トヨタ初のハンズオフを搭載した「ミライ」に試乗するモータージャーナリストの小沢コージ。「コイツはマジで自動運転レベル3でも全然おかしくない!」と大コーフン

内閣府が音頭を取りオールジャパン体制で取り組んでいるニッポンの自動運転。4月21日にお台場エリアで現状の成果を発表する試乗会が開催された。おなじみ自動車ジャーナリストの小沢コージが現地に飛び、ガッシガシ話を聞いた!

■トヨタがレベル3に踏み込まなかったワケ

現在、「電動化」と並ぶ自動車界の2大トレンドが「自動運転」。今年3月にはホンダが、世界初の自動運転レベル3技術「ホンダセンシングエリート」を新型レジェンドにブチ込んで話題を呼んだ。

ところが、別の問題も急浮上してきた! 4月にテスラ・モデルSがアメリカで死亡事故を起こしたのだ。詳細は調査中だが、報道によればどうも運転席に誰も乗らずに運転支援のオートパイロットを作動させていた可能性があるらしい。

テスラは"完全自動運転"ではない。単なる運転支援機能だ。報道が事実とすれば、自動運転はこういう利用者のことまで想定する必要があるのかも......。

ちなみにアメリカの自動車業界の知人によれば、「テスラに対する集団訴訟などはまだ起きていないし、バイデン大統領が進めるグリーン政策とテスラは合致しており、さほどこの事故は問題視されていない」とのことだが、とはいえ事故直後にテスラ株は一時急落。自動運転の進化は、まだまだ課題山積なのだ。

そうしたニュースが話題になるなか、お台場で行なわれたのが、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の仕切りによる「自動運転実証実験プロジェクト試乗会」。レベル3を達成した新型レジェンドをはじめ、スバル、日産のレベル2の市販車や、レベル4の実験車が大集結した。

早速、オザワはトヨタの自動運転技術「トヨタチームメイト」搭載のミライに乗った。コイツがマジでスゴい! トヨタ初のハンズオフ(手放し運転)機能が超安心だったのに加え、競合他社に先んじて首都高C1都心環状線でも運転支援が可能になっていた。

複雑な都心環状線でもステアリングに手を添えているだけでグイグイ走れてしまう。ぶっちゃけ、レベル3のアイズオフ(視線外し)運転もいけそうな完成度の高さなのだ。どうしてこれを「レベル2」としたんだ? てなわけで、開発担当であるトヨタの川崎智哉(かわさき・ともや)氏を直撃!

――今回レベル3に踏み込まなかったのはなぜですか?

川崎 お客さまの安全安心を第一に考えました。この技術は発展途上の部分もありまして、レベル2で慣れていただくのが大事なのかなと。

――なるほど。でも、レベル2なのに"自動運転技術"という言葉を使っています。すぐアップデートしてレベル3にする可能性もある?

川崎 そこはお客さまの安心安全がどんどん高まり、そのレベルに到達したら考えるべきことかと(笑)。

トヨタ自動車 自動運転・先進安全開発部 第8開発室長 川崎智哉氏。川崎氏は、トヨタの関連会社「TRI‐AD(現ウーブン・プラネット・ホールディングス)」で自動運転開発ダイレクターの経験も。トヨタ自動運転のキーマンだ

――そこはあくまでもトヨタらしい手堅さですが、正直、レベル3の技術は難しい?

川崎 大きなチャレンジになると思っています。今まで運転者は人でしたが、それがシステムになる。主語が変わるのはものすごいことです。

――世界のトヨタさえも?

川崎 よく言われる話ですが、自動運転は自動車メーカーだけで達成できる世界ではありません。ユーザー、社会的受容性、どれも大事です。人間が事故を起こすのと同様、クルマにも完璧はない。

もちろん人より少ないのが大前提ですが、ある一定の確率で事故は起こりうる。

――ええ。

川崎 そういうときに社会がどう受け止めるか、保険でどう処理するのか、いろんなことが課題として浮かび上がってくる。まだまだ自動車メーカーがやらなければいけないこともある。

――今回、ホンダはレベル3を商品化しましたが。

川崎 そこはスゴいなと。技術もそうですが、今回自動運転車として販売される際、ものすごい評価をやられているはずです。もちろん、トヨタも相当やりこんでいますが、おそらく桁が違うのかなと。

