「強い絆でつながっているから大丈夫」と思っていたら大間違い。実は「大人の友情」は意外と簡単に壊れるものだった......。その理由を専門家が解説する!

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■友情とは好意のやりとりだ!

お笑いコンビ「雨上がり決死隊」が、8月17日に吉本興業の公式ユーチューブチャンネルと「ABEMA」で解散を発表した。

1989年の結成から30年以上。『アメトーーク!』(テレビ朝日系)などの冠番組を持つ人気芸人コンビとなったが、宮迫博之さんは反社会勢力の忘年会に事務所を通さないで参加していた闇営業問題で、2019年に吉本興業との契約が打ち切られ、その後はユーチューブなどを中心に活動していた。

一方で闇営業に参加しなかった蛍原 徹さんは、吉本興業所属のまま『アメトーーク!』などのMCを続けていた。

「冠番組まで持った知名度のあるお笑いコンビが解散を発表するのは非常に珍しいこと」

そう話すのは、芸能リポーターの井上公造さんだ。

「長年、別々に活動しているお笑いコンビはたくさんあります。わかりやすい例でいえば、ツービート。それぞれが違う仕事をしていても解散していなければ、またいつか一緒にお笑いができるからです。でも、解散となると違う。『おまえとはもう一緒にやらない』という意味になるからです。それだけの強い意志が蛍原さんにはあったわけです」

その理由とは?

「会見で蛍原さんは『宮迫さんがユーチューブを始めたとき事後報告だった』と言っていました。宮迫さんは『蛍原さんとテレビで一緒に仕事がしたい』『アメトーークに出たい』と言いつつも、蛍原さんとコミュニケーションをほとんど取っていなかった。テレビに戻ることよりもユーチューブに出ることを優先していたわけです。

そうなると蛍原さんとしては『本当は自分ではなくユーチューバーのヒカルさんとコンビを組みたいのではないか』という気持ちになってしまう。そういう不信感が募っていって我慢できなくなったのでしょう」

【人間関係はお金のやりとりと同じ】100円の商品を得るためには「先に100円を支払う」か「後から100円を払うと約束するか」。この100円が人間関係でいう「好意」だという

30年来の友情もちょっとした言動で壊れてしまうわけだが、そもそも、この"友情"とはなんなのか? 心理学関係のベストセラーを多く持つ精神科医のゆうきゆうさんに聞いた。

「心理学で『友情とは〇〇である』という定義は自分の知る限り存在しません。ただし、どんな人間関係もお金のやりとりで説明できます。

例えば100円の商品を得るためには『先に100円を払う』か『あとで100円を払うと約束する』しかありません。人間関係もこのお金のやりとりに近い部分があります。心理学では、これを『社会的交換理論』と言います。

人間関係におけるお金は『好意』です。『相手からこれだけの好意をもらったから、同じくらいの好意を返そう』とか『今後、これくらいの好意をもらえそうだ。そのために付き合いを続けよう』などと考えて人は人間関係を決めていきます。

友情でも愛情でもビジネスでも家族関係でも、この法則は成立します。その人と一緒にいることで受け取る好意や親切の量が多ければ人間関係は続きます。ちなみに、家族なら子供が元気に育っているだけで親はうれしい(好意を得ている)ものです」

では、長年続いてきた友情(好意のやりとり)が壊れるのはどんなときなのか?

「一番大きいのは『生活エリアや活動分野が異なるものになったとき』だと思います。

例えば、高校を卒業して、ひとりは地方、ひとりは都会など生活エリアが分かれると、会うのも連絡するのも手間になります。得られる好意に対しコストが大きくなると関係は続きづらくなります。どんなにいい商品でも遠い店にあると買いに行きづらいですよね。遠距離恋愛が続かないのも同じ理由です。

また、仕事の分野が変わると会話は合いづらくなります。男性同士の場合は収入レベルが変わることによって相手に劣等感を抱くのも友情が続けられなくなる一因です。たとえ相手からの好意が多くても、嫉妬というネガティブな感情が増えたらマイナスのほうが多くなりますから」

お笑いコンビのなかには解散しなくても、長年別々に仕事をしている人たちがいる。しかし、雨上がり決死隊は解散という道を選んだ。この背景には何があるのか?

