トランプ大統領の最近の口癖は「法と秩序」。強硬姿勢を貫くことでこれらを回復する強い指導者だとアピールしている

米ミネソタ州で白人警官による黒人男性への暴行死が起きたことをきっかけに、全米に広がった抗議デモ。トランプ大統領は一部暴徒化しているデモの鎮圧に軍隊投入も辞さないと宣言するなど、キナくさい発言をヒートアップさせている。

そのなかで注目されるのはトランプ大統領が「暴徒化の背後に『アンティファ』がいる」と執拗(しつよう)に喧伝(けんでん)していることだ。5月31日のツイッターでは「アンティファを国内のテロ組織に指定する」とまで言いだした。

「アンティファはもともと『アンチファシズム』を意味する社会運動で、米国では人種差別や性差別などに反対する抗議活動のことを指します。ただ、明確な指導者や綱領と言えるものはなく、SNSや口コミで面識のない人々が集まり、右派へのカウンターデモを行なう緩やかなつながりにすぎなかった。

そのなかで時に暴動が起きることもありますが、テロ組織として扱うのは、さすがに無理があります」(米駐在経験のある全国紙外信部記者)

そんなアンティファ叩きに執念を燃やすトランプ大統領の目的はどこにあるのか? 米ニュージャージー州在住で作家・ジャーナリストの冷泉彰彦氏がこう分析する。

「まずは今年11月の大統領選を前に、黒人を中心にしたデモ活動に非難の目を向ける、自身の支持層である右派の白人たちへアピールするためでしょう。

また、トランプ大統領はアンティファという概念を、自身を強く批判するオカシオコルテス下院議員ら民主党の左派を攻撃するための材料として使っているフシがあります。トランプ大統領はツイッターなどで彼らをよく『スカッド』(分隊、チーム)と呼びます。

そこには"共産ゲリラの小部隊"という意味合いがあり、アンティファと同じ主張をしているとレッテルを貼ろうとしています」

一方で、トランプ大統領のアンティファ叩きには、「黒人票を諦めたくないという色気もチラつく」と冷泉氏は話す。

「4月半ば以降に各州で起きた抗議行動『反ロックダウン(都市封鎖)』には貧困層の黒人が積極的に参加していました。ロックダウンにより経済的に痛めつけられている工場、飲食店などで働いている人が多いためです。

この層にはコロナ封じ込めよりも経済活動を優先させようとしているトランプ大統領を支持する人が少なくない。そしてトランプ大統領も最近まで黒人ラッパーのカニエ・ウェストと仲がいいことをアピールするなど、少なからず黒人の票を意識していました。

なので、彼がアンティファをターゲットにしているのは、抗議活動の激化を『一部の暴徒によるテロだ』と強調することで、今回の騒動の根っこにある人種差別という問題から"票になる"黒人たちの目をそらせるため、という側面もあるのでは? その狙いがうまくいっているとは思えませんが......」

やはりアメリカの混迷は、この男が引き起こしているようだ。