『上野オークラ劇場』前ではポップ等を飾り、入口もガラス張りにして明るい雰囲気に。「Twitter等で舞台挨拶の様子を投稿したり、宣伝はもちろん“暗くて怖い場所ではないですよ”というアピールでもあるのです」(斎藤支配人)

平成26年8月には『新橋ロマン劇場』が、今年5月31日には『飯田橋 くらら劇場』が閉館し、都内には残すところ池袋と上野に4館あるのみとなってしまったピンク映画館

『くらら劇場』は昭和30年代のオープン以来、約60年間にわたり営業を続けてきたが、ビルの老朽化などを理由に閉館することになったという。

かつて最盛期の1980年代は全国で1千館以上ものピンク映画を流す映画館があり、年間200本以上もの新作映画が上映されていた。ピンク映画はいつ生まれ、どんな経緯で今のシビアな状況に陥ったのか?

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日本で唯一のピンク映画情報誌『ぴんくりんく』を発行しつつ、京都のピンク映画館『京都ほんまち館』に務める太田耕耘キ(おおた・こううんき)氏に話を聞いた。

太田「当初はお色気映画などと呼ばれていましたが、1960年中盤にはピンク映画という言葉が定着、1970年代には日活ロマンポルノが成功を収め、一般映画に関わっていたスタッフや製作会社が次々とピンク映画に参入しました。

しかし1980年代にはビデオデッキが家庭に普及しAV産業に市場を奪われ衰退、さらに1995年にウインドウズが発売され、やがてネットでAVが観られるようになって完全にトドメを刺されました。今では大蔵映画が年間36本もの新作を撮るのみですからね」

その大蔵映画が運営する『上野オークラ劇場』の名物支配人・斎藤豪計(ひでかず)氏に、1社しか残されていない中で踏ん張っている心意気を、また映像部・主任の鍋島宇宙(たかおき)氏には新作が完成するまでの流れも伺った。

―いきなりシビアな話ですが、実際のところピンク映画を取り巻く状況はどのような感じなのでしょう?

斎藤「現在、ピンク映画を作る会社は弊社と新東宝、新日本映像(エクセス)の3社です。しかし今年に入ってからは他の2社が新作を製作しておらず、今のところは大蔵映画による年間の新作36本のみということになります。つまり当館がなくなったりピンク映画の製作をやめれば、ピンク映画の存在そのものが危うくなる、というのが現状ですね」

―そんな中、6年前に上野オークラの建物をリニューアルオープンしたりと死守しているわけですね。

斎藤「いえ、大蔵映画の直営館である上野オークラ劇場の映画部門も正直、厳しいです。弊社のその他の部門の均衡経営で成り立っている、というところです。けれど、今後もピンク映画産業を守っていくぞという気持ち、何よりも大蔵映画という会社が生まれたキッカケでもあるピンク映画という文化に恩返ししたい気持ちなんですよ。リニューアルオープンには営業戦略的なものもあります」

『上野オークラ劇場』支配人・斎藤豪計氏(左)と新作映画の進行や取り決めを行なう映像部・主任の鍋島宇宙氏(右)。事務所は館内のすぐ隣にあり、取材当日はスタッフのひとりが誕生日だったためにサプライズでケーキを振る舞うシーンに遭遇する等、とても和やかな雰囲気だった。

オナニーのオカズにならなければ意味がない

―どのような営業戦略ですか。

斎藤「長年のお客様が来やすいようにバリアフリー化したのと、女性客や若者にも多く来ていただきたいためにガラス張りの扉や店頭ポップなど劇場前の雰囲気をオープンにしたり、館内も広々と清潔感のある内装や空間にこだわりました」

―確かに、シートは首まである背もたれで座りやすかったですよ!

斎藤「ありがとうございます。シネコン並みにシートはかなり高級なものを取り入れましたから!」

―斎藤さんは支配人になる前からピンク映画がお好きだったのですか。

斎藤「いえ、全然(笑)。実は03年に上野オークラの支配人になる前まではそれほど詳しくなかった。でも数々の作品を観るにつけ“なんて味わい深い世界なんだろう”と衝撃だった。上映時間が約1時間という短い尺の中でドラマ、サスペンスやコメディにパロディまで様々な世界観がある。しかも今時珍しい、原作なしの完全オリジナル新作を36本も作り続けているんですから!」

―しかもすべてにきっちり濡れ場も入ってて、と。でもやっぱり、ピンク映画=オナニーのオカズってイメージがあるんですけど…。

斎藤「そりゃ~、オナニーのオカズにならなければ意味がないですよ。かつては、新日本映像といえばエロスに向かって最大限まで攻めたアバンギャルドな作風だったり、新東宝だったら重いテーマも逃げすに描く特徴があったり、そして大蔵映画といえば明るく楽しい性描写が最大限のウリといったそれぞれの特色がありましたが。しかし現在は新作を作っているのが弊社のみという状況なので、なるべく様々なテーマの作品を作ろうとは心がけています」

―例えば、どんなテーマの作品ですか。

鍋島「こちらは私がお答えしましょう。今年6月公開の『溺れるふたり ふやけるほど愛して』は黒澤明監督の『生きる』をリスペクトした作品で、なんとなく人の心が荒(すさ)んだ現代だからこそのヒューマニズムを描いたわけです。また『萌え盛るアイドル エクスタシーで犯れ!』はエロ妄想が叶う“エロスノート”という謎のアプリを巡る作品で、漫画『デスノート』がモチーフにされていたり」

―いや~、まさになんでもアリっすね!