――ホンダはシミュレーションで1000万通り、実走行で130万㎞と聞いています。一方で、驚いたのはトヨタ初のハンズオフの価格です。通常のミライより実質55万円高ですが、ホンダセンシングエリートは、標準モデルより300万円ぐらい高い。この価格設定はスゴいなと。

川崎 頑張りました。

トヨタ「ミライ」価格 845万~860万円(アドバンストドライブ搭載車)4月12日に発売されたミライに「自動運転レベル2」相当の運転支援機能が搭載。トヨタ初のハンズオフを実現。機能は下のLSと一緒
レクサス「LS500h」価格 1632万~1794万円(アドバンストドライブ搭載車)「アドバンストドライブ」は、高速道路や自動車専用道路で交通状況をシステムが判断し、車線変更などの運転を支援する優れものだ

■トヨタのキーになる"アリーン"とは

――トヨタの自動運転を支えているのが、関連会社であるウーブン・プラネット・ホールディングスですが、CEOのジェームス・カフナーさんについて質問があります。彼はシリコンバレーからやって来た天才で、会見などでも「これからはソフトウエアファーストになる」と言い切っています。この話はけっこう重いなと。

だって、今までハードウエア中心でやってきたトヨタが、ソフトウエア第一主義になると言っているんですから。でも、そもそもそんなことがありうるんですか?

川崎 カフナーがCEOを務めるウーブン社をトヨタがつくったのは、今までクルマは馬力だの強度だのといったハードウエア中心の世界でしたが、今後はソフトウエアの価値が増し、ソフトとハードが両輪になるということです。

「ウーブン・プラネット・ホールディングス」のジェームス・カフナーCEO。2016年、グーグルのロボティクス部門長からトヨタへ

――要は走るスマホ?

川崎 スマホという言葉が適切かは微妙ですが、お客さまにご購入いただいてから、ソフトウエアをダウンロードして自分好みのクルマに仕上げ、カスタマイズしやすくなるのではないかなと。

――そこについてカフナーさんの見解は?

川崎 まず土台をしっかりつくろうと。彼がプレゼンでよく話すのは、クルマに載ってるソフトウエアがしっかりしていれば、後からいくらでも進化させられると。クルマに搭載するソフトウエアは10%。残り90%はどんどん進化できる開発ツールで補う。それが適切な割合だと。

――そういえば記者発表などで"アリーン"という言葉を耳にしますが、アレはいったいなんですか?

川崎 それこそ彼が今作っている開発ツールです。

――ズバリ聞きますが、スマホでいうiOSやAndroidみたいなものをトヨタは作らないんですか?

川崎 いや、それこそがアリーンです。アリーンはOSだけじゃなく、ソフトの開発環境も含むのが、ほかのOSと違うところですが。

――えっ、スゴい話じゃないですか! トヨタが車載OSを作っていたとは!

川崎 アリーンはオープンですので、開発環境も提供することでより扱いやすいものになれば、他社さんにもご使用いただけるのかなと。

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先のことはわからないが、要するにトヨタはクルマ界のAndroid提供者、つまりグーグル的存在になる可能性を秘めているって話だ。

ちなみにウーブン社は、この取材の直後の4月27日、米国のライドシェア大手「リフト」の自動運転部門「レベル5」を約5億5000万ドル(約590億円)で買収することを電撃発表! リフト社はスマホなどを使った配車サービスを手がける企業で、米国「ウーバー」に次ぐ配車サービスの大手だ。

今回の買収により、計1200人がウーブン社で自動運転の開発にかかわることになるって話だが、コイツは世界トップクラスのハンパない数字である。水面下でトヨタの自動運転は大きく動いているんだってば!

■レベル4の勝負は「いかにビジネス化するか」

今回の内閣府SIP試乗会のもうひとつの大ネタは、自動運転レベル4、「高度自動運転」の実証実験だった。要するに限られたエリア内ならシステムが完全にクルマ側が運転を行なう段階のことだ。 

すでに米国のアリゾナでは、無人の自動運転タクシーがサービスを開始している。中国でもネット検索大手の百度(バイドゥ)が重慶でレベル4搭載バスをデビューさせた。

今回のお台場での試乗会では、金沢大学の菅沼直樹教授が、有人ではあるもののレベル4相当の実証実験をレクサスRXベースの車両で敢行! 菅沼教授は1998年から自動運転の研究を開始し、すでに23年間も自動運転に取り組んでいる専門家だ。

――レベル4の実用化について先生はどうお考えです?

