トヨタは昨年12月に超小型EV「シーポッド」を法人ユーザーや自治体などを対象に販売を開始した。一般向けは来年だ

世界中の自動車メーカーがガソリン車から電気自動車(EV)へシフトしている。日本は大丈夫? そんな声もあるが、ついにトヨタが動いた。超小型EVをブッ込んできたのだ。

トヨタ自動車、トヨタZEVファクトリーZEV B&D Lab 小型モビリティ開発グループグループ長・谷中壮弘(やなか・あきひろ)氏に、自動車ジャーナリストの小沢コージが狙いや戦略を聞いた。

■トヨタのEVは、超小型モビリティ

――昨年12月25日に超意欲的なEVがトヨタからひそかに登場していました。国交省が新たに定めた、軽より小さな超小型モビリティ第1号の「シーポッド」です。当面は事業者向けのリースと販売のみで、評論家向けの試乗会すらありませんが、日本が抱える交通環境の難問を解決する可能性を秘めたクルマです。また、狭い日本の道路に超小型EVは適していると思います。まずはシーポットの誕生の背景から教えてください。

谷中 はい。大きく分けるとふたつあります。ひとつはモビリティ・フォー・オール(すべての人に移動の自由を提供したい)。すでに日本は超高齢社会に突入しています。そうなると、近所の買い物や通院が移動のメインになる。短距離の小型EVの活躍の場はあるんじゃないかと。

――なるほど。

谷中 そこでシーポッドは、高速道路は走らず、最高速は時速60キロ。乗員は2名で短距離走行のみと割り切って造りました。トヨタは、真に使いやすいモビリティを提供したいと考えております。

開発責任者の谷中氏。超小型EV「シーポッド」は高齢者や自動車免許を取ったばかりの初心者が、近距離移動で使用することを想定して開発したという

――もうひとつの理由は?

谷中 現実的なEVのあり方ですよね。短距離走行の小型車なので、電池容量をいたずらに大きくせず、コスト面を抑えられました。

――ひとつ確認したいんですが、3年前に米ラスベガスで開催された「CES(家電見本市)」で、豊田章男社長が"モビリティカンパニー宣言"をしました。シーポッドはその一環でもある?

谷中 そのとおりです。開発そのものは、宣言より以前にスタートしていますが。

――ズバリ聞きますが、シーポッドは165万円スタートの価格で、ビジネス用のリースと販売のみ。売れ行きはどうです?

谷中 販売はまだ限定的で、最初は法人や自治体の皆さまにお使いいただいています。そのフィードバックを精査しながら、徐々に販売を一般層に広げていこうと。正確な販売データはまだ手元にありませんが、現状だと数十台レベルで、お客さまの第1号は愛知県豊田市です。豊田市に提供したシーポッドは訪問診療などに使われています。車体が小さいので入り組んだ狭い道にも対応できますし、駐車場も確保しやすいと評判です。

――しかし、数十台ってどうなんスか? ぶっちゃけ、もっと売れていいクルマな気がします。165万円という価格がお高いのでは?

谷中 価格が高い、高くないはどこに基準を置くか、商品をどう理解するのかで違うと思います。トヨタの考え方としては、最初に申し上げたようにより乗りやすい、コンパクトなクルマを提供したい。そう考えると、現実的な価格であり、ピュアEVとしては廉価かなと。

――ボディは新設計?

谷中 もちろん、部分流用しているところはあって、モーターはプリウスの四駆用のリアモーターをベースに最適化しています。リチウムイオン電池もモジュールは共通していますが、それ以外はほとんど新設計です。

トヨタ「C+pod(シーポッド)」発売:2020年12月25日(法人・自治体などを対象に限定販売)、価格:165万~171万6000円、一充電走行距離:150㎞(WLTCモード値)、ボディサイズ:全長2490㎜×全幅1290㎜×全高1550㎜。個人向けを含めた本格販売は来年を予定している。ちなみにボディはかなりコンパクトだが、大人2名がしっかり並べる空間を実現!

スイッチ類はセンターパネルに集約させているため、非常に使いやすい。なんの機能のボタンなのかわかりやすい
バッテリーをシート足元の床下に搭載、段差の少ない低床フラットフロアを実現している
ラゲッジはご覧のように実用性十分で、スーパーの買い物程度ならこの広さでまったく支障はないだろう
充電口はフロント中央部にある。満充電は200Vで約5時間、100Vで約16時間。「普通充電」のみに対応

――ちなみにシーポッドって登録上は軽自動車ですよね?

谷中 厳密には軽自動車のなかに設定された「超小型モビリティ(型式指定車)」に属しています。超小型モビリティは国交省が定めたカテゴリーで、例えば衝突実験は普通の軽がフルラップテスト(正面衝突)を時速50キロで行なうのに対し、超小型モビリティは時速40キロ。

オフセットテスト(衝突部分を横にずらす)が軽は時速56キロ、小型モビリティは時速40キロに緩和されるだけ。側突(横方向)、後突(後方向)テストもあります。唯一、シーポッドは高速道路の走行を想定していないため、ポール側突テストはありませんが。

――でも、軽の主流より価格は高いですよ?

谷中 いやいや、安全面でも妥協はせず、歩行者への衝撃を緩和する歩行者傷害軽減ボディも採用していますし、VSC(横滑り防止装置)だって標準装備しているんです。

――ただ、地方で年金暮らしの高齢者が165万円払って軽自動車より小さいEVを買いますかね?

谷中 皆さん、「軽より小さいのになぜ高い」と考えますが、単純にサイズを小さくすれば一直線にコストを下げられるわけではありません。それに、シーポッドは1回の充電で約150㎞走行ができる。最小回転半径は3.9mで、標準的な軽自動車よりも取り回しがいいですし、フロアも乗降性を高めているので、高齢者に優しいクルマに仕上がっています。

シーポッドは2019年に開催された東京モーターショーに試作車として出展された。このときは1回の充電で約100㎞の走行だった

――ご存じのように現在の日本は、公共交通機関が充実していない地方ではクルマがないと生活が成り立たない。けど、ガソリンスタンドは年々減少を続け、すでに3万ヵ所を切っている。

マジな話、ガソリンスタンドの過疎化は地方で深刻な問題になっており、近隣にガソリンスタンドがない地域だってある。そういう意味で、ガソリンがなくても充電すれば走る小型EVシーポッドは可能性をスゴく感じるクルマです。だからこそ、お値段下がりません?

谷中 シーポッドの台数が出れば、その可能性は高くなると思いますよ。

●小沢コージ(Koji OZAWA)
自動車ジャーナリスト。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週土曜17時50分~)。YouTubeチャンネル『KozziTV』。著書に共著『最高の顧客が集まるブランド戦略』(幻冬舎)など。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員