どの国も国際社会においてリーダーシップを示せない「Gゼロ」の時代。あえてキープレイヤーを挙げるなら、やはり中国の習近平国家主席でしょう。

2015年の国際政治におけるキープレイヤーは誰か?

まず14年を振り返ると、主役は明らかにロシアのプーチン大統領でした。ソチ五輪開催、ウクライナ情勢に絡む西側諸国との軋轢(あつれき)、“資源ナショナリズム”とも称される強気のエネルギー外交…。スタンドプレイで国際社会を荒らし、動かしたといえます。

ただ、各国首脳が集まった11月のAPEC会議やG20会議では孤立する姿が目立ち、12月には通貨ルーブルの大暴落と、年末にかけては勢いに陰りが見え始めたという見方もされています。

おそらくプーチン大統領は、今年はそのリカバリーで手いっぱい。アメリカのオバマ大統領も、キューバとの国交回復交渉再開というアクションが進行中とはいえ、国際社会のなかでは影響力や求心力を失いつつあります。現実的に考えれば、以前このコラムでも紹介した国際政治学者のイアン・ブレマーが提唱する「Gゼロ時代」が今年も続くことになるでしょう。どの国もリーダーシップを示せず、国際社会に確固たる方向性が生まれない時代です。

しかし、それでも強いてキープレイヤーを挙げるとすれば、その人物は中国の習近平国家主席だとぼくは考えます。

習政権が発足してから2年。国内に問題が多いといわれつつも、中国共産党の重要事項を採択する三中全会で「経済改革」、四中全会では「法治主義」について議論されるなど、習主席が目指す国家づくりは進行しつつあります。

外交面でも、アジアインフラ投資銀行の設立や陸上&海上シルクロード経済帯、アジア太平洋自由貿易構想の発信など全方位的に国際社会へアピールしてきた。アメリカをはじめとする先進各国が低迷している間に、新たなルールメイキングも含め、習主席は強烈なリーダーシップを発揮しようとしています。

その姿勢が顕著に表れたのが、中国がホスト国を務めた昨年11月のAPEC会議です。排ガス規制やセキュリティ強化など、中国共産党は08年に北京五輪を開催したときと同じくらいの資金と人員をこのイベントに注ぎ込みました。習主席はその後、すぐにオーストラリアやニュージーランドなど南太平洋諸国を訪問し、自由貿易協定をはじめとするネットワークを構築すべく積極的な外交を展開しました。

中国は昨年のAPECに続いて、16年のG20会議でもホスト国を務めることが決まりました。日本がこの開催地争いに敗れたという事実を過小評価すべきではありません。中国国内では、14年を「外交豊作の年」と位置づけているほどです。

来年以降は日中の立場が逆転!?

では、習主席は今年、どんなことに力を入れようとしているのか。それは「経済外交」です。

中国では、いよいよ国内の過剰生産が本格化しつつあり、保有外貨は4兆ドルに上るともいわれています。14年はついに中国の対外投資額が、諸外国から中国への投資額を超えました。これは大きなインパクトのあるシフトで、中国は今後、国内で稼いだ資本を対外的に投資していくことになる。そのサポート役には、習主席が浙江省(せっこうしょう)共産党委員会書記を務めていた頃から良好な関係にあるとされるアリババグループのジャック・マー(馬雲)の名前も挙がっています。

今年は日本もこの流れに巻き込まれることになるでしょう。これまでは日本が中国に対して技術や資本を投資していましたが、これからは逆方向の動きがどんどん出てくる。アジアの周辺各国に対する中国の影響力も、以前とはまったく違うものになってくるはずですし、環太平洋諸国の“中国包囲網”ともいえるTPPの動向も、より重要性を増してくるでしょう。それでも中国の動きを無視できるというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/