債務残高は1300兆円! 消費税を引き上げなければ、急激に膨れ上がる社会保障費で「日本の財政は破綻する」というのが財務省の主張だが......

ついに安倍首相が消費税10%引き上げを明言。その増税対策として、「クレカ払いに2%還元」案が出たかと思えば、現金給付案まで出る大混乱。

しかしそこに「今こそ消費税率を下げよ」とさらなる大胆提案で、注目を集める前衆議院議員がいる。既定路線のように語られる消費増税っていったいなんなのか? 日本を立て直すために本当に必要な税って? 

前編では、前衆議院議員で元国交大臣の馬淵澄夫(まぶち・すみお)氏が、「消費税は5%に引き下げるべきだ」と主張する理由として、「デフレから脱却できない状況下での『消費増税』が日本経済に与える悪影響への強い懸念」、そして「消費税そのものが決して『公平な税』とはいえない」ことを挙げた。さらに、消費税に代わる財源は?という問いには、「社会保険料控除」の見直しにより「消費増税分1%から1.5%分に相当する財源が確保できる」と提案した。

■金融所得課税の引き上げ検討を

──馬淵さんの提案は「消費税を8%から5%に引き下げよ」ということですが、ただ、社会保険料控除の廃止で消費税1%分の財源を掘り起こせても、残り「約2%」の財源確保は必要になるはずです。消費税1%分の税収を約2兆円とするなら、あと4兆円分の財源が必要になるんじゃないですか?

馬淵 ほかの代替財源としては「金融所得課税の引き上げ」を検討する必要があると考えています。

現在、株を運用するなどして得た金融所得に対する税率は20%ですが、これは所得税の限界税率が45%なのと比べて非常に低く、結果的に株式運用などの金融取引で巨額の利益を得ている人や企業にのみ恩恵がある税制といえます。

この税率を5%引き上げて25%にすることで国税、地方税合わせて1兆円弱の増収が見込めます。ちなみに欧米ではこの税率が20%から40%と幅があります。

──しかし、景気が上向いてないのに金融所得の増税なんてしたら、アベノミクスで唯一、好調に見える株式市場が落ち込みませんか?

馬淵 ですから、この金融所得に対する増税は、導入するとしても「デフレ脱却後」が前提です。そのためにも今、消費税を上げるわけにはいかないということです。

また、これに加えて、予算の徹底的な見直しによる「隠れた財源」も検討すべきだと考えています。例えば補正予算の財源を見ると、毎年のように1兆円前後の「前年度剰余金」が計上されています。

なぜ「1兆円」もの剰余金があるかといえば、初めから「補正ありき」の非常に保守的な見積もりで予算が編成されているからです。

15年度決算で、会計検査委院が指摘した税金の無駄遣いや、不適切な経理、資金の積み残しだけでも、総額1兆2189億円に上りますから、もっとシビアに予算編成を精査していけば、1兆から2兆円程度の代替財源が確保できるはずです。

馬淵澄夫氏

■日本の財政難は本当に深刻なのか?

──うーん、金融所得への増税はともかく「予算の精査・見直し」については、民主党政権の「事業仕分け」の残念なイメージもあって、あまり期待できない気もするのですが......(汗)。

それにここまで聞いてもなお、「少子高齢化で10%に引き上げてもまだ足りない」といわれる消費増税なしで、1000兆円という莫大(ばくだい)な債務を抱える日本の財政難を本当に乗り切れるのか心配になります。

馬淵 最初にも言いましたが「国の財政が逼迫(ひっぱく)するなか、膨れ上がる社会保障費を賄うには、消費税の引き上げ以外に道はない」というのが、財務省の一貫した主張であり、疑うことの許されない一種の「ドグマ」(教義)のようになっています。

しかし、私はそうしたドグマの前提となっている「借金1000兆円」という数字自体も、一度疑ってみる必要があると考えています。

──どういうことでしょう?

馬淵 というのも、日本政府には負債と同時に、数百兆円規模の資産があります。それらを政府単体の「バランスシート」(貸借対照表。企業などの財政状態を示す表)で見れば、実質的な債務超過額は見かけほど大きくありません。

また、ノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏は昨年3月、内閣府の経済財政諮問会議に出席した際に、日銀を政府が所有する実質的な子会社と見なし、政府と日銀の会計を連結させた「統合政府」として考えるべきだと提言していました。

その場合、日銀が保有する国債は「親会社の債権を子会社が保有している」のと同じですから、連結会計で見れば相殺が可能で、スティグリッツ氏は「政府の債務は瞬時に減少する」と指摘しています。

今や日銀は約540兆円分の国債を保有していますから、これが一気に無効化されれば、その影響は大きい。その場合、債務超過はせいぜい100兆円強だと考える人もいます。

──日本の借金は「1000兆円」なのか、「100兆円」なのか。確かにその考え方次第で、この先必要な財源の規模も変わってきますね。

馬淵 しかも、これが「個人」の借金ではなく「日本政府の借金」だということが重要です。個人であれば、命には限りがあるので「生きているうちに借金を返し切る」というのが前提でしょう。

しかし、日本という国に「寿命」はない。ですから「債務」(借金)というのは将来にわたって必要な公共財(インフラや社会保障制度)のための資金繰りや投資であって、単純に「重荷」や「悪」とネガティブにとらえることではないと思います。

企業でいえば、借り入れにて体制整備や売り上げ拡大のために投資を行なうことは、一般的で適切な行為ですし、無借金経営が必ずしも正しいとは限りません。

また、フローである売り上げやストックである資産に見合う適正な債務というものを的確に把握して拡大を図るのが経営者の責務でもあります。その意味で国の債務の実態と規模について現実的にとらえる必要があると思います。

──日本経済が再び立ち直れたら、借金も「投資」ととらえ直すことができるということですね。うーん......。

馬淵 GDP成長率が目標を達成していけば、債務問題は解決します。ちなみに私は、安倍政権は来年「消費税引き上げ」を結局凍結し、その正しさを問う選挙に持ち込むのではないかともにらんでいます。

──それをやったらまた大勝しそう(笑)。

馬淵 しかし、それはあくまで「政局」の道具であって、後で必ず「消費税引き上げ論」がまた浮上する。なぜなら、財務省にとってこれほど「お手軽」な財源確保の方法はないからです。

いずれにせよ、私たちは一度「消費税を引き上げなければ日本の財政は破綻する」という財務省の「洗脳」から離れる必要がある。その上で、日本の経済を立て直すために何をすべきなのか、本当に「公平な税」とはなんなのかについて考えるべきなのです。

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こうして馬淵氏の「消費税引き下げ論」をじっくり聴いてみたが、本当に引き下げ分の財源を確保できるのか、正直、疑問はまだ残る。ただ少なくとも、「消費増税は絶対に避けられない既定路線」という思い込みからは、今すぐ頭を一度リセットしたほうがよさそうだ。

●馬淵澄夫(まぶち・すみお)
前衆議院議員、元国交大臣。昨年の衆院選に「希望の党」から出馬し落選。現在、政界復帰を目指し「浪人中」の馬淵氏。民主党が与党だった2011 年には消費税引き上げ反対を訴え代表選に立候補するも増税派の野田佳彦氏に敗れている