「日本が人道支援だと強調すればするほどイスラム国から見れば敵対していることになる」と指摘する佐藤優氏

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

今回のテーマは、湯川遥菜さん、後藤健二さんを拉致、殺害したイスラム国についてだ。イスラム国の次の標的のひとつとして名指しされた日本は、今後どうすべきなのか?

(前編はこちら⇒ http://wpb.shueisha.co.jp/2015/02/12/43410/

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佐藤 彼らは一方的に自分たちのシナリオを描いて、それに沿ってカードを切っています。そのシナリオとは、この世に神様はひとつだから、それに対応するイスラム帝国をつくってるんだ。それを邪魔するヤツは許さん。それに対して中立はない、敵か味方しかないんだと、こういう話なんですね。

今回の事件への対応は、安倍政権でも、どの政権が対応しても、だいたい同じになったと思います。日本の外務省の今の情報収集能力は、ものすごく良くはないけどひどく悪くもない。問題なのは、集めた情報の評価です。情報は十分ありますが、それをどう評価して、政策担当者がどう使うのか、そこが問題なんです。

ところが、安倍首相が1月17日にエジプトで表明した「イスラム国対策としてイラク、レバノンへ出した2億ドルは、非軍事分野の人道支援だから大丈夫だ」という説明、これは外務省も政府もピントがずれていますね。

空爆はイスラム国をやっつける有効な方法ですが、そうすると、危なくてこんな所には住んでいられないと住民は思う。しかし、出ていった先で食っていけるか心配で出られない。

純粋な人道支援などない

そこに人道支援で「ちゃんと、避難先で食べて暮らせますよ」となれば、住民たちが安心して出ていける。これはイスラム国にとっては、自分の領土の住民を切り崩されているのと同じ。つまり、空爆と人道支援はセットと見られるわけで、日本が人道支援だと強調すればするほどイスラム国から見れば敵対していることになるんですよ。

逆に「赤十字を通じてイスラム国の支配地域に2億ドルを人道支援すればイスラム国との関係も落ち着くし、今回の事件の落としどころにもなる」と言ってる人もいますが、これもまったくのナンセンス。それどころか、日本や欧米諸国に対する敵対行動です。

なぜか? イスラム国だって一定の住民ケアはしてるし、福祉も医療も提供してる。もし日本からの人道支援でイスラム国の住民を助けたら、浮いたお金を彼らはテロのために使いますよ。

イランのアザデガン油田開発に日本はお金を入れないようにしましたが、それは浮いたお金でイランがミサイルや核開発をやる可能性があったから。あのときと一緒なんです。人道支援は軍事・政治と密に結びついている。純粋な人道支援などないのです。

*この続きは、明日配信予定です!

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002 年に国策捜査で逮捕・起訴、2010 年に収監される。現在は2017 年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は2月19日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ。