『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、注目される新潟5区の選挙について語る。

(この記事は、7月20日発売の『週刊プレイボーイ31・32合併号』に掲載されたものです)

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次の総選挙で、新潟5区を舞台に私の知人同士が議席を争うことになりそうだ。前新潟県知事の米山隆一氏が7月10日に出馬を表明、前々県知事で現職の泉田裕彦衆院議員との一騎打ちが予想されるためだ。

私は米山氏と作家・コラムニストの室井佑月(ゆづき)さんとは以前から交友があり、ふたりの間を取り持つ縁にも恵まれた。一方、泉田氏は経産省の後輩で、机を並べて仕事したこともあるし、知事時代も応援させてもらった。

衆院選で同じ県の元知事同士がひとつの議席を争うケースは珍しい。新潟5区は全国有数の注目選挙区になるだろう。そんな選挙区で知人同士が壮絶な戦いを繰り広げると思うと、いささか複雑な気持ちになってしまう。だが、私情にとらわれても仕方ない。私なりに新潟5区の選挙の行く末を占ってみたい。

まず米山氏。知事就任後、わずか1年半で女性スキャンダルを起こして途中辞任しただけに、当時の米山氏の評価は散々だった。しかし、スキャンダルを起こした政治家の多くが、往生際が悪いのに比べて、潔くスピード辞職したことが傷を浅いものにした。しばらくの謹慎期間を経て、最近は積極的にSNSなどで発信を続け、今ではメディアでも注目の論客となっている。

さらに前述したように、室井さんとめでたく入籍、室井さんがツイッターなどで盛んに「ヨネちゃんって、本当に頼りになるの」などとのろけ交じりでつぶやくこともあって、世間からは「意外といい人なのかも?」という再評価を得つつある。

そんな上昇機運にある米山氏をテレビ、ラジオで人気の室井さんが応援すれば、かなりの得票が見込める。実際、米山氏が出馬を表明するや、新潟県内ではリベラル層や原発反対派などを中心に、ラブコールが起きているそうだ。

一方、3期の知事任期をそつなくこなした泉田氏には大きなスキャンダルはなかった。 

ただ、国会議員になってからの地元での評判はイマイチだ。泉田氏は2017年の衆院選で、「国会議員になって、与党自民の中から原発政策を変える」と主張し、柏崎刈羽原発の再稼働に反対の市民層から幅広い支持を得て初当選を果たした。

だが、その後よりによって自民二階派に入り、自民の中では完全に陣笠議員に。脱原発はもちろん、目立った実績は皆無だ。唯一目立ったのが、先の検察庁法改正案審議のときだが、よく見ると法案そのものにではなく、強行採決に反対しただけ。自民内でもただのパフォーマンスだと批判され、地元に泉田氏への失望感が広がっている。

そこで思い浮かぶのは7月12日の鹿児島県知事選だ。この選挙は自公推薦の現職、三反園訓(みたぞの・さとし)知事が経産OBの保守系新人候補に敗れる波乱となったが、その敗因として三反園知事が川内(せんだい)原発の再稼働反対の公約を守らなかったことが指摘されている。

新潟は03年に住民投票で巻原発の建設が中止になるなど、反原発意識の強い地域だ。そこで米山氏が脱原発を訴えれば、鹿児島と同じように自公推薦候補の敗退という波乱が起きてもおかしくない。

野党が選挙協力を行ない、米山氏を野党統一候補に推せば、新潟5区は元知事同士が与野党に分かれてがっぷり四つで争う超激戦区となる。

秋口解散もささやかれる総選挙。その前哨戦はすでに新潟5区でも始まっているのだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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