次期首相レース1番手に“経済だけ”を聞いた!

今年9月に控えた自民党総裁選で、「ポスト安倍」の最有力と目されている石破茂衆議院議員。

石破氏は安全保障政策のエキスパートである一方、“鉄ちゃん”としても知られ、『週刊プレイボーイ』本誌でもたびたび熱すぎる鉄道愛を語ってもらった。だが今回、彼に聞くテーマは安全保障や鉄道ではない。ズバリ、経済だ!

経済成長をどう成し遂げる? 消費税はこのまま上げていいの? そして石破氏の経済政策は「アベノミクス」を越える可能性はあるのか!? 直球インタビュー!

■低所得者の賃金上昇が経済成長のカギだ!

―まず、次期総裁選へのお気持ちを聞かせてください。

石破茂(以下、石破) 橋本龍太郎先生があんなに早く亡くなるとは思っていなかった。小渕恵三先生も殉職みたいなもの。総理総裁は全力を尽くす仕事ですから、そりゃあ……在任中に亡くなるか、任を終えてもその後長くは生きられない、と思っています。ひとりの人間としての幸せを考えたらやらないほうがいい、そんな考えもよぎります。

ただ、未来永劫(えいごう)続く政権は存在しない。現政権を支えることと“次”に備えて準備することは、どちらも自民党が国家国民に対して果たしていかなければならない責任です。長いこと国会で働いてきて閣僚や党幹部を務めた経験がある者が、“次”の任に対して「私にはできません」とは言ってはならないでしょう。

―では、早速本題に。石破さんはアベノミクスをどう評価していますか?

石破 上場企業全体の収益は過去最高を記録し、有効求人倍率も全都道府県で1を超えました。これらはアベノミクスの成果であり、素晴らしいことです。ただ、労働者の賃金があまり上がっていないのが課題です。

―なぜ上がらない?

石破 雇用が「製造業からサービス業へ」「男性の正規雇用から女性の非正規雇用へ」「生産年齢人口層から高齢者層へ」といった形で賃金の低い層にシフトしていることが大きな原因だと思います。

私は比較的、低所得な層の賃金を増やすことが日本経済のために重要だと思っています。例えば、年収1500万円の人が年収1800万円になっても消費はあまり増えませんが、年収200万円の人が300万円になれば、話は変わる。

このくらいの所得層の方々の使える額が増えれば、もう飽和していると思われがちな衣食住の面でも、ダイレクトに消費が増える可能性が高いですから、経済全体のためにもなるわけです。

―では、労働者の賃金上昇のため、政府はどんなことをすべき?

石破 ひとつはすでに安倍政権でも行なっていますが、企業に対して労働者に正当な対価を払うよう促していくこと。人口減少が進み、人手不足になっているのですから、賃金は上がるのが自然です。昨年、ヤマト運輸は「運賃の値上げ」を実施することで、賃金の上昇に対応しましたが、こういったことを当たり前にしていかなければなりません。

一方で、企業が賃金を上げられる環境、つまり売り上げをどう伸ばすかも重要です。そのためには労働生産性(従業員ひとり当たりが生み出す付加価値額)を上げていくことが必要です。特にGDP(国内総生産)の7割を占めているサービス業には改善の余地が相当あります。

―どうすれば?

石破 ヒントは例えば、JR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」にもあります。出発の半年前から何十回にもわたって利用者とコミュニケーションを取って旅の計画をプロデュースするなど、「おもてなし」を極めたサービスを展開している。価格は3泊4日で75万円と高額ですが、乗客の半分は感動して、もっとお金を払ってもいいと言う。値上げするほど、むしろ客が増えるような旅なんです。

つまり、客の思いにぴったり合ったサービスを提供できれば、高付加価値・高価格が実現でき、労働生産性の向上が図れる。そして、「客の望んでいること」は、例えば観光なら地方によって違う。それを各地の自治体や民間企業が見極めなければなりません。

求められるのは地方の“自立”

■求められるのは地方の“自立”

―石破さんが熱心に取り組んでいる地方創生につながる話ですね。

石破 日本経済躍進のカギは地方にこそあります。ただ、地方がそのポテンシャルを最大限に発揮するためには、それぞれの地域が“自立”していかなければなりません。

―自立とは?

