微妙な表情でハイタッチに挑戦。相手に無視されてしまう緊張感込み
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、苦手にしているという「ハイタッチ」について語る。

 * * *

私の好きなものをつづるこのコラム、久々に苦手なものを語らせてください。体育会系とは無縁に生きてきた私にとって、人生で一度もうまくできなかった動作のひとつが「ハイタッチ」。喜びを分かち合うとき、ふたりの人間が互いの手のひらを顔より高く上げて、パチンと愉快に叩き合うアレ。歓喜を表現したいときに自然とこのしぐさが出るのが理解できないし、学生の頃、まれに求められたときは迫ってくる手に殴られるかのように感じて、後ずさってしまったものです。

だいたい、パチンとした後の手をどうすればいいかわからない。ハイタッチの勢いがないため、軌道に沿って自然に腕を下ろすことができず、気づけば自分の手だけ気まずく宙に浮いたまま。自賛を他人に見せつけるあの感じも苦手で、"陰キャ"な私には難易度が高い。しかし、パンデミックを機にグータッチや肘タッチに置き換わっているので、まぁいいか。ハイタッチ、たった44年の歴史でした。

......ん? 44年? 意外と短い、かつピンポイントだと思ったあなたは正しい。この称賛の表現としてのハイタッチは、1977年に発明されたそうです。カニエ・ウエストやオーランド・ブルームと同い年。『スター・ウォーズ』の1作目が流行し、日本のヒットチャートではピンク・レディーの『ウォンテッド』が1位だった頃のことです。

ハイタッチの起源として一番広まっているのは、77年10月2日、ドジャースのダスティー・ベイカー選手のホームランをたたえるため、チームメイトのグレン・バーク選手が、走ってくるベイカーを片手を上げて迎えた結果、ベイカーが意気揚々と自分の手を叩きつけて応えたことだそう。歓喜の末に自然と出た動きなので、「発明された」というより「発見された」のほうが正しいかもしれませんね。

ほかにも、78年にカレッジバスケットボールで初めて行なわれたとか、バスケ選手のマジック・ジョンソンが大学生の頃に考案したとか、諸説ありますが、ドジャース説が最も多く記録に残っています。ちなみに、一番少ないのは本人が言っているだけのマジック・ジョンソン起源説。

ふたりの人が手を高い位置で叩き合った、という行為はそれ以前にどこかで行なわれたはずですが、喜びの表現や挨拶(あいさつ)の概念としてのハイタッチが、70年代後半を起源とするのは間違いなさそう。80年版の英和辞典に「High Five」(ハイタッチは和製英語)が初めて追加されており、「そのくらいの時期にクラスではやったのを覚えている」と地元の友人が証言していました。High Five(高い+5本指)が、日本ではいつ誰が「ハイタッチ」と翻訳したかまでは調べきれませんでしたが、国語辞典への掲載は2008年の広辞苑第6版が最初みたいです。われこそが訳した!という方、ご連絡お待ちしています。

しかし、発明したなら、ハイタッチの完結の仕方も示してほしかったな、とつくづく思います。ハイタッチからハンドシェイクへ移行するのは変だし、ハイタッチからこぶしを振り上げるのも妙にダサい。今後、ポストコロナでハイタッチが復活するなら、スマートな腕の下げ方も発信してほしいです。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ずっと「ツイストダンスの発明者は俺だ」と言い張っていた、近所のおじさんを20年ぶりに思い出す。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!