マリトッツォブームの先駆け店のひとつである「EATALY(イータリー)」のマリトッツォ。バラエティも豊富

イタリア発の生クリームたっぷりの洋菓子「マリトッツォ」が大ブーム。近年のヘルシー志向に反して、なぜこんな見た目もヘビーでカロリーもスゴそうなお菓子がはやっているのか!? その理由を探ってみた!

■生クリームスイーツが流行中!

タピオカブームが落ち着き、今年はブリオッシュのようなパン生地に生クリームを挟んだ「マリトッツォ」や「フルーツサンド」などの生クリームスイーツが流行中! 見た目的にもカロリー的にもヘビーなこのブームについて、スイーツジャーナリストの平岩理緒氏に話を聞いた。

「長いスイーツ史のなかで、生クリームのクオリティはどんどん高くなり、乳業メーカーもさまざまな新製品開発に取り組んでいます。そのため、一見すると重たそうな生クリームスイーツでも、おいしく食べきれるようになっているのが流行のひとつの理由です」

ということで、生クリームの歴史を振り返りつつブームの理由をひもといていこう。

話は1950年代にさかのぼる。

「それ以前は家庭に冷蔵庫が普及していなかったため、ケーキの飾りには常温保存可能なバタークリームが使われていました。その後、冷蔵庫の普及とともに生クリームも浸透しましたが、まだまだ高級品。

その象徴のひとつとして、1951年公開の小津安二郎監督映画『麦秋(ばくしゅう)』では、1個900円、今の価格なら約1万円もする生クリームのショートケーキが登場。食べるのに躊躇(ちゅうちょ)するシーンが描かれています」(平岩氏)

そこで家計を助ける存在として浸透したのが、ホイップクリームだった。

「生クリームの代替品として、安くて日持ちする『ホイップクリーム』が普及。味にこだわる個人店では『生クリーム』を選ぶことが多い一方、大手メーカーや複数店舗を展開するチェーンなどではホイップクリームを使用することが増え、『生クリームは高級感があり、ホイップクリームはより手頃』というイメージでした」(平岩氏)

■生クリーム革命のロールケーキ

しかし、その流れに変化が。

「2007年頃から、大阪発のロールケーキ『堂島ロール』(現モンシェール)が東京に進出。1000円前後でたっぷり生クリームを味わえる一本巻ロールケーキがブームに。

その流れをくみ、2009年、コンビニ発の"生クリーム革命"が起こります。ローソンから生クリームを多く使用した『プレミアムロールケーキ』が誕生し、コンビニで本格的なクリームが味わえるようになったのです。コンビニスイーツ史上最大のヒット商品になりました」(平岩氏)

ローソンの「プレミアムロールケーキ」

コンビニジャーナリストの吉岡秀子氏はこう振り返る。

「それまでのコンビニスイーツのクリームは、工場生産で配送する必要があることから、固く作られたものが主役。しかしローソンが乳脂肪分を高めた専門店のクオリティを実現し、同時に『UchiCafe(ウチカフェ)』ブランドを立ち上げ、『コンビニスイーツ=ボリューム重視』というイメージを一新しました。同時に他社のコンビニでも、クリームの本格化が進んでいったのです」

こうして、生クリームに近い味がコンビニでも手に入るようになり、こんな現象が。

「原乳の原産地にこだわったりブレンドしたりと、生クリームのバラエティ化が起こりました。2017年に原宿にオープンした日本初の生クリーム専門店『MILK』が販売した北海道・根釧(こんせん)地区産のオリジナルブレンド生クリーム使用の『ミルキーソフトクリーム』、さらには北海道の素材にこだわったスイーツ店『Good Morning Table』が2018年に販売した『生クリームバーガー』などインパクトある品も続々と誕生し、メディアをにぎわせたのです。今や日本は世界一、生クリームのバリエーションがあるといわれているほど、アレンジが豊富になっています」(平岩氏)

このような進化を背景に、生クリームとフルーツサンドの注目度が増し、昨年頃からマリトッツォがブームになったわけである。

「さらに、味もさることながら、ブーム最大の理由は、2018年からの第3次タピオカブーム同様、SNSでの『映え』要素。どちらも基本はシンプルなものなので、トッピングをしたり、手作りしたりと、各店や自分だけの個性を演出し、SNSでより発信されやすいのです」(平岩氏)

そして、各企業オリジナルのマリトッツォも次々と誕生。例えば、ウェンディーズ・ファーストキッチンではメロンパンにクリームを挟んだ「メロトッツォ」、京都のローカルスーパーチェーン、スーパーマツモトでは店名をもじった「マツモットォ」が販売され、ツイッターでバズった。さらに、コロナの流行もブームを後押ししたという。

「マリトッツォはイタリア生まれ。海外旅行に行けない今、少しでも海外気分を楽しみたいという思いや、現地ではプロポーズに使われるというロマンチックなストーリー性も話題になりました」(平岩氏)

ネタとしてもSNSでバズりやすい。ファストフードチェーンのメロトッツォ

ローカルスーパーの店名をもじった商品も話題に

■コンビニでもクリームブーム!!

