ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

映画「シン・ウルトラマン」を見た。

妻が仕事休みの日に合わせ、家からもっとも近い映画館である「T・ジョイ SEIBU 大泉」で朝一の回を鑑賞。平日とあって人も少なく、とても快適に鑑賞することができた。

思えばここ数年で、僕が映画館で見た映画は、2016年の「シン・ゴジラ」、2021年の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」、そして今回の「シン・ウルトラマン」の3本(実はもう1本「映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!」も見ているのだけれど、これは娘の付き添いだったので、自発的に見たくて劇場に足を運んだという意味では3本)。

僕が高校生の時、「新世紀エヴァンゲリオン」のTVシリーズが始まり、当時いわゆるサブカル好きだった僕は、とりあえず毎週リアルタイムで見ていた。ただ、それ以降ずっとアニメに夢中だったということもないし、熱心な庵野秀明さんのファンであり続けたという自覚もない。そして今やすっかりカルチャーっ気も抜け、単なる酒好き中年となった僕。そんな人間をすらも、制作する映画が公開されるたびに映画館に足を運ばせてしまう。庵野秀明という人の作り上げる世界が、いかに底知れぬ魅力に満ちているかの証明だろう。だって失礼な話、たとえばシン・ゴジラ以前のゴジラ映画の新作を「劇場で見なきゃ!」と思ったこと、正直なかったもんな。

肝心の映画の内容に関しては、なにを言ってもネタバレになってしまいそうなのであまり触れないでおこう。ただ、とにかく盛り沢山な内容で、子供のころに何度も再放送されていたウルトラマンシリーズをくり返し見ていた身としては、序盤から大興奮。感動するシーンでもないのにぐっとこみあげ、思わず泣いてしまいそうなタイミングがたくさんあった。

それから、勧善懲悪のわかりやすさというよりは、どこかいびつ、不均衡で、不気味で、とても自分の頭では理解が追いつかないような展開や映像も多々あり、それこそが庵野さんの魅力の大きな要素のひとつなのだろうと、あらためて思った。どこかで、そのわからなさを求めている自分がいるというか。

なので中盤以降はなんだかずっと、夢を見ているような感覚だった。僕はたまに、夢できっちりストーリーのある架空の大長編映画をフルで見るようなことがあるんだけど(残念ながら朝起きると内容を忘れてしまう)、それに近い感覚というか。

そんなちょっと普通じゃない映画体験を終え、頭のなかでぐるぐると、さっき見てきた映画のシーンがランダム再生されているような状態のなか、妻とどこかでごはんを食べて帰ろうということになった。というか、事前に食事をして帰ることは決めていて、映画を見る直前まで「どこがいいかね?」なんて話をしていた。ところが僕が若干、映画にくらいすぎてしまったというか、あまり「今の自分はなにを食べたい気分だろう?」なんて考える余裕がない。そこで妻に提案し、目の前にあるショッピングセンター「リヴィンオズ大泉店」のレストラン街にある店のなかから決めようということになった。

思えばエヴァンゲリオンのTVシリーズを見ていた高校時代、やることも金もなく、時間だけはあった僕は、地元の友人たちとたびたびこの「オズ」へやってきては(実家が大泉なのです)、レストランフロアと同じ階にあるゲーセンでメダルゲームをしたり、ただただベンチでだべったりしていたものだ。つまり、上りのエスカレーターが、もうエモい。

オズの「れすとらん街」

最上階へ到着すると、エモさが切なさに変わった。金がなかったから、当時はこのフロアの飲食店に入ることはなかったけど、たくさんの店が営業していて、どこもにぎわっていた記憶だけはある。ところがどうだろう。今やスカスカの歯抜け状態。令和の今となっては、もはや時代遅れの場所となってしまったのだろうか......。

それでも、洋食屋、インドカレー屋、そして中華の「天津菜館」の3店は営業していて、今日は中華屋に入ってみることにする。

「天津菜館」

ひとまずビールの中瓶(620円)をもらい、妻と、おつかれさまと乾杯。あの映画に対して自分以外の人がどういう感想を持つかが想像もできなかったが、「かなりおもしろかった」と言っていたので、なんだかひと安心だ。

「ビール(中瓶)」(620円)

さて、メシだメシ。名物らしい「坦々麺」がうまそうで、1000円の「サービスランチ」の内容が「坦々麺、卵炒め、半ライス、お新香」となっていてお得。だけど、ちょっと多いかなぁ。そこで単品のページを見てみると、ご飯類のなかに「エビチリあんかけチャーハン」なるメニューを発見。なにそれ、あんま聞いたことない。と思い、反射的に決めてしまった。

「エビチリあんかけチャーハン」(1160円)
やがてエビチリあんかけチャーハン到着。見た目は、うわ、そのままだ! カレーライススタイルで、大皿の片側に盛られたチャーハンに、どばっとエビチリがかけられている。

チャーハンゾーン
まずはチャーハンだけを食べてみると、あっさり味でぱらりと炒めあげられたプロの味! この軽快さが家では出せないんだよな~。うまい!

エビチリゾーン
続いてエビチリ。もったりと真っ赤なソースのなかに、大ぶりの海老がごろごろ入っていてだいぶ豪華だ。まずはもちろんエビチリだけを味見してみると、酸味よりも甘味がかなり強め。そして、割と容赦なく辛い。チャーハン用にチューニングされた味ということなのだろうか。

ぷりぷりの海老がうまい

が、僕は辛いものが好きなので、2、3口食べたら、もう妙に気に入ってしまった。いざ、チャーハンとの相性を確かめてみよう!

エビチリ&チャーハンで

れんげでエビチリとチャーハンを豪快にすくい、ぱくりとほおばる。うんうん......う~ん? なんていうか、少なくとも今までに自分は食べたことのない料理だから、バシッと判断ができないな。チャーハンとエビチリ、どちらも主役をはれる美味しさで、たっぷりのそれらがひとつの皿に同居している。なんだこの世界観は? 油断していると、自分の知るなかでなんとなく味と食感が近い「バターチキンカレー」を食べているような気にもなってくるけど、冷静になればぜんぜん違うし......ただ、うまい。うまいことは間違いない。れんげを口に運ぶ手が、どんどん加速する!

目まぐるしいほどのスピードで一気に食べ終え、お腹も超満腹。いや~、大満足。なんだけど、ふとふり返ると、自分は今、一体なにを食べ終えたんだっけ? という気もしてきて、頭のなかをエビチリとチャーハンがぐるぐる回る。

あれ、この感覚ってどこかで......と思ったら、さっき見たばっかりのシン・ウルトラマンの感想とほとんど一緒じゃん! はは、変なシンクロ。

「八珍麺」(1000円)

ちなみに妻が頼んだ「八珍麺(バーチンメン)」とやらは、聞いたことのないメニューではあるけれど、いわゆる「五目あんかけラーメン」の具が多いバージョンといった感じで、すごくわかりやすく美味しそうだった。

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