恥ずかしさに負けた、中途半端なマカレナを披露
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、かつて日本を含めて世界的にヒットした曲「マカレナ」の真実について語る。

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アラサー以上の人なら必ず知っている『マカレナ』。「この曲大好き!」という人はなかなかいないかもしれないけれど、一度は脳内無限再生にハマったことがある人は多いでしょう。マカレナがはやった1990年代後半、私はアメリカ在住の小学生でした。具体的な機会はひとつも覚えてないけど、学校行事かなんだかでたびたび踊らされた記憶があります。

誰でも簡単にマネできるキャッチーなダンス、親戚の結婚式はもちろん、米・民主党全国大会でヒラリー・クリントン氏などの党員たちが不器用に踊っていた姿をぼんやり覚えています。日本を含めて世界的にヒットし、いわば「バイラル」という言葉が生まれる前のバイラルコンテンツでしたね。そして25年強たった今、ひょんなことからこの曲の真実を知りました。

もともとマカレナはスペインのおじさまふたり組ロス・デル・リオが1993年に発表した曲。95年にベイサイドボーイズによるダンスリミックスがリリースされ、このバージョンが記録的な大ブームを巻き起こします(MVでマカレナダンスを激しく踊る薄着の女子たちの合間に現れる、スーツ姿の渋いおじさんデュオがロス・デル・リオです。対比が最高なのでぜひ検索して)。底抜けに明るいノリと絶妙なB級感に気を取られてたのか、最近初めて歌詞を見ました。そしたら、「かわいい女子とパーティ、踊ろうぜイエーイ!」だと勝手に思い込んでた歌詞が、意外なものだったという事実が。

実際は、マカレナという女のコが、彼氏が軍隊に行っている間に、彼の友達ふたりと浮気する話。「彼はいなかったし、友達もカッコよかったからしょうがなくない!?」というマカレナちゃんの開き直りもさることながら、スペイン語も英語の表現もまあまあ際どい。無邪気にこれを踊った小学校時代のピュアさ、さよなら。当時、クラスメイトが教会で牧師さんたちと踊ったことを自慢していましたが、20年ぶりに連絡して教えたいです。結婚式で踊った人の離婚率、気になりますね。アイ!

似たような例だと、80年代を代表する曲のひとつ、ヴァン・ヘイレンの『ジャンプ』。キャッチーなシンセサイザーの導入部はテンションが上がりますが、歌詞のインスピレーションはボーカルのデイヴィッド・リー・ロスがテレビで見た、飛び降り自殺を図った男性のニュース。ロスは飛び降りを推奨していないし、「ほかにも意味がある」と明言していますが、テンション爆上げソングのきっかけがこんなにテンションが下がるものだったとは。以前、空耳アワーでサビの「Might as well jump」(飛べばいいじゃん)が「松江城」に聞こえるという投稿がありましたが、今後は松江城をメインの意味と考えます。

ネーナの『99 Luftballoons』(邦題『ロックバルーンは99』)はかわいくポップな曲調とは裏腹に核戦争が題材だったり、ザ・ナックの『マイ・シャローナ』は未成年の女性に恋心を抱くアウトな男の話だったり、知ると少し夢が壊れる曲はたくさん。明るいからこそ、重いテーマが染みる場合もありますが、マカレナは何度考えても「なんで!?」となります。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ジャングルポケットの斉藤さんの「ハァーイ」を聞くたびに、マカレナが脳内再生する。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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