そして、クリームブームはコンビニスイーツ界にも到来。吉岡氏はこう語る。

「コンビニスイーツは世の中のトレンドがいち早く反映されます。さらに、スイーツとの買い合わせが多い『淹(い)れたてコーヒー』の味ともリンクしている。というのも、今年の夏は各社キリッとスッキリ系の後味のアイスコーヒーにリニューアル。それにより、クリームたっぷりのこってり味スイーツの人気が加速しています」

ということで、オススメのクリーム系商品を吉岡氏に紹介してもらった。

「まずはやりの『マリトッツォ』はセブン-イレブンを推します! クリームのクオリティが高く、ミルキーでふわっとした舌ざわり。クリームに配合されているオレンジピールがさっぱり感を生み、相当なボリュームですが、最後まで飽きません」

マリトッツォ〈セブン‐イレブン〉230円。本家同様、ブリオッシュ生地にホイップクリームがたっぷり

進化系のマリトッツォも。

「ファミリーマートの『クリームシフォン マリトッツォ風』は、生地がシフォンなのが面白い。パサつかず、本家より好きという人も。メインはホイップクリームですが、生クリームも配合されているので、コクがあるけどさっぱりという、両クリームのいいとこ取りに成功しました」

クリームシフォン マリトッツォ風〈ファミリーマート〉184円。オレンジ風味のシフォン生地で、ホイップクリームをサンド

では、フルーツサンドは?

「通常300円程度が相場のコンビニサンドイッチのなかで約400円と高価ですが、セブン-イレブンの『いちご入りフルーツミックスサンド』はオススメです。『エグパティシエール』というブランド卵を使用したカスタードとホイップクリームが濃厚。

いちご入りフルーツミックスサンド〈セブン‐イレブン〉370円。いちご・キウイ・桃・パインが入ったボリューミーなサンド

また、ローソンの『フルーツミックスサンド』も、なめらかなホイップクリームの程よい甘さと、キウイ、黄桃、パインの酸味のバランスが絶妙。2009年に"生クリーム革命"を起こしたローソンはやはり強い」

フルーツミックスサンド〈ローソン〉296円。大きめなキウイ・黄桃・パイン。オレンジゼリーも隠し味に

その他のクリームたっぷり系商品では?

「セブン-イレブンの『ホイップクリームのミルクプリン』は、ふんわりホイップとぷるぷるプリンのふたつの食感が同時に楽しめます。セブン-イレブンはミルク寒天、杏仁豆腐などミルク系スイーツが得意なので、このプリンのミルキーさも絶妙です」

ホイップクリームのミルクプリン〈セブン‐イレブン〉218円。ホイップクリームの下には、カラメルソースとやわらかいプリンが

ふたつの味を楽しめるという点ではこちらもオススメ。

「ファミリーマートの『ダブルクリームサンド(ホイップ&カスタード)』は、クリーム好きなら文句なしの一品。甘すぎないホイップとカスタードを贅沢(ぜいたく)に配合。生地もふわふわで、まるで片手で食べられるショートケーキです」

ダブルクリームサンド(ホイップ&カスタード)〈ファミリーマート〉128円。スポンジ生地の中にホイップ&カスタードクリームがぎっしり

最後は、今の季節にピッタリの商品。

「クリームなのに爽やかに食べられるのはローソンの『パイコロネ 塩バニラホイップ』。ミルキーだけど、味を邪魔しない程度の塩気でさっぱり感も。パイ生地もサクサクで軽い口当たりです」

パイコロネ 塩バニラホイップ〈ローソン〉185円。バター風味のパイ生地に、ロレーヌ岩塩使用のバニラホイップ入り

進化するクリームスイーツ。好きな人はもちろん苦手な人も、今の技術がいかほどか自分の舌で確かめてみては!?

*価格はすべて税抜きの本体価格です。取り扱いのない店舗もあります