ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才？」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

＊　＊　＊

詳しくは書けないけれど、自分のなかでとても大きく、そしてとても大切な仕事上において、かなり不測の事態が発生してしまった。ので、ここ数日、できる限りの対応をしようと、寝る間も惜しんでその作業にかかりきりになっており、昨日、それがやっとひと段落した。

結果、むしろ最良の形に落ち着きそうでほっと安心したものの、肉体も精神も完全に疲れ果てていた。いったん徹底的に自分を甘やかさないと、次の行動に移れない。とりあえず、いつから食べていないかも思い出せない、食事をとろう。

午後３時ごろ、仕事場を出て石神井公園の駅へと向かいながら、どの店へ行こうか考える。なんだか今日は地元気分じゃないんだよな。なにかこう、新鮮な刺激と癒しが両立したようなメシと、酒。それを体が求めている。ただ、あんまり遠出をする心身の余裕もない。数駅の移動の範囲内でありながら、あまりなじみのない街で、その土地ならではの老舗食堂に入って軽く一杯。なんてのが理想だ。

そんなことを考えていたら思い出した。僕の住む石神井公園から３駅の中村橋駅からすぐの場所に、朝から飲める定食屋兼飲み屋「大天」という店があるらしく、ずっと心の行ってみたいリストに入っていた。今日がまさにタイミングな気がする！

そうと決まればウキウキ気分で中村橋へ。「日大二高」へ通っていた２０数年前、実家からの中継地点として毎日のように通っていたけど、大人になってからじっくり散策した回数はあまり多くない街。歩いているだけで、疲れた脳が活性化されていく気がする。

ただ、駅から徒歩１分の大天の前にたどり着くと、運悪く臨時休業。コロナ禍でこういうことに慣れっこになってしまったとはいえ、今のタイミングでお目当ての店にふられてしまうのはなかなかこたえるな......。

しかたなくゾンビのように街をうろつく。妥協すればこの時間に飲めるチェーン店はあるけれど、せっかく中村橋まで来たんだしなぁ。そんなことを考えながら歩いていたら、ふだんの僕ならばあまり気にすることのなさそうな、新しめの店の存在に目が止まった。

「極味（ごくみ）」

店頭に大きく「焼肉屋さんの唐揚げ」というキャッチコピーがあり、お弁当屋さんかな？　と覗いてみると、想像以上に広々とした店内飲食スペースがある。からあげ、焼肉弁当、韓国料理、カレー類など、メニューが豊富すぎて逆に頭に入ってこないけど、貼られたポスターの「ハッピーアワー」の文字だけはスッと認識できる。なんと、午前１１時から夜の７時まで、生ビールが２８０円、ハイボールやサワー系の酒が２００円らしい。ハッピーアワー、長っ。なんて好ましい店なんだ。もういいや、これも出会い。あんまり深く考えず、僕はこの、極味の懐に飛びこんでみることにした。

ランチメニューの一部
ランチメニューを見ると、いちおしと思われる「極味の唐揚げ丼」が５００円とお手頃だ。それぞれ７００円の「唐揚げ定食」は、ごはん、みそ汁、サラダ、キムチ、ナムル２種がつくらしく、しかも鶏もも、鶏むね、豚肩ロースを自由に組み合わせられるらしい。豚好きとしてはとても気になるところだけど、メニューのいちばん上の目立つところに、いちばんでっかい写真がどーんと掲載されている「とろける煮チャーシュー丼～煮卵添え～」が気にならざるをえないな。よし、今日はこいつでいくか！

「プレミアムモルツ生ビール」（２８０円）
こんな中途半端な時間に、こちらが申し訳なくなるほどのお手頃価格で生ビールが飲める。偶然見つけてふらりと入っただけだけど、なんとありがたい店だろうか。心のなかで両手を合わせ、ごくごくごく～っ！　......はぁ～～～。はい、今完全に報われた！　こうしていついかなるときでも、僕のことを報いてくれる生ビールに感謝だ。

「キャベツと桜エビのお浸し」（３８０円）
メインがくるまでのつまみとして、日替わりの一品メニューから頼んでおいた「キャベツと桜エビのお浸し」。できたてなのかほわりと温かく、キャベツの甘みと桜海老の風味に春を感じる絶品。量がたっぷりなのも嬉しく、想定外にビールがすすんじゃうな。

「とろける煮チャーシュー丼～煮卵添え～」（６００円）
いよいよメインが到着。ごはんの上に、刻んだレタス、チャーシュー、煮玉子、白髪ネギ、小ネギ、紅しょうがという、なかなか鉄壁の布陣。さっそくねぎの森をかきわけ、ごろごろと入ったチャーシューを箸でをつついてみる。

ホロッホロ！
するとなんたることか、軽く力をかけただけでホロホロと崩れていくほどに肉が柔らかく、もはやチャーシューっていうかフレーク状態！　その繊維をごはんに絡めて一気にほおばると......はい！　豚肉も豚肉で僕のことを報いてきた～！

甘辛い味つけと、とろける豚の旨味、それだけでじゅうぶんなのに、あえてジャンクにたっぷりとマヨがかかっている。それが今の自分の甘やかしモードにバチっとハマる。うまいうまい！　涙出る！

「ジャスミンハイ」（２００円）
とっくに飲みきってしまったビールに続き、ハッピーアワーの恩恵に預かってジャスミンハイをおかわり。こってりとしたチャーシュー丼とさわやかなジャスハイ。そのループを、無我夢中で楽しんだ。

大天には必ずリベンジしたいけど、極味のからあげも必ず味わってみたい。しばらくの間、中村橋に通う頻度が上がりそうだな。

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