『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、日本のIT教育が世界に大きく遅れをとる現状を嘆く。

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ショッキングなニュースを続けてふたつ、目にした。

ひとつは日本経済新聞が6月28日付で伝えた「高度IT教育軽視のツケ」という記事だ。政府は、プログラミングを2022年度に高校で必修化する。24年度から大学入学共通テストの科目に情報科を導入することも検討中だ。

しかし、現状ではプログラミングを教える情報科の専任教員が不足し、多くの高校が大慌てで採用に乗り出しているという。

高校で情報科が必修科目になったのは03年と、今から16年も前のことだ。なのに、情報科の免許を持つ専任教員を一度も採用したことのない都道府県が13もあるというのだから驚く。

その原因は、やる気のない都道府県からの陳情を受けて、文科省がプログラミングを学ぶ「情報の科学」と、プログラミングを学ばなくてもよい「社会と情報」のふたつのコースのどちらかを履修すればよいという逃げ道を作ったことだ。

2単位の情報科のために専任教員を雇うのは無駄だと、多くの高校が「社会と情報」を選び、数学や理科の教員が片手間に授業を行なうことになってしまった。

これは極めて由々しき問題だ。なぜなら、この15年以上の間、高校生の多くがプログラミングを学ぶ機会を奪われたからだ。これでは、大学でIT分野を目指す学生が増えず、IT人材が不足するのは当然ではないか。

もうひとつのショックなニュースは、やはり日経が6月19日付で伝えた「ICT活用に遅れ 日本の小中教員」という記事だ。それによると、日本で生徒にICT(情報通信技術)を活用した授業を「いつも」「しばしば」行なっている教員は中学校で17.9%にすぎず、調査した48ヵ国中47位だったという。

ふたつの記事は日本のIT教育が、小中高すべてで世界に大きく後れを取っていることを示している。スイスのIMD(国際経営開発研究所)が昨年に公表したデジタル競争力ランキングで、日本はシンガポール(2位)、香港(11位)、韓国(14位)などアジア勢に先行を許し、22位に沈んでいる。今や、AIや5Gなどの先端分野で日本が遅れているのは「常識」だ。

この劣勢を挽回するには高レベルのIT人材がカギなのに、その育成に行政が真剣に取り組んでいないのだから、お話にならない。あとは、高給を払って海外からIT人材を招くしかないが、日本企業の給与水準は低く、海外のIT企業との採用競争に負けているのが実情だ。

このままでは、AI技術で立ち遅れ、日本は将来のあらゆる産業分野で競争力を失う。その意味することは「日本沈没」だ。

総理の胸の内を推し量り、何も言わなくてもおかしなことをしてしまう、官僚の「忖度(そんたく)」が問題になっているが、実はその逆もある。官僚は総理が何かをやれと言っても、それがただのパフォーマンスだと見抜けばまじめに動かない。

「逆忖度」と呼べばよいのだろうか。文科省ではIT人材の育成がそういう扱いをされてきたということだ。今頃になって、状況の深刻さに気づいた安倍政権の失態は致命的と言ってもよい。

安倍総理は、教育分野で最も"政治的エネルギー"を注いできた愛国心の養成や道徳の教科化など「右翼層への受け狙い」はやめて、本気で日本経済復興のための教育行政に取り組んでもらいたい。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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