新型ゴルフヴァリアント(左)とレヴォーグ(右)を独断のみで比べた小沢氏。これまでレヴォーグを絶賛してきたが結果はいかに!?

8年ぶりにフルチェンしたゴルフヴァリアントが7月28日に販売開始となり話題を呼んでいる。そこで、自動車ジャーナリストの小沢コージ氏が、試乗会に最強ライバルを勝手に持ち込んでガチ比較、その実力に迫った!

■新型ヴァリアントはコスパが相当イイ!

小沢 ワゴン好きに朗報だ! 期待のスポーツワゴンがついに登場したぜ! ズバリ、7月28日に日本デビューを飾った6代目ゴルフヴァリアントだ。コイツはCセグメントの"ベンチマーク"と呼ばれるコンパクトカー「ゴルフ」をベースにしたステーションワゴンだが、この新型は出来がイイ!

スタイルはカッコいいし、パッケージも大幅進化。ニッポンが誇る最強ワゴンのスバル・レヴォーグを食いそうな勢いだ。つけ加えるとこの6代目はコスパもすこぶるイイ!

――いつもレヴォーグをホメているのに!

小沢 悩ましいところではある。何せ現行レヴォーグはマジでスゴい。昨年のフルチェンで2代目はボディ、骨格、スタイルを一新し、1.8Lフラット4ターボも完全新作! オマケにレベル2の運転支援システムで最高峰ともいえる「アイサイトX」もある。しかも、レヴォーグは昨年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを戴冠しており、そこらへんのワゴンでは超えられんよ!

――あ、いつもっぽい。

小沢 ぶっちゃけ、SUV旋風が巻き起こっている昨今、国内では各自動車メーカーがワゴンから続々と撤退している。そんななかで気を吐いているのがレヴォーグよ。月販も2000台前後をコンスタントにキープしている。キモはワゴンの魅力を知り尽くしたスバルならではの造り。SUVより背や重心が低い分、走りや空力はスポーツセダン並みだし、それでいてラゲッジも広く、使い勝手が超イイ!

――なら、新型ヴァリアントは具体的にどこがレヴォーグよりいいんスか?

小沢 論より証拠ってことで、今回、オザワはレヴォーグの最強モデルであるSTIスポーツを、箱根で行なわれた新型ヴァリアント試乗会に持ち込み比較してみた。まずスタイリングはどちらも素晴らしい。ただ、実直なスバルらしからぬワイルドなデザインも魅力的だが、ワゴン専用ボディを初採用した新型ヴァリアントが光る。

旧モデルはハッチバックのリアをムリヤリ延長した感があった。ところが、新型はホイールベースをハッチバックと比較すると5㎝も伸ばした専用デザインだから見た目が先代とは全然違う。オマケに後端をクーペのように寝かしているから、非常にエレガントな見た目になっている。

フォルクスワーゲン「ゴルフ ヴァリアント」価格:305万6000~389万5000円、発売:2021年7月、値引き:8万円、リセールバリュー:B。コロナの影響で登場が遅れていたが、7月28日、ついに日本発売となった6代目となる新型ヴァリアント。実に男前な顔だ

ボディサイズは全長4640㎜×全幅1790㎜×全高1485㎜。最小回転半径は5.1mだ

残念ながらオプションではあるが、電動で開閉可能となる「パワーテールゲート」を初採用している

――確かに。

小沢 特に斜め後ろから見るとハッチバックベースとは思えぬ、別物感がハンパない! それからレヴォーグを超えたと思えるのが、ワゴンで最も重要なラゲッジ容量よ。

レヴォーグがフロア下収納を合わせて561Lなのに対して、新型ヴァリアントは611L! レヴォーグも決して狭くないが、新型ヴァリアントはそれを50Lも上回っている上に、ボディの全長は新型ヴァリアントのほうが逆に11㎝も短いんだよ!

――つまり、新型ヴァリアントは、見た目は小さいのにトランクがかなり広いと?

小沢 そのとおり。ただし、ここはスバルのワゴンの根本的メリットに起因する部分でもあるんだが、レヴォーグはなぜ全長の割に荷室が狭いのか? 実はエンジンが縦置きだからなんだよ。スバルは走破性の高い四輪駆動が売りで、それを可能にするのが、スバル自慢のシンメトリカルAWD。

つまり、重心の低いフラット4エンジンを縦置きレイアウトにすることで前後重量バランスはもちろんのこと、左右のバランスも良くなっている。その結果、エンジンルームが長くなるため、どうしてもラゲッジは狭くなってしまうんだ。

――新型ヴァリアントの荷室が広い理由は?