石破 「お任せ民主主義」との決別です。私が地方創生大臣のときに、自治体の方々から「自由に使える金がたくさんあれば、地方はいくらでも良くなる」といった声をよく聞きましたが、果たしてそうなのか。重要なのは「自由なお金をどのように使うのか」であり、その善しあしはそれぞれの地方で判断すべきです。

やりっぱなしの行政。(行政に)頼りっぱなしの民間。無関心の市民。この“三位一体”がある限り、地方創生はうまくいきません。

―単なる国から地方へのバラマキになる、と。公共事業も含めた「機動的な財政出動」はアベノミクス「3本の矢」のひとつです。

石破 経済が循環するために必要な財政出動は続けます。私の選挙区のある鳥取県から隣の島根県へ行くとして、実は一番早いのは、車や電車ではなく、飛行機で羽田空港を経由して、島根の空港に向かう方法なんです。

―ええ~!?

石破 隣の県に移動するためにわざわざ東京に出たほうが早いというのは、鳥取-島根間の交通インフラが非効率的であることの証左です。こういった状況を是正するような、効果の高い財政出動を行なっていきたい。ビーバイシー(費用対効果)も大切ですが、国土全体のグランドデザインを考えつつ、必要性が高いインフラを厳しく選んでいきます。

―来秋に消費税が10%に引き上げられる予定です。石破さんは安倍首相がこれまで2度にわたって増税を延期したことに対して批判的な立場を取っています。でも、消費増税は、先ほど経済成長のカギだとおっしゃっていた低所得層の消費に、相当な打撃を与えると思うのですが。

石破 でも、所得が上がれば消費税が上がってもいいですよね。

―確かに(笑)。

石破 法人税や所得税は、景気の変動によって税収が大きく振れるので、安定した財源を確保できる消費税が社会保障費の財源となることには合理性があります。

ただし、社会保障関連支出の内容も国民的議論を経て抜本的に見直す必要があると思っています。医療、介護、子育て支援などはサービス産業としての側面も持っている。ナショナルミニマム(国民に保障される最低限の生活基準)として守るべき質と産業として成長する潜在力は両立できるのではないか。所得の向上とともに社会保障費の内容について考えていかなければなりません。

「勇気と真心を持って真実を語る」

■「勇気と真心を持って真実を語る」

―可処分所得が増えれば、国民の理解も得やすいかもしれませんね。

石破 ただ、消費税にはご指摘のとおり、低所得者ほど負担になる、いわゆる「逆進性」があるので、その緩和策は必要です。10%に引き上げの際には軽減税率の導入が決められていますが、いかに中小企業の負担を少なくできるかも考慮する必要があります。

―やはり、石破さんは財政再建を重視していますね。

石破 財政再建も手段であって目的ではありません。目的はあくまでも国民生活の向上です。財政の悪化は将来の国民生活を圧迫しかねないという観点から考慮しなければならないものです。

「人生100年時代」になるのですから、「人生65年時代」に設計した社会保障制度は、抜本的にモデルチェンジが必要です。それには国民のひとりひとりにもできることがあります。例えば、予防医療。生活習慣病などは重篤になってから高額の医療費を使って治療を受けるのではなく、日々の自己管理でも予防できる。

―消費増税はもちろん、予防医療も国民ウケはあまりよくない気がします。

石破 そうかもしれませんが、日本の国民はきちんと真実を語りかければ必ず理解してくださると信じています。このまま推移すれば、わが国の人口は2100年には半分になると予測されている。この事実を見据えた上で、どのように自立心旺盛で持続的に発展する日本をつくっていくのかが問われています。

私が国会議員になる2年前に、渡辺美智雄先生(故人)はこう話されました。

「政治家の仕事はたったひとつ。それは勇気と真心を持って真実を語ること」

この言葉は今も私の目標になっています。

―最後に、読者へメッセージをお願いします。

石破 「政府は、『逃げ切れない世代』のこともちゃんと考えている」と思ってほしいし、それを伝えるのがわれわれの義務です。でも、国を良くする主権者は皆さんです。まずは、投票に足を運んでください。

(取材・文/田中將介 撮影/五十嵐和博)

●石破茂(いしば・しげる)1957年生まれ、鳥取県出身。三井銀行(現三井住友銀行)の行員を経て86年、全国最年少議員として衆議院議員初当選。以来、11期連続当選。内閣では農林水産政務次官(宮澤内閣)、防衛大臣(福田内閣)などを歴任。自民党の政務調査会長、幹事長をそれぞれ2年務める。14年から16年まで国務大臣、地方創生・国家戦略特別区域担当。著書に『国難』『日本人のための「集団的自衛権」入門』(共に新潮社)など。政界随一の鉄道ファンであり、70 年代のアイドルにも精通している