菅沼 5~10年後かなと。

――ではその前にレベル3が普及しますかね?

菅沼 レベル3も価値はあると思いますが、まだ運転責任をドライバーが引き継ぎます。やはり将来的にはシステムが運転をすべて行なうレベル4を目指すべきではないでしょうか。

金沢大学 高度モビリティ研究所教授 菅沼直樹氏

「区画線が見えない雪道での自律走行についても、独自のノウハウがあります」と話す菅沼教授。今回の実証実験では、自動運転における信号情報の必要性などを検証

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レベル3は高速道路の渋滞時に運転責任がシステムへと切り替わり、渋滞が解消すれば人間に運転の責任が戻る。その引き継ぎの開発コストが高いので、海外の自動車メーカーはレベル3を飛ばし、レベル4へと進むところもある。

ただ繰り返しになるが、そのためには社会の受け入れ態勢づくりが必要になる。 

そういう意味で、オザワが今回の試乗会でスゴいと思ったのも、ドイツの大手サプライヤー「コンチネンタル」のレベル4実験シャトルだった。時速は20キロ以下、コースも限定だったとはいえ、実際にお台場の公道をレベル4で走ったのだ。

同社スタッフも同乗していたが、車両にはハンドルもアクセルもない。しかも、しっかり信号で止まり歩行者も認識していたのだ。コンチネンタルの担当者はこう話す。

「弊社が公道でレベル4の実証実験をやっているのは日本だけです。今回のシャトルも2019年にはナンバーを取得し、警視庁の方にもコースを一緒に同乗していただき許可をもらっています」

ハンドルやアクセルのない自動運転シャトル。車内に忘れ物があると画像認識システムが作動し、外部スピーカーで降車した客に呼びかける

今回の取材では有人だったが、将来的には無人運転車を想定。ハンドルはなく、コントローラーを装備

定められたエリアを巡回する無人シャトルバスとしての運用をイメージ。自動運転の技術開発だけでなく、実用化後の運用についても研究している

内閣府のSIP自動運転トップ、プログラムディレクターの葛巻清吾(くずまき・せいご)氏を直撃した。

――現在、日本の自動運転レベル4の実証実験はどこまで進んでいるんですか?

葛巻 本当に無人でレベル4をやってるところは日本でほとんどありません。レベル3とレベル4でシステムにそれほど大きな差があるわけじゃありませんが、ドライバーがいないとなるとクルマが何もかもやらなければいけないのでハードルが高くなる。

――現状、米国や中国と比べると日本は遅れている?

葛巻 レベル4の実証という意味では、米国や中国がある程度進んでいると思います。ただし、そこから本当にサービスとして定着していくかは別問題です。

――どういうことですか?

葛巻 仮に実証実験ができても、法整備や安全性の評価・担保が必要になってきます。ここに関して日本はしっかり丁寧に進めているので負けるとは限りません。そして、レベル4を搭載した車両は間違いなく高額になる。ですから、重要なのはレベル4の車両を使い、いかにビジネスと結びつけられるかなんです。日本にもチャンスはありますよ。

内閣府 SIP自動運転プログラムディレクター 葛巻清吾氏。SIPトップとして自動運転の技術開発、制度整備、社会的受容性の醸成などに取り組んでいる。ちなみに葛巻氏はトヨタ自動車の先進技術開発カンパニーフェローでもある
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オザワは今回の試乗会で葛巻氏以外にも聞いて回ったが、やはり自動運転レベル4の無人での実証実験が米中に比べると遅れているのは事実のようだ。だが、葛巻氏も話すようにキモは事業化である。そういう意味では、日本には公共交通の維持に困っている地方都市も多く、行政の補助金もある程度は使えるだろう。 

なんとか自動運転大国への夢をつなぎたいもんである。菅総理サマ、SIPをつくった前総理に負けず、大英断をおなしゃす!

●小沢コージ(Koji OZAWA)
自動車ジャーナリスト。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週土曜17時50分~)。YouTubeチャンネル『KozziTV』。著書に共著『最高の顧客が集まるブランド戦略』(幻冬舎)など。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員