『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、トランプ米大統領誕生の"黒幕"について語る。

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トランプ米大統領誕生の"黒幕"、スティーブ・バノン元米大統領首席戦略官の超ロングインタビュー記事が先日、イスラエルのリベラル紙『ハアレツ』に掲載されました。

アメリカの新極右政治運動Alt-Right(オルトライト)の主戦場となったネットメディア『ブライトバート・ニュース』の元会長でもあるバノンが、2016年の大統領選勝利にいかに寄与したか。そして彼が政権から事実上追放されてから1年たった今でも、トランプがいかに"バノンの世界観"をなぞっているか......。そんな内容です。

記事冒頭には、「"Trumpism(トランピズム)"はトランプ自身とは異なる。実際には"Bannonism(バノニズム)"である」という取材者の言葉があります。トランプの"トランプらしい政策"は、実はバノンが引いた補助線をなぞっているようなものだ、と。

もちろんバノンの言葉がすべて真実であるとの保証はありませんが、彼が恐るべき戦略家であり、一貫したイデオロギーに沿って動いていることは確かです。

例えば、中国との貿易戦争。バノンは大統領選当時から、中国を世界の金融システムから外すことを目指していたと語ります。現状のルールのなかで戦っても、中国は国家資本主義という強みを生かしてルールを逆用してくる。ならば、どれだけ痛みを伴おうとも中国依存をやめ、国家ごと世界の市場から締め上げろ。全面戦争をしたほうがいい。そう言うのです。

対中東にしても同じ。イランを中心としたムスリム世界と徹底的に戦うのだ。そのなかで組むべきは、ユーラシアの覇者ロシアである。バノンはそう断言します。

バノンは物言いが白人至上主義的だとよくいわれますが、それ自体は添え物のようなものかもしれません。彼の中心にあるテーマは「国際秩序の刷新」。そのために、世界最大の超大国の腕力を破壊的に介入させるべきだというのが信念です。そのビジョンは常識的に考えれば狂気の沙汰ですが、トランプが大統領としてこれまでやってきたこととほぼ完全に一致しています。

16年の大統領選については、投票の約2ヵ月前、対抗馬のヒラリー・クリントンがトランプ支持者について"deplorables(デイプロラブルズ/=嘆かわしい人たち)"と発言したとき、勝利を確信したとバノンは振り返ります。

多様性の意識が広がる社会の流れを加速させようとする教養ある女性リーダーが、自分たちを見下した。それを支持するのは東海岸や西海岸の都市部に住む"上澄み"の人たち。このままでは自分たちの生活は取り戻せない――。

バノンはこうした白人有権者の危機感を見抜き、イギリスのBREXIT(ブレクジット/EU離脱)をめぐる国民投票で実験済みだった大衆煽動の手法を流用したといいます。

では、もし仮にバノンが日本の政治を牛耳ろうとするなら、どこに目をつけるでしょうか? それは現状の右派・左派の枠組みではなく、「世代間格差」ではないかと僕は想像します。

日本を停滞させる老害を追い出せ! 若者から搾取する逃げ切り世代からむしり取れ! そんな"真実まじりのデマゴーグ"が現れたら、おそらくロスジェネ世代までの少なくない人々は大いに煽(あお)られる。トランプ現象を冷笑する日本人は少なくありませんが、日本社会にその煽動を乗り越える力はあるでしょうか?

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!