各路線の駅の麺「駅麺」をひたすら食べる番組『麺鉄』(BS-TBS)のロケにて。そばに交ざった1本のうどんに不思議とテンション爆上がり
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、ひとつのメニュー内の"じゃないほう"の食材について語る。

* * *

前回ご紹介した、ソフトクリーム屋のうどんや黒毛和牛専門店のキムチなど、飲食店の看板メニューではないけど絶品という「じゃないほうグルメ」。しかし、ひとつのメニュー内の"じゃないほう"もあるな、と気づきました。誰かにとっては「そこ!?」となる食材が、誰かにとっては「メイン」である可能性があります。

わかりやすいところだと、茶碗蒸(ちゃわんむし)のギンナン。茶碗蒸しは豪華な見た目なのに、あの優しい味わいが口に広がった瞬間のほっこりする裏切りがたまりません。体中に染み渡るだしの風味、ギリッギリに固めた卵の絶妙な滑らかさ。シイタケや鶏肉などもいい仕事をしていますが、やはりメインは、中盤に発掘されるひと粒のギンナン。他の具を食べ終えた後、トゥルンと喉を滑り落ちる卵をひと口だけ残し、ギンナンを味わうのが私の定番です。

このギンナンをアクセントとしてとらえるなら、中盤に食べるほうがほろ苦さやもっちり食感が映えるかもしれませんが、私の中では茶碗蒸しの目的はこれなので、トリとして大切にとっておきます。栄養価、季節感、彩り。ギンナンが入っていなかった茶碗蒸しを思い出すと、いまだに怒れます(何粒も入っていたのはそれはそれで怖かったです)。

八宝菜のウズラの卵も近い存在かもしれません。トロトロの餡(あん)とシャキシャキの野菜に隠れたホクホクの良心でもあり、中華特有のしっかりした味つけの中では淡泊な"駆け込み寺"でもあります。すなわち、ウズラは八宝菜の本体である。多すぎても少なすぎても違うけど、個人的には入れすぎなほどでも好き。

続いては、ちゃんこ鍋の油揚げ。白菜、鶏団子、鶏もも肉、豆腐、ネギなど、具だくさんなちゃんこ鍋の中で油揚げの存在は見落とされがち。しかし!ちゃんこは、油揚げをおいしく食べるためのものと言っても過言ではありません。細切りした油揚げをかみ締めたときにじゅわっと飛び出すだしの魔力ったらないです。

しかも、しっかり具材のうま味を吸い、鍋の前半・中盤・後半では味わいが違う。噛かめば噛むほど感じる油揚げそのもののほのかな香ばしさも最高。鍋料理全般で、油揚げは主役に躍り出る実力があります。疑う人は、ホウレンソウや水菜、豚肉、そして油揚げだけの鍋を一度どうぞ。わが油揚げが肉を超えます。

とんかつ定食のお米もそう。私はとんかつを口に入れる前に、お米にワンバウンドします。豚肉の脂、こぼれ落ちた衣のかけらとソースがちょっとずつ白米に蓄積していき、「天使の落とし物丼」が完成。最後に塩をひと振りしていただくのもオススメ。おかずをお米にバウンドさせるのはマナー違反なのは承知ですが、とんかつの衣がかかったご飯の背徳感、最高です。

最後の隠れメインは、チェーン店や駅そばに交ざってしまった1本のうどん。伸びてしまっている場合も多いし味に影響はないですが、宝物を見つけたように「ラッキー!」となります。同じように、アメリカのファミレスではスパゲティの中にうっかりリングイネが忍び込んでいることがありますが、不思議と得した気分になります。

って、1本の麺はさすがにメインにはならないか......。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。黒蜜で少しグチャっとなったきな粉を食べる機会を常にうかがっている。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!