前回配信した記事で歯が大事なのはわかった。死を引き起こす病気につながることはわかった。それでも私は行きたくない。いや、絶対行かない。そんな人たちの叫びを聞いてみた。

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■よけいなことを義務化するな!

「国民皆歯科健診」にため息をつく人たちがいる。死んでも歯医者に行きたくない人たちだ。健康に良くないことはわかる。死の危険があることもわかる。それでも歯医者に行くなら死んだほうがマシ。とまで思い詰める彼らの叫びに耳を傾けてみた。

●生きている歯で限界に挑戦したい人

最初に語ってくれたのは、まだ31歳の若さながら四方の奥歯はほとんど死んでしまったと語るA氏。

「ここまできたら、歯医者などに行かず自分の限界に挑戦したいという気持ちです。最初に右奥歯で噛(か)めなくなり、左だけで噛むようになりました。

すると、左奥も痛み出したので、次は右の前側で恐る恐る噛む。そこもダメになって、今は左の前側で噛んでいますが、いずれ前歯だけで挑戦することになるでしょう」

痛みはない?

「めちゃくちゃ痛いです。歯の神経が生きているときは、何かが触れただけで、ピキーンという鋭い痛みが走り、そこからドクドクと脈を打つような痛みが走る。10分くらい痛みが続き、その場でうずくまっている感じです。ただ、1年くらいたつと急に痛みがなくなるんです。痛みがなくなった歯は放置します」

最近、歯のないおじさまたちがテレビなどでネタにされていますが。

「私はあの人たちを英雄だと思っています。虫歯の痛みに耐え抜いた先の〝歯なし〟ですから。大人の歯は30本程度なので、一本当たり1年くらい痛みが続くことを考えると、20~30年ほど痛みと付き合ったわけで、すごい忍耐力だと思います」

●行きたい歯医者が見つからない人

続いては、炎症がひどすぎて、ほっぺに水風船が入っているのかというくらい腫れたのに歯医者に行かなかった36歳のB氏。

「毎日市販の痛み止めを飲んで耐えていましたが、限界がきて、血迷ってしまい歯医者の検索をすることに。なるべく痛みなく治療してくれるところ。最新の医療機器をそろえているところ。ひどい虫歯でも問題ありませんとうたっているところ。

いろいろ調べた上で、最終的にある歯医者の口コミを検索したら『待たされる』『費用がかかる』『治療に時間がかかる』などのほんのちょっとしたネガな評価が数倍になって頭の中を巡るんです。

結局、どの歯医者も信用できなくなって、気づいたら、そっとページを閉じ、涙が出るくらいの痛みをじっと耐えていました。今は痛みが収まってくれたので放置しています」

痛みが再発したら?

「また限界まで耐えて、検索して、ダメだと諦めると思います。無限ループですね」

●怒られるのが怖くて逃げている人

38歳のC氏は意を決して10年前に歯医者に行ったが、それ以後、もう二度と行くまいと決めているそうだ。

「噛むことができなくなって、歯医者に行ったのですが、やっぱり無理だった&仕事の都合もあって、続けて2度予約をすっぽかしてしまい、はや10年。

今、また歯が痛み出しているのですが、その歯医者に行くと『なぜあのとき予約をすっぽかした』と怒られるのでは、と怖くなって行けず、別のところに行っても『こんな治療途中で状態が悪くなった歯をうちに見せられても困る』と怒られるのではと思い、どこにも行けずです」

よほど怒られるのがイヤ?

「怒られるのもイヤですけど、歯医者に行って今より痛みがひどくなるかもしれないのもイヤです。10年前に、やっぱり無理と思ったのが、そんなに痛みのない虫歯も削られて痛みが増幅してしまったこと。それを放置して、今に至るわけですが、今のところ歯医者に行く気はないですね」

●考えれば考えるほど不安になって行けない人

最後に、今のところそれほど大きな虫歯はないけど、歯医者が怖くて仕方ないという34歳のD氏。

「子供の頃読んだマンガで歯医者での治療中に血だらけになっているのに止めてもらえないというギャグシーンがあったのですが、それがトラウマになって歯医者恐怖症です。

痛かったら手を上げてくださいと言われるそうですが、そもそも痛いときに手を上げている余裕なんかないでしょうし、治療中の目のやり場や舌の置き場も想像しただけで不安になります。鏡で見ると、舌ってうねうね自然に動くじゃないですか......。

あとは治療中におしっこに行きたくなったらどうしようとか。とにかく、トラウマと不安のダブルパンチで死んでも歯医者には行きたくありません」

彼らの言葉を反面教師として、なるべく歯医者には早めに行きましょう。