「安房神社は暴風雨を避けられそうな谷間にあるから、安心できて心が満たされる。野生動物だったら、命が危ないときに身を隠す安全な場所があるじゃないですか。それと同じ感覚です」と語る武藤郁子氏

縄文×神社――。

そんなありそうでなかった組み合わせの"最強の聖地"を紹介しているのが武藤郁子氏が上梓(じょうし)した『縄文神社 首都圏篇』

武藤氏は「縄文神社とは、縄文遺跡と神社が重なっている場所」と定義。本書では、数千年から1万年近い歴史を持ちながら、いまだ"現役"としてあり続ける首都圏の縄文神社を40社厳選。「理屈抜きに気持ちいい」と感じる縄文神社の奥ゆかしき魅力に迫る!

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――本書の構成は大まかにいえば、縄文時代の文化や特色を中心にまとめたパート1、都県別に神社をまとめたパート2に分けられます。勝手にビジュアルメインのガイドブックをイメージしていたんですが、ルポ要素が強い読み物で驚きました。

武藤 けっこう驚かれます(笑)。もっとシンプルな作りにもできたんですけど、それだともったいないなと。私、この本を書くために、今まで行ったことがあるところも含めて、昨年6月以降に105社お参りしたんですよ。

それプラス、お寺さんとか、その近くの資料館にいくつも行って40社に絞りました。実際にその場所に自分が立ったときにどう感じるか、ということにこだわりました。

――ランク付けをしたり、御利益別にカテゴリー分けしたり、そういったことは一切しない、ストロングスタイルですよね。

武藤 もちろん、構想段階では「リラックス度5つ星」とか、そういうまとめ方も考えました。でも、いい意味でどこも似ていたんです。どの神社もめちゃくちゃ気持ちよくて。泣く泣く40社に絞ったんですが、縄文時代から続いているという条件に合うところをリストアップして、そのなかで""いいところ"を選ばせていただきました。

――"いいところ"というのは武藤さんが現地に行って、"気持ちいい"と感じたところ?

武藤 そうです、そうです。同業者の先輩には苦笑されたんですけど(笑)。もちろん、縄文遺跡や神社のご由緒、現地ルポのような部分は事実を固めていますが、そういう理屈を抜きにして、今回選んだ40社はどこもとにかく気持ちいいんです。数千年から1万年くらいずっとその場所にあり続けて、大事にされてきた場所ですからね。

――すみません、気持ちよさって具体的には?

武藤 ひとつは風ですね。どこも風通しがいいんです。空気が循環しているような感じというか。フッと撫(な)でられるような風が吹くんですよね。神社ってもともと気持ちいい場所が多いですけど、特に縄文神社はそう感じます。

あとは湧水に関わる場所が多いのも特徴ですね。マイナスイオンとか出てるんですかね? 透明な池だったり、チョロチョロと流れる音だったり、癒やされるんですよね。

――五感で癒やされるんですね。

武藤 あとは安定感があるんです。安心感ともいえるかもしれません。安房(あわ)神社(千葉県館山市)さんがわかりやすいですね。房総半島って高い山がなくて丘陵地帯ばっかりなので、台風が来ると大変なことになるんですけど、安房神社は暴風雨を避けられそうな谷間にあるんですよ。

だから、実際にお参りに行ってみるとすごく安心できて、心が満たされる感覚があって。身を寄せられる場所というか。野生動物だったら、自分の命が危ないときに身を隠す安全な場所があったりするじゃないですか。それと同じ感覚です。

――初心者がまず行くべき縄文神社を教えていただけますか?

武藤 最初は本書でご紹介している2、3社に行ってみてほしいんです。すると、「なるほどね」と思ってもらえると思います。一応、「最初にどこに行ったらいい?」と聞かれたときにオススメしているのは二宮(にのみや)神社(東京都あきる野市)。都心から近いし、しかも東秋留(あきる)駅から徒歩5分くらいとアクセスもいい。

あと本文でも書いてますが、もう神社自体がめっちゃきれいです。境内の横に考古館があるのもいい。縄文マインドをととのわせるためには土器とか土偶を見たほうがいいんですよね。

境内で出土したものが見られるので盛り上がります。湧水も、引くくらいきれいです。普通もうちょっと藻がありますけど、透明感がすごいし、キラキラしていて絵になる美しさですね。

――東京以外だと、どこかオススメの場所はありますか?

武藤 正直絞り切れないんですけど......二宮神社と並ぶ、王道中の王道といえば比々多(ひびた)神社(神奈川県伊勢原市)。ここも境内に博物館があるので見られます。数千年前から同じ場所で祭祀(さいし)が行なわれていたということですから、気分が上がりますよね(笑)。

実際に行ってみると、これがまた実に朗らかで。ものすごく明るいんです。境内の雰囲気も厳かだけど怖くないし、優しい雰囲気でホッとするんですよ。本殿の裏にある坂道を10分くらい上っていくと果樹園があって、そこを抜けていくと小さな奥宮がありますが、その高台から相模(さがみ)湾とか江の島とかが一望できるんです。まあ気持ちがいいですよ。

神社って陰陽でいうと陰のイメージもあると思うんですけど、縄文神社はどちらかというと陽が強いですね。だからこそ明るいし、実に朗らか。気が滞っていないから空気も新鮮なんです。

――縄文神社探訪の第一人者である武藤さんが、一番そのパワーを浴びていると思うんですが、コロナ禍で105社を巡られてみて、今どんな心境ですか?

武藤 縄文神社という祈りの場所は数千年から1万年くらいずっとそこにあり続けるものですけど、1万年の間にどれだけ価値観が変わってきたのか、あるいは変わらなかったのか。そういうことに思いを馳(は)せると大概のことが許せるようになるんです。

コロナもあって大変な状況でつらい人も多いと思うけど、そういう状況からいったん離れてみるというのは大事だし、縄文神社はすごく助けてくれると思います。そんな遠出をしなくても、割と身近にあるので行きやすいですしね。

――縄文神社を訪れるときに意識すべきことはありますか?

武藤 ある程度、自分の頭をそういうモードにしたほうがいいですよ。「ここって実は数千年前からあるんだよな」というのを頭に入れて、自分でコンディションをつくって行くと絶対ととのいます。そうすると、今まで行ったことのあるところでも、ちょっと違うものに感じると思うんですよ。

●武藤郁子(むとう・いくこ)
1973年生まれ、埼玉県出身。神仏や歴史を偏愛し、縄文人に憧れる少女時代を送る。立教大学社会学部産業関係学科卒業後、出版社に入社し、単行本編集に携わる。独立後、2011年ありをる企画制作所を設立。現在、ベストセラー作家の時代・歴史小説やエッセイなどの編集に携わるかたわら、文化系アウトドアライターを名乗り、本質的な美や「場」に残された古い記憶を探し求める旅を続けている。webサイト『ありをりある.com』と『縄文神社.jp』を運営。共著に『今を生きるための密教』(天夢人)がある

■『縄文神社 首都圏篇』
(飛鳥新社 1760円)
境内から縄文時代の遺跡が発掘された神社は実は日本にかなり存在する。縄文期から聖地だった証であり、「祈りの場として現在までつながってきた」という点で、世界的にもほとんど例がない。本書を上梓した武藤郁子氏は、そうした神社を「縄文神社」と定義。コロナ禍の昨年6月以降、東京、神奈川、埼玉、千葉の縄文神社105社を来訪し、「気持ちよさ」を基準に40社厳選

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