をブラッシュアップ

そして乗用車的で中途ハンパといわれた初代の反省を受け、ハイテクかつ本格的にリニューアルしたのが2016年発売の現行2代目NSXだ。

クルマの出来は確かに頑張っていて初代と違い本格的な造りが随所に見受けられる。型式は全長ほぼ4.5mの本格的ふたり乗りミッドシップカー。骨格は製法の違う数種のアルミを使った軽量&高剛性のスペースフレーム製。外板にはアルミ、カーボン、耐熱プラスチック素材まで使用!

最大のキモはフェラーリやポルシェにもない凝りまくりの3モーターハイブリッド式パワートレイン。ホンダ独自のパワーとエコと操縦性を実現させたもので、新作の507PSの3.5リットルのV6ツインターボに1モーターをリアミッドシップに搭載。

同時に左右フロントタイヤに独立モーターをそれぞれ配し、結果システムの総出力は581PS! おかげでスーパーカーの指針たる時速100キロ到達は3.5秒で最高速度は308キロ。ライバルのポルシェ911ターボの最新モデルに迫る勢い。

座ってみるとわかるが室内はスポーツカーなのでタイト。ステアリングは独特の形状。価格は2420万円!

何より半分電動の運転感覚は独特。発進から電動パワーで滑らかに走るだけでなく、静かなクワイエットモードを選べばフル電動発進も可能。オマケに左右個別に回るモーターパワーのおかげでハンドリングも自由自在!

右曲がり時は外側の左タイヤを増速、左曲がり時は外側の右タイヤが増速することで、ステアリングは切った以上に曲がる。まさに夢のハンドリング。ラジコンカーでも運転しているような異次元さ。

この半電動スーパーカーという試みは、ぶっちゃけ、今まさに電動化に取り組むフェラーリやポルシェの先を行ってるといえなくもない。初代が取り入れた"民主的スーパーカー"のコンセプトに続いて革新的ではある。

また2420万円の販売価格は初代初期の800万円台に比べて高すぎ感はあるが、本格ミッドシップのスーパーカーとしては平均的な価格だ。

ただし、年間生産キャパは約1500台で当初の日本販売目標はたった100台と相変わらず消極的。昨年の販売も北米単独で伸びたとはいえ238台。今年上半期は新型コロナの影響でニッポンでの販売は10台以下という話もありクルマの実力から考えると物足りなさを感じる。

ズバリ、NSXに足りないのは自信とプランニングだ。せっかくユニークなニッポン独自のスーパーカーを出しているのだから、もっともっと宣伝すべき。そして市販車レースで勝ち続け、ポルシェやマクラーレンなど6気筒エンジンのライバルより売れてほしい。ぐゎんばれ、NSX!