今回はカリスマ女優、及川奈央がAVデビューした00年代初頭のお話

これまで80年代、90年代のAV界のトピックスを両監督にトークしてもらいました。

今回からいよいよ2000年代編に突入! 2000年代前半に旋風を巻き起こした、キカタン大量発生の背景とは?

山下 前回は潮吹きと、単体女優の人気を食う“キカタン”の代表格、長瀬愛が登場したっていうとこまでいったね。

松尾 21世紀に切り替わるタイミングで、いわゆるレンタルからセルへの移行が本格的に進みます…と、その前に触れとかなきゃいけないのは、AV業界のノストラダムス問題ですよ!

山下 どういうこと(笑)。

松尾 山口ナオミっていう女優がいたんだけど、彼女、「1999年に地球が滅びる。どうせ死ぬんならAVに出よう」っていうのがモチベーションだったんですよ。だから地球が滅びないってわかったらさ、「拍子抜けです」ってすげぇ落胆してたよね(笑)。

山下 オカルトな女?

松尾 全然。オッパイのデカい、いいコですよ。思想が世紀末的ってだけで(笑)。でも当時、そういう刹那(せつな)的に生きてる女って、他にも結構いた気がするんだよね。

山下 まあ、00年代頭のAV業界自体、世紀末的な感じがしたからね。VHSとDVDとネットが混在して、レンタルとセルの境界も曖昧(あいまい)になってきて。過渡期っていうか。

松尾 長瀬愛、朝河蘭、堤さやかあたりのキカタンが業界を席巻し始めたのもそれくらいの時期だもんね。

山下 キカタンを生み出したのって、セルやインディーズメーカーだったよね?

松尾 そう。レンタルメーカーじゃなくて、当時のセルやインディーズの新興メーカーなんですよ。まだどこも試行錯誤の段階だから、要するに資金繰りがカツカツなんです。本当に小さいとこは、予算が1本30万円なんて話もあって。そこで企画の制作費で単体クラスの売り出し方ができるような女優はいないものかと、各社、頭をひねって(笑)。

キカタンは都合のいい女優たち

―低予算で単体扱いできる女優って…そんな都合のいい話あるんですかね。

山下 普通に考えたらそうですよね。企画女優のギャラって当時、1本10万円以下でしたからね、顔とかスタイルのレベルでいったら、まあ、それなりになっちゃうし(笑)。

松尾 とはいえ、キカタンも売れっ子になったら1本50万とかもらってたよね?

山下 まあね。だからといって、A級単体的な扱いになるかといったらそれも違う。そもそも企画色の強い女優だから契約の縛りも弱くて、出るメーカーによって名前が違ったりしてたしね(笑)。

松尾 そうそう。とりあえず“素人”っていう体(てい)でキャリアをスタートさせてね(笑)。

山下 で、売れてくると芸名がつく。長瀬愛だって最初は“素人・ゆうか”だったから。

松尾 キカタンを撮る監督たちは、女優をあえて喋らせない演出にするとか、素人っぽく生々しく撮るための工夫をいろいろしてましたね。

山下 松っちゃんも、堤さやかは撮ってたよね?

松尾 『ミニモミ。FUCKだぴょん!』(バズーカ)ね。

―コピーが「身長150cm未満限定のミクロ系ギャル大集合!」という、当時の流行を全部入れたような作品で。

松尾 フリー監督になって肩の力が抜けたってのはあるけど、これはさすがに抜けすぎだね。そもそも俺、ギャルも身長低い女も興味ないのにさ、とりあえず流行ってたから撮ったっていう(笑)。

山下 俺も『(コギャルてんこもりマガジン)プッチ・モミ?』(ドキュメント)ってのは撮ったよ(笑)。AVにはその時々の世相をパロディのネタにする伝統っていうのがあるからね。でもさ、『ミニモミ。』って売れたんでしょ?