小沢 新型ヴァリアントのベースであるゴルフは、室内スペースを優先した横置きエンジンのFFレイアウトを採用しているからだよ。そのため、走りの個性はレヴォーグに負ける。ただ、ゴルフシリーズが積み重ねた走りの上質さでは負けていないけどね。

荷室容量は611L。ちなみに後席を全部倒した場合の荷室容量は1642Lを誇る。荷室の広さは魅力的だ
エンジンは2種類を用意。どちらも48Vのマイルドハイブリッドシステムを搭載する1LTSIと1.5LTSIだ
インパネはハッチバックと同じ最新の通信モジュール内蔵のインフォテメントシステムを標準装備!

■レヴォーグより価格が安い新型ヴァリアント

――実際に乗った感想は?

小沢 レヴォーグは177PS&300Nmの1.8Lフラット4エンジンの1択で、新型ヴァリアントは110PS&200Nmの1L直3ターボ+48Vマイルドハイブリッド(MH)と、150PS&250Nmの1.5L直4ターボ+48VMHの2択だ。レヴォーグと価格を合わせる意味もあり、新型ヴァリアントは1.5Lモデルを引っ張り出した。

正直、出足のしっかり感、ステアリングの手応えはパワーがあり、重量バランスの優れたレヴォーグに軍配が上がる。ただし、新型ヴァリアントはベースであるゴルフのハッチバックから車重が70㎏ぐらいしか重くなってないのがキモ。コイツが意外とよく走る。

発進時はMHのモーターアシストが使えるのでスッと前に出る。そして燃費がイイ! そもそも水平対向ターボは燃費に不利なエンジンだが、WLTCモードで見るとレヴォーグが13.6㎞/Lで、新型ヴァリアントが17㎞/Lとけっこう差が出る。燃費はヴァリアントの勝ち。

――先進安全面はどうです?

小沢 高速道路でアイサイトXを使うと、レヴォーグはスムーズに前走車のペースを把握して勝手にスピード調整してくれるし、車線内のレーンキープアシスト性能もスゴい。上級ドライバー並みのラインでステアリング操作をしてくれる。ただし、新型ヴァリアントもハイテク自慢好きのVW(フォルクスワーゲン)グループがぶっ込んできた同一車線運転支援「トラベルアシスト」付き。コイツの機能がマジでスゴい。

確かにアイサイトXのような高速道路でのカーブ前速度制御や料金所前速度制御、時速50キロ以下での渋滞時ハンズオフアシストはできないが、ステアリングに手を添えているだけの同一車線自動運転に関してはレヴォーグと同等の性能を持っている。しかも、新型ヴァリアントのトラベルアシストは全車標準装備よ。

――なるほど。

小沢 アイサイトXは搭載グレードが限定されているし、そもそも価格帯もレヴォーグが約310万円スタートで、新型ヴァリアントは約305万円スタートと超お手頃。レヴォーグにアイサイトXをつけるとほぼ350万円スタートになるからね。マジな話、ヴァリアントのほうが安いのよ、ドイツ製の輸入車なのに。

スバル「レヴォーグ」価格:310万2000~409万2000円、発売:2020年10月、値引き:8万円、リセールバリュー:B。レガシィの後継モデルとして誕生したレヴォーグ。現行モデルは2代目となる。走りもスゴいが、先進安全装備も超充実だ
中央には11.6インチの大型センターインフォメーションディスプレイがドーン
荷室容量は492L。フロアボードの下には、69Lのサブトランクがある
後席の室内空間は納得のレベル。本革シートはSTIスポーツ専用だ

――要するに同程度の性能で、国産車よりドイツ車のほうが安いと。

小沢 そのとおり。最上級グレードで比べるとレヴォーグSTIスポーツのEXが約409万円なのに対し、新型ヴァリアントの最上級モデルであるRラインは約389万円。

だけどインテリアのデジタル性能においては、STIスポーツEXはスバル初の縦型11.6インチセンターディスプレイが標準装備なのに対し、新型ヴァリアントRラインは、ナビのディスカバリープロパッケージをつけないと性能的に対抗できない。気になるハイテク系オプションを選ぶと420万円は軽く超える。

――ほおほお。

小沢 さらに言うとレヴォーグのSTIスポーツは本革シートが標準だけど、新型ヴァリアントRラインはファブリックとマイクロフリース素材のコンビシートでリッチさはイマイチ。

――どっちがオススメ?

小沢 フツーのクルマ好きには新型ヴァリアントを推す。コイツのほうがサイズ的に扱いやすいし、荷物も載る。しかも燃費も良好だ。装備を割り切ると価格もお手頃だと思う。しかし、スバル車ファンやアイサイトXのハンズオフをどうしても試したい人はやっぱりレヴォーグかなと。

●小沢コージ(Koji OZAWA)
自動車ジャーナリスト。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週木曜17時50分~)。『ベストカー』『日刊ゲンダイ』など連載多数。著書に共著『最高の顧客が集まるブランド戦略』(幻冬舎)など。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeチャンネル『KozziTV』