寅年にちなんで。柴又駅の路線アート
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、初詣の習慣が広がった意外な理由について語る。

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皆さん、明けましておめでとうございます。新年早々、いきなりウンチクを失礼します。

多くの人が行くだろう初詣。この習慣を広めたのは、誰でしょうか。正解は、鉄道会社!です。江戸時代までは、大晦日(おおみそか)に近所の氏神様がいる神社にこもってお祈りする「年ごもり」や、元日にその年の恵方にある神社でお参りする「恵方詣で」などの習慣があったそうです。地域や家庭によっては、三が日ではなく初縁日に参拝することもあり、今みたいにお正月にどこかの神社仏閣にお参りする、というふんわりした行事ではなかったようです(初詣という言葉もありませんでした)。

そして明治時代初期の1872年、新橋と横浜が汽車でつながりました。通勤や通学など、庶民の足として広まる前のこの頃の鉄道は、「一生に一度でも、とにかく乗ってみたい」という特別感満載のもの。その特別感にうまく乗っかり、官営鉄道は三が日の間だけ川崎駅への臨時列車を運行するようになります。そして川崎大師への参拝を「初詣」という言葉を使って宣伝。信心からのお参りだけでなく、汽車に乗る+郊外に行くというレジャー感が重なり、マーケティングは大成功しました。

1899年には、京急電鉄の前身の大師電鉄が官鉄川崎駅と川崎大師をつなぎ、さらに5年後には品川まで延伸したことにより、官鉄との集客競争が勃発。全国の鉄道会社間でも初詣客の取り合いが始まり、「神社仏閣参拝キャンペーン」などの運賃割引や特別列車が広まりました(ちなみに私が当時生きていたら、汽車も電車も両方味わえる川崎大師を選びます)。

と長々と語りましたが、去年に引き続き分散参拝の呼びかけで、三が日に参拝する人は少なかったでしょうか(私はそもそもあまりしたことがありません)。年末年始の鉄道の風物詩である終夜運転も取りやめで、寂しい思いをしている方もいらっしゃるかもしれませんが。そんな方に! 年末年始に縛られない、鉄道×ニューイヤーの楽しみ方を考えてみました。

まずは、大阪の阪堺(はんかい)電気軌道。この路線は住吉大社への輸送手段として発展した路面電車ですが、日本最古の現役の電車、モ161形の営業運転が再開されました。1928年に製造された"おじいちゃん列車"なので、数年前からお正月のみ運行していましたが、木製部分の腐食で大規模修繕が必要になり、「もう乗れずに引退かな」と思いきや。クラウドファンディングで修繕費を募集! 目標の748万円をはるかに上回る約1400万円が集まり、修繕は成功。ファンへのお礼を兼ねて、2月末まで限定で通常運行します。ありがたや?。アプリで走行位置も簡単にわかるようにしてくれている心意気も最高。

続いては、今年の干支(えと)、「寅(とら)年」にちなんだ鉄道。京都の嵐電(京福電鉄)では、しまじろうのラッピング車両が走ります。また、普段からいつでもタイガーな幾寅(いくとら)駅、古虎渓(ここけい)駅、虎杖浜(こじょうはま)駅、虎姫(とらひめ)駅、虎ノ門ヒルズ駅に行くのもあり。一番のオススメは、京成電鉄・柴又駅のホームの路線図。近くからだとただの路線図だけど、離れて見ると、あの有名な「寅」が浮かんできます。お試しあれ。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。今年の抱負は、ミスタードーナツの「チョコリング」と「オールドファッションシナモン」のおいしさをより広めること。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!