ジャーナリストが危険を冒して情報を発信するからこそ、私たちは遠い世界の様子を知ることができるんです

シリアで武装組織に拘束され、約3年4ヵ月ぶりに解放されたフリージャーナリストの安田純平氏が帰国後初めて記者会見を行なった。安田氏は監禁生活中の様子や現地の情勢などを細かに話した。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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先月下旬に帰国して会見を行なったフリージャーナリストの安田純平さん。自己責任だ、謝れと言っている人たちは、そもそもシリアの情勢なんて日本にあまり関係ないんだし、カッコつけてんじゃねえと思っているのかもしれませんね。

私にとっても、シリアは遠いです。いくら記事を読んでも、はるかかなたの世界の出来事で、なかなか自分と関係があるとは思えない。いくら頭で「ひどい話だな」と思っても、すぐに遠くなってしまいます。

だからこそ、現地の様子を詳しく伝える情報が必要だし、この「遠いなー」感覚をわかっている日本人のジャーナリストが伝えることが大事なのだと思います。「どのように伝えたら日本の人たちにこの出来事を切実に感じてもらえるか?」を、工夫して伝えることができるから。

安田さんが会見で述べたとおり、世界で起きていることは、誰かが現地に行って見て報じなければ「ないこと」になってしまいます。ジャーナリストが危険を冒して情報を発信するからこそ、私たちは遠い世界の様子を知ることができるんですね。

たとえそれがどれほど自分の生活とは関係ないように思えても、ある出来事が「ないこと」になっているのか、「ある」と知っているのかの違いは大きいです。シリア情勢の知識はほかのニュースを理解する上でも必要だし、何より現政権によってこれまでの7年間に50万人以上が虐殺され、1000万人以上が居場所を奪われたり国外に避難を余儀なくされているという重大な人道的危機を何も知らずにいるのはのんきすぎます。

しかしいかに重大な出来事でも、たいていの人は自ら命がけで調べようとは思わないもの。それを敢行する人にはリスペクトしかありません。「自分なら絶対にそんなことはしない、やったやつはバカだ」ではなくて「自分にはとてもそんなことはできない、やった人は私にはとれない大きなリスクをとったんだ」ですよね。

もしも近隣の国で深刻な紛争が起きたら、今、安田さんを叩(たた)いている人たちも、誰かに詳しく報じてほしいと思うんじゃないかな。世界が無関心だったら、「大変なことが起きているんだから気づいてよ!」と思うはず。

いや、そんなときでも彼らは「非常時に危険な地域に入っていってヘマをしたりして政府の足を引っ張るな」なんて言いそうです。万が一日本が巻き込まれても「これは必要な戦いだ」とか言うんだろうな。どこまでも上から目線の評論家気分でいるのでしょう。自宅に爆弾が落ちたり、わが子に召集命令が来たりするまでは。

今はいろんな人がことに乗じてアピールしているから、よく見ておくといいですね。見出しになりそうな発言で人気取りをする人の、なんと多いことか。

●小島慶子(こじま・けいこ)  
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『幸せな結婚』(新潮社)、『絶対☆女子』(講談社)など

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