ワインディングでも爽快な走りを披露してくれた新型ゴルフ。シャープになった見た目の影響なのか、けっこう注目度が高かった

6月15日、8代目となる新型ゴルフがついに日本で販売開始となった。いったいどう進化したのか? 欧州車に精通した自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が箱根を疾駆し、新型ゴルフを徹底チェックした。

■ドイツ人の見えが、ゴルフを国民車に!?

竹花 ドイツ本国での発表から約1年半、8代目となる新型VW(フォルクスワーゲン)ゴルフがようやく日本で発売開始となりました!

――というわけで、今回は8代目となる新型ゴルフの上級モデルを箱根に引っ張り出したわけですが、そもそもゴルフってどんなクルマ?

竹花 往年のVWタイプ1(通称ビートル)の後継モデルとして1974年に初代モデルが登場して以来、累計3500万台以上が生産され、日本市場でも90万台以上が輸入・販売されてきたゴルフは、まさに自動車大国ドイツを象徴するモデル。

過去7世代にわたり、ゴルフはコンパクトカーにおける"世界のベンチマーク"に位置づけられてきました。その理由は、やはり「アウトバーン」という世界で唯一の速度無制限(現在は総延長の6割程度)の高速道路が存在する、ドイツで生まれたクルマなのが大きいかと。

――もう少し言うと?

竹花 自動車を発明した国であるドイツは、今から100年以上前の1913年、ベルリン近郊に最初の自動車専用道路「アヴス(現在はアウトバーンの一部)」の建設を開始し、第2次世界大戦前に3860㎞ものネットワークが完成しました。初代ゴルフが登場した1974年には、当時の西ドイツだけで約5700㎞に達し、クルマで長距離を高速移動するのがごく当たり前の社会になっていました。

――アウトバーンで鍛え抜かれたのがゴルフであると?

竹花 ええ。つけ加えると、ゴルフはコンパクトカーの常識を超えた走行性能と計算され尽くしたパッケージングなどもあり、初代を含めどのモデルも世界中で大ウケし、ドイツでは文字どおり"国民車"として根づいています。ただ、国民車の背景にはドイツ人の独特なメンタリティが影響している気もしますが。

――というと?

竹花 すべてのドイツ人に当てはまる話ではありませんが、基本、ドイツ人は「見えっ張り」で「ねたみ気質」を持っている人が多く、ドイツには「ナイトゲゼルシャフト(ねたみ社会)」という単語まであるくらい。

そういう背景もあり、ドイツ人は高級車を欲しがる傾向が強い。ドイツにプレミアムブランドが数多く存在する大きな要因です。ただ、誰もがメルセデス・ベンツやBMW、アウディを買えるわけではない。

一方、ゴルフは価格は手頃ですが独自の存在感があり、駐車場でメルセデス・ベンツSクラスの隣に止めても恥ずかしくない。それがドイツの国民車になった理由のひとつかなと。

■本国で販売台数1位の8代目ゴルフ

――新型ゴルフに対して本国の反応はどんな感じスか?

竹花 近年、ドイツでもSUVの人気が高まっており、新車市場の約3分の1と、Cセグメントの約2倍のシェアになっていますが、今年5月のドイツにおける新車販売台数1位は新型ゴルフです!

――8代目となる新型ゴルフはどこが進化したんスか?

竹花 まずデザインです。グッとスポーティになりました。プラットフォームは、先代に採用されたVWグループのエンジン横置き前輪駆動車用モジュラープラットフォームであるMQB(モジュラー・トランスバース・マトリックス)の進化版となる「MQB evo」ですが、歴代ゴルフの中でも従来モデルからの変化が8代目は大きいです。

世界のベンチマーク・フォルクスワーゲン「ゴルフ」。発売:2021年6月、価格:291万6000~375万5000円、値引き:5万円、リセール:B+。8年ぶりのフルモデルチェンジにより、内装・外装共にスポーティなデザインに一新され、実に若々しくなった。ちなみに灯火類はフルLEDだ
全長4295㎜×全幅1790㎜×全高1475㎜。先代モデルより全長は30㎜長くなったが、全幅は10㎜狭く、全高は5㎜低い
荷室容量は380L。分割可倒式のリアシートを折り畳むと、積載量は最大で1237Lまで増加する。使い勝手は文句ナシの仕上がりだ

――エンジンは? 

竹花 パワートレインは、最高出力110PSの1L直3ターボと、150PSを発揮する1.5L直4ターボの2種類があります。トランスミッションは全車7速DCT。また、どちらのエンジンも48Vのベルト駆動式スターター・ジェネレーターによる、VW初のマイルドハイブリッドシステムが組み合わされています。

今回、試乗したのは1.5Lの直4モデル。DOHCターボエンジンに48Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせる

――今回、1.5Lの「eTSI R-ライン」を試乗したわけですが、率直な感想は?

竹花 走りは先代から一段と向上しています。まず加速ですが、マイルドハイブリッドシステムが発進時からアシストするので、非常にスムーズかつパワフル。1.5は全域で力強く、勾配がきついワインディングロードでも元気のある気持ちいい走りが楽しめ、乗り心地はしなやかで上質!

――僕も乗ってそれは感じました。で、内装の評価は?

竹花 質感の部分では、コストカットが感じられます。デジタル化については、まだ発展途上と言わざるをえません。インパネ中央には大型のタッチディスプレイが備わり、あらゆる機能が集約されています。

見た目的にはハイテク感があって新鮮ですが、エアコンの温度やオーディオの音量も、ディスプレイ下部のスライダーセンサーで調整するので、物理スイッチがほとんどない。正直、使いにくいのが本音ですが、毎日乗っていれば慣れるのかもしれません。

全車標準の「デジタル・コックピット・プロ」は、ナビゲーションマップなどを表示する液晶のフルデジタルメーターだ

――ズバリ、新型ゴルフに対抗できる国産車はどれ?

竹花 これまでは歴代ゴルフが世界の圧倒的なトップランナーでしたが、近年は国産車も目を見張るレベル向上を果たしています。その流れで言うと新型ゴルフの最も近いところにいるのはスバルのレヴォーグです!

レヴォーグは4WDのみで、ハッチバックというよりはワゴンですが、シャシー性能は間違いなくCセグメントで世界トップレベル! 先進運転支援システムのアイサイトXの性能もゴルフに負けていません。

スバル「レヴォーグ」発売:2020年10月、価格:310万2000~409万2000円、値引き:5万円、リセール:B。2020年10月に2代目へフルチェンしたスバルのレヴォーグ。エンジンは新開発の1.8L水平対向4気筒ターボを搭載する。パワーは177PSを誇る。ボンネットのエアダクトが男心を刺激する

――もう一台挙げると?

竹花 マツダ3ファストバックです。デザインと走りの良さに関してはゴルフと好勝負かと。特にスカイアクティブX搭載モデルのスムーズで力強い走りは注目ですよ!

マツダ「マツダ3ファストバック」発売:2019年5月 価格:222万1389~368万8463円 値引き:3万円 リセール:C。インパクト抜群のスタイリングと、マツダが誇る新世代エンジン「スカイアクティブX」が魅力のマツダ3ファストバック。ちなみにマツダ3は、アクセラの後継モデルである

●竹花寿実(たけはな・としみ)
自動車ジャーナリスト。1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌の編集者などを経て2010年に渡独。ドイツ語を駆使し、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。現在、活動拠点を日本に移してドイツの自動車メーカーの最新動向、交通政策、道路環境、運転マナーなどを発信中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
竹花寿実氏