『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、無所属候補に配慮した選挙ルールの改正を訴える。

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3月末、北海道へ行った。知事選に出馬した野党5党推薦の石川知裕(ともひろ)候補、札幌市議選に無所属で出馬した角田貴美(すみた・きよし)候補を応援するためだ。

街頭で応援演説して感じたことがある。それは地方自治が痩せ細っているということだ。

石川候補が夕張市で演説しようとすると、野党関係者から演説中止の要請があったという。「夕張市長選の立憲民主党候補が鈴木直道前市長(道知事選の自民党候補)の市政継承を公約しているので、同氏と戦う石川氏が目立つのは困る」という事情だったようだ。結局、石川氏は演説を強行したそうだが、これでは選挙戦は盛り上がらない。

統一地方選では、政策論争よりも与野党の党利党略が優先され、有権者は置き去りだ。

そうした地方政治への危機感は札幌市議選を見てさらに強まった。無所属候補が冷遇され、まともな選挙戦ができないのだ。

市議選だから選挙期間は9日間しかない。しかも、公職選挙法で事前運動が禁じられているので、無所属候補は大した活動ができず、有権者になかなか顔や政策を覚えてもらえない。

一方、政党公認候補は知名度がなくてもさほど支障はない。有権者は地方選への関心が低く、候補者名でなく、党名で選んでしまうことが多いからだ。

こうしたことが常態化すると、当選可能な人数だけ主要政党が候補を立て、小さな政党や無所属候補は勝ち目がないからと出馬を見送る傾向が強くなる。

その象徴が"無投票選挙"だ。札幌市の西区でも定数7に対して現職6、新人1の7名(自民3、立憲2、公明1、共産1)しか出馬せず、投票日前に事実上の当選者が決まってしまった。

実際、無所属候補の選挙戦は厳しい。私が応援した角田候補も数々のハンデに苦しめられていた。寒さもあって街頭で演説してもほとんど聴衆に聞いてもらえない。運動員が少なく、演説会の場所取りもままならない。

そのため、組織的に場所取りできる政党公認候補に比べて、一日の演説回数がぐっと減ってしまう。SNSなどの発信も大変だ。撮影スタッフがいないため、演説シーンの動画のアップ回数も少なくなってしまう。

角田候補は市役所勤務29年、英語も中国語もペラペラで、今はビジネスコンサルとして活躍する優秀な人材だ。政党公認を受けられるだけの力量は十分にある。なのに、あえて無所属での出馬にこだわったのには訳がある。

与野党相乗りの札幌市長の下では、議会はオール与党になり、政党間で談合や妥協が繰り返され、地方政治は利権分配の巣窟と化してしまう。29年間の市役所勤めで、その実態をつぶさに見てきた角田候補は「だからこそ、しがらみのない立場で議員になり、市民目線の改革を行ないたい」と無所属を貫いたのだ。

ところが、そんな志の高い無所属候補ほど、当選のハードルが高い。議会に新しい血が導入されなければ、地方政治はさらに痩せ細り、談合政治がますますはびこる悪循環になる。

これではいけない。健全な自治のためにはしがらみのない無所属議員の役割が重要だ。例えば地方選に関しては、一定の費用内であれば、SNSを使った長期の事前活動を認めるなど、無所属候補に配慮した選挙ルールの改正も必要ではないか? それが北海道の選挙を見てきた私の率直な感想である。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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