日本も"脱・純ガソリン"を表明し、EVシフトを進めようとしているが、バイクにも電動化は必要なのか? モーターサイクルジャーナリストの青木タカオがネッチョリ解説する。
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■EVより燃費がいい!二輪ガソリン車
――昨年12月に小池百合子東京都知事が2035年までにガソリン二輪車の廃止を表明しましたが、ライダーはかなりザワついたようですね。
青木 あと14年すると、都内でガソリンエンジンの新車バイクが買えないのは衝撃ですよ。
というのも、現在、国産メーカー4社は約170台の新車を国内で販売していますが、一般に買える電動車はホンダ・PCX e:HEVとヤマハ・eビーノの2台しかない。14年以内にこの台数を電動化するとなると、普通に考えて現実的ではないなと。
――でも、国も30年代半ばまでに脱・純ガソリンを進めると言ってますし、地球環境を考えたら世界的なEV化の流れは止められないのでは?
青木 ガソリン車さえなくせばいいという考えに、異論を唱える研究報告も出ています。それに油田からタイヤを駆動するまでのCO2排出量を算出すると、車両を製作する工場やバッテリー充電時の電力をほぼ火力発電で賄う日本の場合、総合的に見れば必ずしも"EV化が絶対エコ"とは言い切れません。
もちろん、カーボンニュートラルの実現は必要で、私も電動化には反対どころか大きな期待を寄せていますが、早い段階でガソリン車を完全に締め出していいのか。そこは冷静な議論が必要だと思います。
――EV化の課題は?
青木 まず、航続距離の短さ。コレを解消しなければいけません。四輪と比較すると、二輪はバッテリーを積めるスペースが圧倒的に少なく、バッテリー容量の乏しさがそのまま航続距離の短さに直結しているんです。
――そもそも、バイクのどこに電池を積むんだよと(笑)。
青木 はい。それから本当にEV化を進めるのなら、インフラの整備は急務だと思います。充電ステーションをクルマと共用するわけですが、バッテリー切れ寸前のバイクが行列を作れば、ただでさえ足りない充電ステーションが混乱するのは明らか。
東京都道路整備保全公社がバイクの駐輪場に充電用100Vコンセントを設置するなどEV化の後押しをしていることには大賛成ですが、現実的にバイクの駐輪場は全然足りていない。
――なるほど。
青木 現状のEVスクーターは家庭用100Vコンセントでしか充電できませんが、より実用的にするならクルマのように急速充電に対応しなければいけませんしね。
――EV化への課題は山積みだと。ぶっちゃけ、二輪の燃費って?
青木 過去、スーパーカブ50は制限速度30キロの定地燃費値で驚愕(きょうがく)の180km/リットル超えを記録しています。現行車でも軽く100km/リットル超え(WMTCモードは69.4km)でメチャクチャ燃費がいい。
たった1リットルのガソリンで、電動バイクのフル充電時と同じだけ走ることが可能なんですよ。
――スゲェー! さすが累計1億台超のカブだ。クルマだとトヨタ・ヤリスHVの36km/リットルが最高燃費ですが、二輪の燃費は次元が違いますね。ちなみに、ほかのバイクの燃費は?
青木 注目はスズキのジクサー。5速トランスミッションを持つロードスポーツながら、フリクション低減や燃焼効率向上を実現した空冷単気筒により、スクーターなどの強敵を抑えてクラス燃費トップです。装備重量139kgという軽さを武器に走りも刺激的です。
――ほお。
青木 スーパーカブは別格としても、各クラスの燃費王を見ると、1000cc超えの大排気量車でもWMTCモードで20km台。コレは軽自動車を上回る燃費です。正直言って現代のバイクは十分すぎるほどエコな乗り物なんです。
――二輪の場合、ガソリンエンジンはまだまだ生き残る余地がありそうですよね?
青木 ガソリン二輪車をすべてEV化するというのは時期尚早かなと。電動化は国、東京都、メーカーが議論をもっと重ねるべきだと思います。
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み』(秀和システム)など。現役の二輪専門誌編集長だ