「巨大な独裁政権が人権を無視した

国家権力が人々を監視する際、普通は「人権」が歯止めをかける。しかし、その「人権」を無視できる巨大な独裁国家・中国では、AIによる監視システムが恐ろしい勢いで進化を遂げつつある! 

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが前編に続き、中国の「超AI監視社会」について語る!

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欧米などの民主主義国家ではとうてい許されない人権無視をものともせず、何億人もの"モルモット"を使えるというアドバンテージを生かした中国のAI監視技術は、同じく国民への人権弾圧が問題視されているエチオピアなどに輸出されているといいます。権力者にとっては願ってもない"統治補助システム"でしょう。

ただ、その技術の恩恵を受けるのは独裁国に限りません。日本を含めた先進国もこうした技術を「防犯目的」、あるいは少子高齢化社会における「徘徊(はいかい)高齢者の監視・保護」などといった"善意の利用"のために買うことは十分にありえる話です。

かつての冷戦時代は、東西両陣営が「相手にはネジ一本渡すものか」という猜疑(さいぎ)心に取りつかれ、世界は真っ二つに断絶されていました。しかし、現在の国際社会ではそうした壁もなく、モノも情報も技術も盛んに行き交います。表面的には「人道的」な国家であっても「非人道」を平気でやる国家と資本主義のルールのなかで取引をすることは躊躇(ちゅうちょ)しません。

しかも、AIの技術は非常に汎用性が高い。世界中の人類の知力がひとつに結集し、絶え間なく進化していきます。たとえその根元に、中国共産党が一党独裁を続けるための「人権侵害ツール」として開発された"土台"があるとしても、他国のポジティブな技術者や研究者はその経緯をロンダリングし、さらに進化させていくでしょう。

そして、それぞれの"善意"でチューニングされた技術革新は、残念ながらいつしか再び資本主義のルールのなかで中国に還流し、次の弾圧のためのツールとなるのです。

これは、シンギュラリティ(技術的特異点)を超えてAIが人間を支配するとか、進化したAIが暴走して人類を滅ぼすとか、そういった類いのいわゆる「AI脅威論」ではありません。もっと具体的で、かつ現在進行形で進んでいる社会的な問題です。

巨大な独裁政権が人権を無視した"社会実験"を続けていることはもっと問題視されるべきだし、そこから生まれた技術が善意でロンダリングされ、世界中で運用されるのも僕は非常に気持ち悪い。これは「技術には罪はない」というような単純な話ではありません。本当にそれでいいんですか?

そんな世界は、僕には手塚治虫ですら考えつかなかったような"ウルトラディストピア"にしか見えません。

●Morley Robertson 国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日本テレビ)、『報道ランナー』(関西テレビ)、『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送)、『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)などレギュラー・準レギュラー出演多数。2年半におよぶ本連載を大幅に加筆・再編集した新刊『挑発的ニッポン革命論煽動の時代を生き抜け』が大好評発売中!!

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