ハンガリーから参戦。「恐怖部門」で首位の巨大な手と鉄の玉
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、世界中の像に命が芽生え暴れたら、どれが最強なのかを妄想する。

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先週、ダース・ベイダーに変えられたウクライナのレーニン像のお話をしました。ほかにも、イギリスの17世紀の政治家で奴隷商人だった人物の銅像が、引き倒されて一時期ダース・ベイダーの像が置かれていたということもあるそうです。ダース・レーニンとダース奴隷商人、どっちも恐ろしいけど、戦ったらどっちが勝つのか、なんてしょうもないことを考えていたら、さらなるくだらない妄想が広がりました。もし地球上の像に命が芽生え、お互いに敵意を持って暴れたら、どれが最強なのか。

真っ先に思いつく脅威は、自由の女神。93mの巨体で人々を潰(つぶ)せる上、たいまつを手に持っている。さらにあのトゲトゲだらけの冠も立派な武器になりえます。しかし、調べると素材は銅で、中身は空洞。さらに、フランス出身なので、早めに降参する可能性があります。そう思うと、四川省の楽山大仏は71mで自由の女神より小さいものの、石でできているため、なかなかの強敵。その分遅いと思われるので、牛久(うしく)や奈良をはじめとする巨大仏軍団にイライラされ、足の引っ張り合いや仲間割れで最強戦からは脱落しそうですが(仏も好戦的だという設定です)。

次に浮かぶのは、旧スターリングラードにある7900tのコンクリート彫刻、母なる祖国像。33mもある剣を、52mの女性が振り上げる。亡くなった兵士の無念も原動力で手ごわさマックスですが、近年地下水位の変動によって基礎が緩み、巨像ごと傾いてきているそう。女性にとって骨盤のゆがみは万病のもと。自律神経も乱れてしまっていると思うので、期待ほど戦えないかもしれません。

となると、戦術部門での強敵は、モンゴルの巨大チンギスハン騎馬像(全長40m)。圧倒的な戦闘力を誇るチンギスハン、しかも馬付きで機動力抜群! しかし、素材はステンレスで中は骨組み以外空洞。私のシミュレーションでは、インドにある世界最大の鳥の像(高さ304m、頭から尾まで91m)がチンギスハンを馬の上からつかみ取って、パタパタッと巣に連れてって退場。お台場のユニコーンガンダムが大気圏外に連れていくのもありです。

意外な難敵はキリスト像。リオ五輪の映像で何度も見たブラジルの巨大イエス(38m)はもちろん、情報も操れるだろうWi-Fiを備えたポーランドのキリスト像(52m)。そして韓国にある、シックスパックならぬトゥエンティパックくらいの腹筋と、ムキムキすぎる太ももの謎のマッチョイエスさま。それぞれ個々の能力が高い上、キリストは死んでもよみがえりますのでなかなか手ごわい。

気持ち悪い部門も忘れてはいけません。スイス、ベルンの噴水に赤ちゃんを食べている鬼の像があり、たまたま通りかかったときはかなりゾッとしました。なまはげ的な存在らしいんですが、右手で赤ちゃんを頭から食べながら、左手には子供が何人か入っている袋を持っています。チェコ・プラハの顔がない巨大赤ちゃんの群れもホラーです。目がないから格闘スキルは低いかもしれませんが、ほかの力がありそうで恐ろしいです。

でも一番怖いのは、シルバニアファミリー。ファミリーって。絶対マフィアです。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。シルバニアファミリーが「像」ではなく「人形」なのは大目に見てほしい。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!