鍋島「リスペクトしたりフザケてるだけじゃないですよ。親の介護や自殺等を扱った社会的な弱者に対する応援歌的な物語の『純情濡らし、愛情暮らし』や、シングルマザーが新たな一歩を踏み出すまでを描いた官能ドラマ『リング リング』、夫婦の絆の大事さを問われる今だからこそ、その変わった夫婦愛を描いた『舐める女』とかもあります」

全国ロードショー作品に飽きた人に観てほしい

―やはり低予算ゆえに扱えるテーマも限られるという感じでしょうか。

斎藤「まあ、1本の製作費は300万円と決まっているので、CGが入るような凝った演出はなかなか難しいし、撮影期間も概(おおむ)ね3日と超短期間です。また、女優さんへのギャラもそれほど高くはないので、出ていただいている女優さんは本当に演技が好きでピンク映画を愛してくださる方々が多いですね」

―ものすごいタイトなスケジュールで作っているんですね! では、新作映画が作られるまでのザックリした流れも教えてもらえますか。

鍋島「大体、上映半年前には監督とテーマの打合せをし、脚本作りが始まります。そしてキャスティングやロケなどのスケジュールが決まり、撮影を3日ほどで終え、上映2ヵ月前には編集作業に入っているという感じでしょうか。もちろん同時に2、3タイトルもの映画の製作も進行してます」

―構想数年とかチャンチャラおかしいスケジュールですね。けどだからこそ、観客は撮りたてホヤホヤの映画が観られる、と。

鍋島「そうなんですよ! 世の中で起きていることに近いテーマ、それでこそ観る者に訴えかける何かがあると思っていますので、企画から撮影、完成までできる限り短期間で仕上げることは非常に意義のあることと考えています」

斎藤「逆にいえば、スポンサーもいないので(笑)、物語の中で一切の“縛りがない”。扱えないテーマはもちろん、怖い物は何もないのです!」

―いやー、以前の個性的な単館映画とか問題意識のある生々しい映画が好きだったりする人こそ観てほしいみたいな。

斎藤「そう思いますよ。全国ロードショー作品に飽きた人にこそ観てほしい。こちらでの上映期間は1週間ぽっきりという、蝉の成虫と同じ“儚(はかな)さ”もあって。映画好きなら隠れ埋もれた名作こそ観たくなるはず。こうしてる今でも、すっごい名作が上映されているかもしれませんよ!」

この取材当日の7月16日、ライター・カワイもちょうど上映初日だった新作『聖なるボインもみもみ懺悔室』を鑑賞。主演は“3boins”の名で知られる熟女トリオ、加山なつこ、伊織涼子、折原ゆかりだ。

『聖なるボインもみもみ懺悔室』主演は“3boins”の名で知られる熟女トリオ、加山なつこ、伊織涼子、折原ゆかり

ムショ帰りのヤクザ、立花が収監前に女と一緒に住んでいたアパートに辿(たど)り着くと、ベランダには黄色いパンティが…って、あの名作を思わせるパロディに笑いつつも、男女がすったもんだしながらそれぞれの居場所を見つけていくという、エロおかしい作品に爽やかな気持ちになれた。

しかも、この脚本を手がけたのは、新作の製作が発表されるや映画界が激震した超話題作『シベリア超特急Episode1』の脚本家、深澤浩子氏だというから、さらに驚きだ。過去には若松孝二や周防正行監督他、多くの才能を排出したが、その歴史はいまだ面々と受け継がれているといえるだろうか…。

◆次回配信では、上野オークラ劇場ならではのファンサービスである『聖なるボインもみもみ懺悔室』の舞台挨拶&トークショーの様子と3人の主演女優へのインタビューで、さらにピンク映画の未来についてリポート。

(取材・文/河合桃子)

●『聖なるボインもみもみ懺悔室』シネマハウス新映(浜松市)8月17日~23日、甲南劇場(甲府市)8月20日~26日、尼崎パレス(尼崎市)9月10日~16日、的場有楽座(広島市)、9月10日~16日、本町館(京都市)10月21日~27日にて上映!

『聖なるボインもみもみ懺悔室』3人のシスターが運営する「教会」に訪れるダメな男達を励ましながらも、彼女らも実は男に泣かされ、辿(たど)り着いた場だったと知った時は胸アツに!