『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、アメリカの人工妊娠中絶反対運動とトランプ政権の思惑について語る。

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米アラバマ州議会で、人工妊娠中絶をほぼ全面禁止する法案が可決されました(レイプなどによる望まない妊娠でも例外にならず、中絶手術をした医師にはレイプ犯よりも重い懲役年数が科されます)。

ここ最近、アメリカでは保守勢力が強い南部や中西部の各州で中絶を禁じる法律が成立していますが、アラバマの新法はさらに締め付けを強化し、中絶を女性の権利と認めた連邦最高裁の「ローvsウェイド判決」に真っ向から挑戦する内容です。

中絶反対運動を支えるのはキリスト教福音派(通称エバンジェリカルズ)、つまりトランプ大統領の"お得意さま"です(2016年の大統領選挙では、福音派の81%がトランプに投票)。

なかでも強烈なのが、公式メンバーはわずか6人というロビー団体「C-Fam(シーファム/Center for Family and Human Rights)」。

1997年の発足以来、女性の権利剥奪、反LGBTといったキリスト教の伝統的価値観の"不寛容な側面"を政治的主張として繰り広げ、当初は「CAFHRI(Catholic Family and Human Rights Institute)」とカトリックの名を冠していましたが、主張の過激さゆえにローマ法王庁からクレームを受け改名しています。

C-Famの影響力は米国内にとどまりません。例えば、同団体のスタッフがニッキー・ヘイリー元国連大使の事務所にコンタクトを取り、国連で発表する米代表団の文章をチェックして、中絶やLGBTを認めるような文言を削除するよう要求、大使側もそれを受け入れたというケースがあります。

極端な主張をするロビー団体がアメリカの外交政策に介入しようとすること自体が"不適切"ですが、トランプ政権はどういうわけか「ドアを開けていた」のです。こうしたロビー活動を経て、2018年に開かれた「国連婦人の地位委員会」の全体会議以降、国連におけるアメリカの反フェミニズム・反LGBT傾向が強まりました。

C-Famは、こうしてトランプ政権の思惑と合致したことで分不相応なほどのロビー力を持ち、ローマ法王庁の守旧派、正教会を実質的な国教とするロシア、そして「不寛容」という点で一致するイスラム圏のサウジアラビア、スーダン、トルクメニスタン、イラクなどの国々にまで接近。

「GOFF(Group of Friends of the Family)」という組織をつくり、国連での議論を不寛容な方向に引き込もうとしています。

今年4月、紛争地域の性暴力に関する会議でアメリカの代表団はGOFF参加国と結託し、国連の決議文が「レイプであっても中絶は許されない」というニュアンスで読めるようにするための変更を強硬に求めました。

議長国ドイツの代表はこれを拒んだものの、アメリカがこの会議からの脱退までチラつかせたため、結局その主張が通ってしまうという驚くべき事態となりました。

国連を中心とする戦後の国際社会は、(それが方便であるにせよ)アメリカの"良心"によって構築されてきました。しかし今や、そのアメリカが極右クリスチャンのロビー団体を重用し、"良心"を捨てつつある。

トランプの狙いは来年の大統領選で福音派票を固めることですが、そのために世界中(特に非民主国、最貧国)の女性やLGBTが切り捨てられているという図式があるのです。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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