松尾 そう、01年に宇宙企画から出た作品で一番売れちゃって。社長賞10万円もらいました。で、調子乗って身長高い女の『デカモミ。SEXでごじゃいます!』(バズーカ)っていうのを出したら、まったく売れなかった(笑)。

AV女優は過酷な肉体労働

―02年には、キカタンの女王、朝河蘭が年間212本の作品に出演してギネス申請するという話も出ましたね。

松尾 朝河さんは実力もあったけど、あそこまで活躍できたのは、実はオマ○コが強いか強くないかっていう問題が関係してくるんですよ。

山下 それはあるね。

松尾 AVのセックスってとにかくオマ○コに負荷がかかるんです。立ちバックや騎乗位を長時間キープしながら激しく突かれるっていう、悪条件でのセックスなんで。

山下 普通の気持ちいいセックスとは別物ですからね。

松尾 実は「もっとたくさんAVに出たい」っていう女優はいるんです。けど、オマ○コが痛くて断念しちゃう。だから朝河さんはよっぽど強靱(きょうじん)なオマ○コだったんでしょう。

松尾 AV女優ってホントに過酷な肉体労働だけど、00年代頭からAV業界の門を叩くコって増えたんだよね?

山下 それまでの女のコとは明らかに毛色が違う素人が企画モノにもたくさん出演するようになったからね。

―実際、山下さんは01年の『東京CUTIES』(h.m.p)で、裏原宿のオシャレ女子たちを撮ってますね。

山下 コギャルの反動で出てきたような、普通っぽいっちゃ普通っぽい女のコがどんどんAVに来てたから。

―なぜ普通っぽいコが?

山下 AVの発売タイトル数がすさまじいことになってきたんですよ。ビデ倫、セル、インディーズ全部含めたら、年代前半って毎月600タイトル以上リリースされて。

松尾 90年代前半は年間3千タイトル程度だったから、10年で2倍ですよ。

山下 DIYでAVを作ってた有象無象もカウントすると、メーカー自体、200社以上に膨れ上がってたはずだから。

松尾 メーカーが増えまくったのは、メディアがVHSからDVDへ移行しつつあったのがデカいよね。誰でもAVをPCで編集してプレスできるようになったわけで。

山下 リリース本数が激増したら、今度はAVに出る女が足りなくなって。事務所も今が儲(もう)け時だって女を必死でかき集めてねぇ。コギャルから裏原系から、リストカットもタトゥーも、女ならなんでもアリな感じで(笑)。

説明のつかない衝動がAVに駆り立てた?

―ちなみに普通のコたちは、どんな理由でAVを志願してきていたんでしょうか?

松尾 少なくとも「AV出たら人生終わり」っていうような空気はないですね。世紀末ぐらいから、ふわっとなんとなくAVに出演する女のコが現れたように思うんです。

山下 そうかぁ?

松尾 それで俺、「なぜ女はAVに出るのか?」っていうのを単体、企画、テレクラ、出会い系とかいろんな入り口からAVに来た女に聞いて探ったんですよ。明確な答えは得られなかったんだけど、ひとつたどり着いた仮説があって。

山下 どんな仮説よ?

松尾 そのまま『裸のドキュメント 思春期、反抗期、AV女優期』(バズーカ)っていう作品のタイトルにもしたんだけど、世紀末の刹那的な空気の中で、思春期や反抗期と同じく、女たちが通り過ぎる季節に「AV女優期」ってのがあるんじゃないかと。理由もなく親に反抗するように、説明のつかない衝動がAVに駆り立てる…当時はそんなことを考えてましたねぇ。

●この続きは『週刊プレイボーイNo.44』でお読みいただけます。さらなるAVトークが全開! こちらの連載は毎週本誌に掲載中です。

(構成/黒羽幸宏 撮影/髙橋定敬 取材協力/ハマジム h.m.p アリスJAPAN)

●カンパニー松尾1965年生まれ、愛知県出身。87年に童貞のままV&Rへ入社し、翌年に監督デビュー。代表作は『私を女優にして下さい』シリーズ。『劇場版テレクラキャノンボール2013』『劇場版 BiSキャノンボール2014』が社会現象的大ヒット

●バクシーシ山下1967年生まれ、岡山県出身。大学在学中にAV業界へ。90年に各方面で物議を醸した『女犯』で監督デビュー。以降、社会派AV監督として熱い支持を受ける。『ボディコン労働者階級』ほか代表作多数。著書に『セックス障害者たち』(幻冬舎)など