「雨上がり決死隊さんだけの話をするならば、宮迫さんがユーチューブを始めて『生活エリア』や『仕事の分野』が変わったことなどが考えられます。

あと、心理学では『インボルブメント(巻き込み)効果』というものがあり、人は巻き込まれると親近感を強めます。逆に相手に『まったく相談をしないで何かを決める』と、相手は疎外感を感じていやな気持ちになってしまう。そういうことがあったのかもしれません」

■大人の友情は壊れやすい!

では、過去に解散を経験したお笑いコンビはどんな気持ちだったのか? 『M-1グランプリ』の準決勝に3回進出したことのある「号泣」のツッコミ担当で、今は手相占いなどで人気の島田秀平さんに聞いた。

「『M-1グランプリ』は当時、結成10年までという参加資格で、その期間までに決勝に行けなかったこと。そして、相方の赤岡典明が『芸能界を辞めたい。もう人前には出たくない』という理由で解散しました。

僕らは幼なじみだから地元に友達がいるし、母親同士も仲がいい。それでも解散してからは電話すらしない状況でした。例えば、離婚した夫婦が子供のことで必要に迫られれば連絡するけれど、それ以外は一切コミュニケーションを取らない。解散するとやはり距離を置いてしまうんです」

しかし、号泣は昨年、12年ぶりに再結成した。

「僕のユーチューブに急に相方が出てくるというドッキリを仕掛けられたんです。その後に放送作家の倉本美津留さんのユーチューブにふたりで出ることになり、『M-1』は(解散していた時期を除き)結成15年目まで出られるようになったから、『おまえら出ろ!』と倉本さんに言われて、勢いで『はい。出ます!』と。

誰かがお膳立てしてくれなかったら、再結成は難しかったと思います。やはり、お互い意地もプライドもあるので」 

では雨上がり決死隊に再結成の可能性はあるのか? 前出のゆうきさんが答える。

「人間は基本的に、行動に一貫性を持たせたがるものです。配信で蛍原さんが、あそこまで『もうダメだ』と明言してしまったら、多少、関係が良くなったとしても再結成はないのでは。もし、簡単に再結成をしてしまうと、その後の発言が軽く見られてしまうからです。

もし可能性があるとしたら、一番は『時間』だと思います。人の感情は揺らぎますので、気持ちが軟化するのを待つのがいいでしょう」

前出の井上さんは、宮迫さんが誠意を見せない限り再結成はないという。

「蛍原さんと一緒にやりたいという気持ちが本当ならば、毎月コントの台本を書いて蛍原さんに送るなどして、それを何年も続けられるかどうか。テレビの地上波に出るのは難しいでしょうが、ライブに出ることは可能ですから」

【友情を壊さないためには、こまめに連絡を】日頃からコミュニケーションをとっていないと友情は壊れがち。定期的に連絡をとる努力を

最後に「大人の友情を壊さないためには何をすればいい?」とゆうきさんに聞いた。

「学生時代は人間関係が限定されているため、友情が続きやすいんです。例えば、中学や高校は基本的に同じ学校の相手との関係が3年間は続きますから。

しかし大人になると、職場のほかにもいろいろな関係ができますから、ひとりとの友情も薄れがちです。仕事での明確な結びつきがないと『この相手との関係が悪くなっても別の相手がいる』と思い関係が続きにくくなります。

そうした大人の友情を壊さないためには、月並みですが『こまめに連絡を取り合うこと』『収入など嫉妬につながる情報は聞かないこと』に尽きるでしょう」

強い友情で結ばれているから自分のわがままも許してもらえると思ったら、意外と簡単に大人の友情は壊れるのかもしれない。気をつけよう。