東京の新名所!? 東京メトロの斜行エレベーターと無理やり自撮り
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、市川紗椰が最近注目しているというエレベーターについて語る。

* * *

再び現場と家を往復するだけの日々が戻ってきた今、街中の小さな変化を堪能しています。鉄道、信号、看板はもちろん、最近はエレベーターにも注目しています。

きっかけは、東京メトロ銀座線・丸ノ内線の赤坂見附駅と、有楽町線・半蔵門線・南北線の永田町駅を結ぶ連絡通路に新しく設置されたエレベーター。パッと見、なんの変哲もないただのエレベーターですが、乗ってみると......。上下ではなく、斜めに進んでいるのがわかります。

「斜行エレベーター」と呼ばれるもので、首都圏の鉄道事業者では初めての採用。野外なら似たようなもの(山梨県のコモアしおつの209mもある屋外斜めエレベーターや、長崎県のグラバー園の入り口など)を利用したことがありますが、建物内、ましてや地下鉄の駅の中は初めてだったので、ちょっとしたアトラクションに乗った気分でした。

雰囲気としては、屋内にケーブルカーがある感覚? もともと階段昇降機があった所にバリアフリーの一環として設置されたので、私のような公共交通好きを喜ばせる目的が東京メトロ側に一切ないのは重々承知ですが。それでも、日常が楽しくなる"ワンダー"としてお気に入りスポットができました。通常のエレベーターと違って、掘削工事を行なわずに設置できるケースが多そうなので、今後増えるかもしれません。

ほかに感動したエレベーターは、大阪・梅田阪急ビルの巨大エレベーター。定員80名と国内最大級で、かご内はなんと9・52㎡。畳でいうとおよそ6畳くらいの、もはや住めるエレベーター。15階のスカイロビーまでの直通は、空飛ぶワンルームアパートに乗った気分。魔法のじゅうたんに比べるとイマイチな表現ですが、大迫力でした。

しかも、この巨大エレベーターは5台もあり、一気に400人を運ぶことができます。扉の幅が3m以上もあり、開閉に時間がかかるのにも高揚感をかき立てられました。以前、アメリカのクルーズ船でバーカウンターが設置されたアホなエレベーターを映像で見ましたが、阪急のエレベーターにもちょっとした屋台を置いてほしいです。

エレベーターに興味がない人にもオススメなのは、ポルトガル・リスボンの街中のエレベーター。7つの丘からなる坂の都市リスボンでは、激しい起伏をどうスムーズに移動するかが永遠の課題。そこで、ひとつの解決策として20世紀初頭に完成したのがサンタ・ジュスタのエレベーター。低地のバイシャ地区から、丘の上のバイロアルト地区を結ぶ高さ45mの鉄製のエレベーターで、ネオゴシック様式の独特なフォルムが遠くのほうからでも目を惹ひきます。

私が乗ったときはほとんどの利用者が観光客でしたが、位置づけとしては公共交通なので、時刻表がありました。かご内はマホガニー調の木材を使用した重厚感あふれるクラシカルな空間で、100年前にタイムスリップできます。100年以上前の技術が現役で稼働している、動く産業遺産です。海外旅行がまた可能になったらぜひ。

次回は、チェコでトラウマになったエレベーター、パーテルノステルについて書きます。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。オリ・パラに向けたテロ対策強化中に、エレベーターの写真を撮りまくって警備員に怪しまれた。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!