フィギュアの祭典「魂ネイションオンライン2021」に参加しました。欲しいものだらけでした
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、「世界初のSFコン」について語る。

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コミケ、コミコン、SF大会など、サブカルイベントやいわゆる「オタク」向けのコンベンションが、世界中で当たり前のように開催される時代になりました。現在も続いている世界初のSF大会とされるワールドコンは、1939年に米ニューヨーク州で始まりましたが、SFの歴史を考えるともっと早くからイベントや特定の作品をテーマにした集まりがあったはず。そんな疑問を調べているうちに、なんとタイムトラベルの存在に関するエビデンスを発見しました。お付き合いください。

世界初をうたっているSF大会やコミックのイベントはいくつかあります。1930年代前半のものがほとんどですが、私の調べたところ、1891年にイギリスで開催されたイベントが最初といっていい気がします。場所は、ワーグナーやバーンスタインが指揮棒を振り、ビートルズやビヨンセが名演を刻んだ世界的演劇場、ロイヤル・アルバート・ホール。SFやファンタジー全般ではなく、エドワード・ブルワー=リットンのSF小説『来るべき種族』をテーマにしたイベントでした。

名言「ペンは剣より強し」でも有名なブルワー=リットンですが、当時はディケンズに勝る人気作家。『来るべき種族』の大ヒットに便乗したある医師が、自身が経営する病院のチャリティイベントとして大々的に開催したそう。

当時の新聞記事によると、参加者はキャラクターや世界観に合った格好で来場し、会場は小説に出てくる古代文明や超エネルギー「ヴリル」のイメージで彩られるなど、現代のスタートレックコンなどとやっていることが一緒。アルバート・ホールのアーカイブにパンフレットがありましたが、会場の地図も今のSFコンとあまり変わらず、グッズや関連本のブース、仮装を自慢できる広場もありました。

珍しいものだと、「Demon Dog(reads minds)」というブース。読心術をする悪魔犬!? 現代のイベントがめちゃくちゃつまらない気がしてきた......。ボヴリルという、牛のエキスのヘンテコな飲み物のブースもありました。今でもイギリスでおなじみの飲み物ですが、このイベントでは新商品として出されたそうで、名前も「ボー」(ギリシャ語で牛)と「ヴリル」を合わせた造語。ガンダムカフェの「キャスバル・大根」も、ボヴリルのように作品から離れて定着する日がいつか来るかも......。

と、ここまで聞くと、さぞ大盛況だったと思いますよね。実は、宣伝と設備にかなり投資したのに、お客さんはほとんど来なかったみたいです。ちょっとでもペイできるよう、チケット代を下げて2日間延長したものの集客につながらず、会場はスカスカでした。

ここで、私の推察。SF好きは、この歴史的イベントに行ってみたいと思うはず(私も行きたい)。もしタイムトラベルが存在していたら、この時代に戻って参加する人が多数出てきます(「ヴリル」というコンセプトがひとり歩きして都市伝説的な意味合いがついてしまったから、なおさら)。でも、イベントがガラガラで終わったということで、やっぱりタイムトラべルはないんだという証拠として提示します! どうだ。私の陳述はここで終わりです。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。初めて行ったスタートレックコンでは友達とはぐれてしまい、気づいたら同じ仮装をした知らない集団と歩いていた。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!